「若いうちは高収入から幸福を感じやすいが、それでも収入の指数関数的上昇が必要」とも読める ~ お金で幸せは買えるのか その3


一昨日からの続き。
従来、収入による幸福は年800万円程度で飽和すると考えられてきたが、近年、「年収は高ければ高いほど満足度や主観的幸福が増す」という、従来の考えとは真っ向から対立する報告もなされている。
https://www.pnas.org/content/118/4/e2016976118
この論文について前回、貧富の差が拡大したことの影響、そして特にコロナ禍という、生活困窮者と資産インフレで潤う富裕層とがはっきりと二分化された状況でなされた研究だという点を指摘した。

今日はその他の、この論文の問題点を指摘しておきたい。
まずは幸福度の測定を週単位などのまとまった単位ではなく、その都度その都度リアルタイムで行ったこと。これは被検者が過去の記憶に頼るのではなく、リアルタイムであるほうが正確という判断によるのだが、果たして本当だろうか?
たとえばそれなりに過酷で、緊張を強いられる作業をしたとき。作業の最中に聞かれれば、あまり幸福ではないと答えるかもしれない。
しかしそれを成し遂げて家族と夕食をとった後、その日の幸福度を記載する方式だったとしたら?
そう悪くない一日だったと感じている可能性もある。
どちらが真の幸福度を指すのかは難しいが、人生を長い目で見た場合、むしろ後者のほうが重要なのではなかろか?
つまり新しい論文で試みたより迅速なアンケート手法は、かえって結果を「刹那的な幸福感」に矮小化した可能性があるのだ。

そしてこの論文、よく読むとアンケート対象の年齢の中央値が33歳と非常に若いことに気づいた。
もちろん若いうちは天井知らずの年収に憧れるし、幸福度も高いだろう。「あれ?お金で買える幸せに興味が薄れてきたぞ」と感じ始めるのは、多くの場合中年期以降だと思う。
さらにアメリカでは、大学進学に親からの援助が得にくいのが普通だから、多くの学生が多額のローンを背負って社会に出ることになる。
返済しなければならない借金が多ければ、もちろん収入は多ければ多いほど幸せなはずだ。
この結果を読み解くには、アメリカというかなり特殊な国でなされた、若者を中心としたアンケートである事実を踏まえる必要がありそうだ。

さらにこのグラフでは指数関数で年収が表されている。

pnas2016976118fig01.jpg

コロナ禍で経済的格差が拡大している特殊な経済状況下の調査であってもなお、1000万円から2000万円に年収が増えた幸福を再び得るには、年収を1000万円増の3000万円にするのではなく、倍の4000万円にしなければならない。
さらに同量幸福度を上げるには年収を倍の8000万円に。多くの場合はとても無理だし、できたとしてもかなりの労力が必要とされるだろう。
幸福度を1レベル上げるために膨大な時間を使うくらいなら、その時間を家族や交友のために当てた方がより実りある人生になるような気がしなくもない。

といわけで僕の結論はこうなる。
収入による幸福が年収800万円で打ち止めになるとは、(子供がいる世帯に限定すれば)今のご時世では考えにくい。
特に若い層にとって他人に誇れる年収は幸福につながりやすから、収入が相当額に達した後も幸福感を高める方向に作用して不思議はないが、それでも必要な収入増は指数関数的なものが求められ、コスパの良さには疑問が残る。
ほどほどの収入で満足し、お金や物質以外の事柄に広く関心と愛情を寄せた方が、幸福な日々を過ごせるような気がしてならない。

明日は「そもそも収入の増加で得られる幸せって何だろう」と根本的なポイントに立ち返って考え、このシリーズを終えたい。






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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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