リタイアしたと周囲に告げると、わりとよくうけるのが「一日家にいると、奥さんが嫌がらない?」という質問だ。
妻の方も同様に「ご主人がずっといると大変でしょう」と同情されることが多いそうなので、男女を問わず、「夫婦は適度に距離を置いた方が、妻にとっては快適なはず」と思っている人が多いことがうかがえる。
確かに一日の大半を別々に過ごす生活を続けた後、急に一日中一緒にいることになれば、いくら惚れ合って結婚した(はずの)相手とはいえ体や感覚が変化についていけず、窮屈な思いをするようなこともあるかもしれない。
実際、夫がリタイアすると、毎日、夫のために昼食をつくらなければならないストレスからうつ症状におちいることがあり「昼食うつ病」と呼ばれている。
調査によると夫が働きに出ている主婦が昼食をつくる頻度は約20パーセントで、ほとんどの場合、残り物をつまんだりお菓子の類で代用したり、あるいは友人と一緒にランチに行ったりしてすませているのだそうだ。
しかし夫が家にいるようになると、ある程度しっかりとしたものを作らなければならないため、これが大きな精神的負担になり、場合によってはうつ病を発症するまでに追いつめられることもあるのだとのこと。
リタイアする夫の側は、昼食くらいは自分がつくるか、せめてきちんとしたものは期待しない心づもりでいるべきだろう。
また夫の方にも、急激な変化によるストレスが生じることがあるらしい。
村上龍の小説「55歳からのハローライフ」(幻冬舎)に、アーリーリタイアをした男性が、キャンピングカーを買って妻と旅をしようと計画をしたところ、妻から「自分の時間がなくなるのは困る」と反対され、次第に心を病んでいくという話がある。
その主人公に対し、彼を診察した心療内科のドクターは次のように言うのだった。
“たとえ夫婦や親子でも、その人固有の時間というものがあって、それは他の人間には勝手にいじれないものなんです。会社ひとすじに生きてこられた中高年の男性に多いのですが、そのことに気づいていないケースが案外多く見られます。日本の会社にありがちな、従属と庇護という関係性の中では、他人を、対等な別個の人格として受け入れる訓練ができていないことが多いんですね。誰でも自分の時間を持っているという、気づきですが、それは、人間にとって本質的で、一種の事件なので、人によっては、一時的にですが、精神が不安定になることがあるんです。”
リタイア後に起こりうる男性側の危機について、大いに考えさせられる小説だった。
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僕を含め既婚組は、リタイアする際には配偶者の独自性にしっかりと配慮した上で、新しい関係性を構築するんだというくらいの気概が必要なのかもしれない。
決して簡単なことではなさそうだ。
僕と妻が難なくそれを乗り越えることができているのは、単純に、お互いがまだ若いからだと思う。
年とともに、環境の変化に対応するための柔軟性は、どうしても失われてしまう。その後も続く家庭生活を考えると、リタイアは早ければ早いほどいいのかもしれないよ。
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