サピエンス全史から考える、より幸せな生活への方策 後編


今日は昨日の記事の続きで、サピエンス全史(河出書房新社)、下巻からの抜粋。

農業革命で人類が農耕・牧畜の手法を習得したとき、周囲の環境を整える、集団としての能力は増大したが、多くの人間にとって、個人としての運命はより苛酷になった。農民は、種類の面でも栄養の面でも劣る食料でなんとか生き延びていくために、狩猟採集民以上に働かなければならなかったし、病気になったり、搾取されたりする危険も格別に増した。同じように、ヨーロッパの諸帝国の拡大は、思想やテクノロジー、作物を伝播させ、新たな交易の経路を切り拓くことによって、人類全体としての力を大幅に増進させた。だがこれも、膨大な数のアフリカ人やアメリカ先住民、オーストラリアのアポリジニにとっては、とても吉報とはいえなかった。

人生を分刻みで逐一査定すれば、中世の人々はたしかに悲惨な状況にあった。ところが、死後には永遠の士風が訪れると信じていたのならば、彼らは信仰を持たない現代人よりもずっと大きな意義と価値を、自らの人生に見出していただろう。なにしろ、現代人ははるか先を見通したときに、なんら意義を持ちえない完全な忘却しか期待できないのだから。

幸福という観点からいえば、厚い信仰心の貢献度は確かに大きそうだ。
そして話は現代社会の幸福に移る。

家族やコミュニティは、富や健康よりも幸福感に大きな影響を及ぼすようだ。緊密で協力的なコミュニティに暮らし、強い絆で結ばれた家族を持つ人々は、家族が崩壊し、コミュニティの一員にもなれない(もしくは、なろうとしたことのない)人々よりも、はるかに幸せだという。(中略)
以上から、過去2世紀の物質面における劇的な状況改善は、家族やコミュニティの崩壊によって相殺されてしまった可能性が浮上する。

だが、何にも増して重要な発見は、幸福は客観的な条件、すなわち富や健康、さらにはコミュニティにさえも、それほど左右されないということだ。幸福はむしろ、客観的条件と主観的な期待との相関関係によって決まる。
(中略)
幸せかどうかが期待によって決まるのなら、私たちの社会の2本柱、すなわちマスメディアと広告産業は、世界中の満足の蓄えを図らずも枯渇させつつあるのかもしれない。もしあなたが5000年前の小さな村落で暮らす18歳の青年だったら、自分はなかなか器量が良いと思っていただろう。というのも、村には他に男性が50人しかおらず、その大半は年老いて傷跡や皺の刻まれた人たちか、まだほんの子供だったからだ。だが、あなたが現代のティーンエイジャーだとしたら、自分に満足できない可能性がはるかに高い。同じ学校の生徒は醜い連中だったとしても、あなたの比較の対象は彼らではなく、テレビやフェイスブックや巨大な屋外広告で四六時中目にする映画スターや運動選手、スーパーモデルだからだ。

ほとんどの男性は、穏やかな至福を味わいもせずに、あくせくと働いたり、気を揉んだり、競い合ったり、戦ったりして一生を送る。というのも、彼らのDNAが自らの身勝手な目的のために、彼らを操っているからだ。

このあたりはかなりの記載が、僕が書いた2冊の本と重なる。共に幸福学のデータをもとに書かれているのだから、当然だ。
しかしここで著者はこれらを考察した上で、下のような一文を紡ぐ。

それならば、幸福は人生の意義についての個人的な妄想を、その時々の支配的な集団的妄想に一致させることなのかもしれない。

うまい! 衝撃的ですらある。
幸福というものの一面を、ここまで端的に表現するとは。

前述したように、確かに中世ヨーロッパにおいては、キリスト教の教えに従い、天国行きを半ば心待ちにしながら現世を生きることは、幸福につながったはずだ。
「天国なんて本当にあるのかな?」
などという懐疑的な思想をもっていたら、厳しい労働に耐えることはできなかったかもしれない。
しかし、実は本当に天国があるかどうかなんて、よくわかっていないのだということになれば、信仰による幸福は一気に瓦解する。
現代においても、少し前までは経済の発展、物質的な豊かさが幸せにつながると信じられていた。しかしフロンティアを巻き込みながらの資本主義社会の発展は、グローバリズムがアフリカまでをも含有しつつある今、ある程度の停滞を余儀なくされる可能性がある。
農業革命は幸せにつながらなかった。産業革命も、IT革命も、グローバリズムも、種としての繁栄には重要であったが、個々の幸福度には(おそらくは)ほとんど寄与していない。
一部の人は明確に、多くの人はおぼろげながら、そのことに気づきつつある。支配的な集団的妄想が、再び大きく崩れ落ちようとしているのだ。

となれば、現代人には新しい幸福論が必要になってくる。
僕自身、その輪郭をつかもうと試行錯誤しているところだ。




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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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