高収入が幸せに「つながる説」と「つながらない説」。両方の論文は極端な経済状況が前提になっているようだ ~ お金で幸せは買えるのか その2


昨日の続き。
従来、収入による幸福は年800万円程度で飽和すると考えられてきたが、逆に「年収は高ければ高いほど満足度や主観的幸福が増す」という、従来の考えとは真っ向から対立する研究も報告されている。
https://www.pnas.org/content/118/4/e2016976118
このふたつの極端に結論が違う論文をどう捉えたらいいのか、自分なりに考えてみたい。

従来の「年収800万円で幸福は頭打ち」論文へのリンクはこちら。
https://www.pnas.org/content/107/38/16489
まず注目すべきは、これが2010年に書かれたということ。元になる調査は2009年に行われている。
2009年といえば、そう、リーマンショックによる暴落で株価が底を打った年だ。多くの富豪が破産し、人によっては自殺し、多くの庶民が「やれやれ、投資になんて手を出すもんじゃないね」と株式市場を冷ややかな目で眺めていた時期に一致する。アメリカで富裕層が(一時的に)激減した時期にあたるのだ。
そんな中、多くの人は物質的なものよりも、家庭や友情といったお金とは無関係に得られるものに自然と重きを置くようになったことは想像に難くない。
「年収による幸福の飽和度が800万円」という説は、100年に一度と言われた不況の年につくられたものなのだ。
実は僕自身、当時はこの説に大いに同意した。周りをみても、年収が800万円以上の友人が、800万円前後の友人より幸せとは思えなかった(もちろんサンプル数は非常に少ない)。
ところが今の僕の感覚だとどうか?
正直に言うと、年収800万円で幸福度が頭打ちになるわけがないと感じている。
理由のひとつは我が家の生活費がここ10数年でかなり上がってしまったこと。2010年当時は幼稚園児だった長男が今は高校生で、生まれたばかりだった三男は小学校4年生。子供にいかにお金がかかるかを実感している(別に贅沢をさせているわけではないのだが)。

アメリカでは近年、さらに貧富の差が広がってきている。超富裕層の収入はあまりに桁違いで、人々の感覚に大きな影響を及ぼさないように思う人もいるかもしれないが、それは大間違い。
人は家や車といった物質的なものに関しては、「他者との比較」によって幸福を得るようにできている。
超富裕層が超豪邸を建てれば、そのすぐ下の層は自分の家に不満をもつようになる。よりいい家に引っ越せば、さらにその下の層がそれを羨む。
ドミノ倒しのようにすべての資産層で分不相応な地位財への欲求が高まり、結果として人々が自分の収入の多くをそれらに費やすようになってしまった。
いまやサンフランシスコの家賃は、1ベッドルームアパートで月40万円。となれば年間500万円近いことになり、年収が800万円で十分幸せと感じるのは難しい気がする。
これについては1月21日のブログでも書いたので、興味があれば参照してほしい。
https://fire-earlyretire.com/blog-entry-1041.html

以前の「年収800万円で頭打ち」の研究データは2009年の大不況下で得られたと書いた。
一方、新しい報告「8,000万円に達しても頭打ちにならない」とのアンケートがいつ行われたのかについては記載がないが、常識的に考えれば発表された直前にあたる2020年だろう。
コロナ禍の中、多くの生活困窮者が出た年だ。
一方で世界中で大規模な財政支出がなされ、行き所を失ったマネーは資産インフラをもたらした。株価は実体経済をまったく反映することなく上昇し、富裕層にさらなる富をもたらした。
アメリカでの格差が近代史上もっとも広がった年であることを考えれば、高収入の人々はそのことから感謝の念や喜び、さらには幸福を感じやすくなって当然に思える。

というわけでどちらの研究も、いささか極端な経済状況で行われていることに留意したい。
年収800万で頭打ちも極端、とはいえ8000万円でもまったく逓減しないというのも(もちろん端から対数グラフではあるのだが)、やや極端な印象をうける。
明日もこの新しい論文について、考察を続ける。






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鶏肉のファルシ(中にはソテーしたマイタケが)

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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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