そのデータで「医師は無茶苦茶高収入」って主張するのは、さすがに無理があると思うよ ~ 藤沢数希著「コスパで考える学歴攻略法」を読んで2


昨日から紹介しているのは藤沢数希著「コスパで考える学歴攻略法 (新潮新書)」。


この中に「理系は医学部に行くべきか」という項があり、元(笑)医師として興味深く読んだ。

p190~
結論から言えば、日本では医者になる方が得である。第1章で挙げたデータを見返してみてほしい。卒業大学の偏差値が高いほど平均年収も高い、ということを書いた。しかし、その頂点の東大卒であっても日本のサラリーマンの平均年収は700万円程度である。一方、厚生労働省のデータによれば勤務医の平均年収は約1400万円となり2倍も違う。

むむむ、これはどうもおかしい。
医師の年収について、自著「幸せの確率―あなたにもできる!アーリーリタイアのすすめ」から引用する。


勤務医はそれなりに高収入ではありますが、年収で一〇〇〇万円に届かない人も多く、高くてもせいぜいで二〇〇〇万円くらいです。厚生労働省の発表では、医療法人が経営する民間病院の勤務医の平均年収は一五四四万円(二〇一四年度)と、一見するとかなり高額なようですが、それは民間病院の給与が、国立、県立といった公立病院のそれよりも高い傾向があるからであり、勤務医全体でならせば平均額はもっと低くなるでしょう。勤務医の賃金には、初任給は高目だが、その後の伸び率が低いということに加え、月々の医師手当てこそ厚いものの、基本給自体はさほど高くないため、基本給ベースで計算されるボーナスや退職金は低く抑えられてしまうという特徴があり、生涯賃金でみればほとんどの場合で、大手企業のサラリーマンを下回るとされています。勤務医は通常の勤務時間だけでなく、自分が担当する入院患者さんの容態が悪化すれば、たとえ休日や夜間であっても呼び出されますし、当直業務も順番に巡ってくるので、勤務状況はかなりハードです。家庭のために十分な時間を割くことができず、多くの負担が配偶者の肩にかかってくるため、幼い子供がいる場合には、親が同居していたり、近所に住んでいたりして助けてくれるか、あるいは、ベビーシッターを頼むなどしない限り、共働きによってダブル・インカムを得ることは困難です。勤務医というのは、それほどずば抜けた収入が得られる仕事ではないのです。


さらに細かいことを言えば、医師は仕事につくのが一般的な大卒より2年遅い、研修医時代の給料が安い、大学院に進学して博士号をとる人の比率が他業種より圧倒的に多い、といった面もある。
さらに「東大卒であっても日本のサラリーマンの平均年収は700万円程度というのもおそらく間違い。
こちらのデータのほうが信ぴょう性が高い。

転職・就職プラットフォームを運営するオープンワークによると、東京大学の出身者の想定年収は30歳で763.1万円、40歳では1062.7万円となるようです。

藤沢氏もこのデータはもっており、本の序盤で紹介しているのだが、後の章ではなぜか「700万円」の方を繰り返し採用してしまっている。
この辺、あえてドラスティックな方向にもっていきたいという下心もあるのかもしれない(その方が本は売れるので)。
ちなみに医師に近いところで、製薬会社勤務のサラリーマンの平均年収をチェックしてみると、武田薬品工業、中外製薬、第一三共で1100万円前後。
やはり医師の収入が飛びぬけて高いと結論付けるのは、データ不備によるミスリードに思える。
仕事の内容も医師はかなり独特で、例えば、
「1日の診察を終えてそのまま当直に突入。夜中に多くの緊急患者を診察し、一睡もしないまま翌日の診察に突入」
なんてこともある。
また、今は多少改善されたのかもしれないが、僕が勤務医だったころは有給休暇もほとんどとれなかった。特に医師1年目は、丸々1日休めたのは3日程度だったと記憶している(つまり土日も盆正月もなかった)。
勤務医の年収はそれらの過酷な条件によって成り立っているものであり、一般的なサラリーマンと直截に比較するのは難しいのでは? というのが医師として30年間働いた僕の感想だ。

僕は以前から、トップクラスの頭脳をもつ若者には医者など目指さず、できれば情報や工学分野に進み、日本を代表する産業を引っ張っていってほしいと書いてきた。
医者は「そこそこの頭脳」があれば十分務まるので、優秀な若者がこぞって医学部を目指す現状は、日本という国単位でみた場合、大きな損失だと考えている。
(関連記事;僕が今後も日本経済はダメだと思う理由
藤沢氏の言説により、さらに医学部を志す人が増えるようだと、日本の行く先は困難の度を高めるように思えてならない。
影響力のある人にはもう少し発言に慎重であってほしい、と苦言を呈した上で、明日を本シリーズ最終回としたい。



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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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