年と共に変化した旅のスタイルについて考える


少し前に家族で沖縄旅行に行ったと書いた。これが僕にとって人生初のパッケージツアーだった。
その時の記事から引用する。
https://fire-earlyretire.com/blog-entry-1108.html

パッケージツアーなるものを自分で利用したことは、今までに一度もない。
若い頃はいわゆる「バックパッカー」で、いろいろな国をゆっくり、低予算で回るのが好きだったから、パッケージツアーのようなお仕着せのやり方を馬鹿にしているところがあった。
しかし今回は日数が短い。それに子連れの旅だと、旅自体に手がかからないほうが子供たちとの時間をしっかりと過ごすのには適しているかも、と考えた。
というわけで僕にとって初の沖縄旅行は、初のパッケージツアーにもなった。

これを書きながら、「若い頃はバックパッカーで、ある程度年をとったらパッケージツアー」という発想は、少し安直にすぎやしないかという気もしたが、それと同時に、旅のスタイルなんて自由気ままでいいじゃないか、と開き直る気持ちもあった。
そんな中、先日、たまたま本棚にあった沢木耕太郎著「旅する力」を手に取ったところ、以前読んだときは気に留まらなかった興味深い記述があるのに気づいた。


p302
やはり旅にはその旅にふさわしい年齢があるのだという気がする。たとえば、私にとって『深夜特急』の旅は、二十代のなかばという年齢が必要だった。もし同じコースをいまの私が旅すれば、たとえ他のすべてが同じ条件であったとしてもまったく違う旅になるだろう。
残念ながら、いまの私は、どのような旅をしても、感動することや興奮することが少なくなっている。すでに多くの土地を旅しているからということもあるのだろうが、年齢が、つまり経験が、感動や興奮を奪ってしまったという要素もあるに違いない。

p305
かつて、私は、あるインタヴューに答えて、旅をすることは何かを得ると同時に何かを失うことでもあると言ったことがある。しかし、齢を取ってからの旅は、大事なものを失わないかわりに決定的なものを得ることもないように思えるのだ。
(中略)
以前、日本の六、七十代の高齢の方たちがヴェトナムを団体で旅行しているところを見かけたことがある。これはとても楽しそうな風景だった。私も、もう少し齢を取ったらああいう旅行をするのもいいなと思ったくらいだった。
しかし、二十代を適齢期とする旅は、やはり二十代でしかできないのだ。五十代になって二十代の旅をしようとしてもできない。残念ながらできなくなっている。だからこそ、その年代にふさわしい旅はその年代のときにしておいた方がいいと思うのだ。

前述したように若いころはいろいろな土地を、ひとりバックを担いで気ままに旅をした。
あれは30年以上前、確かタイの片田舎だったと記憶している。僕が泊まったゲストハウスの食堂に、浴衣をいかにも涼しげに着こなし、団扇を優雅に使う初老の日本人男性の姿に気づいた。
僕はといえばバック・パッカーの定番、Tシャツとジーパンという無粋な恰好だったから、旅先で日本的な装いに身を包むのは、いかにもクールにみえた。
しかし同時に、そんな小道具まで持ち歩けば荷物がかさばり、フットワークの軽い旅は難しいのでは、という気がしたし、何より、僕が彼くらいの年齢になったら、こんな安宿ではなく、気の利いたホテルに泊まれる身分になっていたいな、という否定的な感情も湧いてきて、我ながら少し意地が悪いと反省した。
しかし実際に沖縄で初めてのパッケージツアーを体験し、また、旅の達人である沢木耕太郎氏の文を読み返した今、若い時分にタイで感じたあの違和感は、あながち的外れなものではなかったのかも、と思えてきた。
結局、人にはその年齢に合った場所や形がある気がする。気持ちが若く体力があれば、齢をとっても何でもできそうなものだが、それが傍からみて不自然に映るのは、やはりどこかで無理が露呈しているのだろう。

たぶん僕はもう、若い頃のような旅はできない。
良くも悪くも経験値が上がった以上、感動の閾値も上がったし、残された人生の期間を考えれば、時間もあの頃より貴重だ。年々、人と知り合うのも億劫になってきた。
金はなく、その代わり時間は売るほどあり、何より経験に飢えていたあの頃の感覚を今でもぼんやり記憶はしていても、そのままの姿で取り戻すことはできない。
もちろん一抹の寂しさはある。若さや無軌道さに焦がれる思いもなくなはい。
でも気張って変化に抗うのではなく、その時その時、自分にしっくりくる旅のスタイルを、今後も素直に受け入れていこうという気持ちになった。

そしてもちろんそれは旅のみならず、人生一般に当てはまるに違いない。



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沢木耕太郎氏の自伝的旅小説「深夜特急」。お薦め。




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沖縄土産の紅芋タルト。
他社のものは簡単に手に入るが、御菓子御殿の製品は沖縄県内でも入手が難しい。

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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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