これを書きながら、「若い頃はバックパッカーで、ある程度年をとったらパッケージツアー」という発想は、少し安直にすぎやしないかという気もしたが、それと同時に、旅のスタイルなんて自由気ままでいいじゃないか、と開き直る気持ちもあった。パッケージツアーなるものを自分で利用したことは、今までに一度もない。
若い頃はいわゆる「バックパッカー」で、いろいろな国をゆっくり、低予算で回るのが好きだったから、パッケージツアーのようなお仕着せのやり方を馬鹿にしているところがあった。
しかし今回は日数が短い。それに子連れの旅だと、旅自体に手がかからないほうが子供たちとの時間をしっかりと過ごすのには適しているかも、と考えた。
というわけで僕にとって初の沖縄旅行は、初のパッケージツアーにもなった。
p302
やはり旅にはその旅にふさわしい年齢があるのだという気がする。たとえば、私にとって『深夜特急』の旅は、二十代のなかばという年齢が必要だった。もし同じコースをいまの私が旅すれば、たとえ他のすべてが同じ条件であったとしてもまったく違う旅になるだろう。
残念ながら、いまの私は、どのような旅をしても、感動することや興奮することが少なくなっている。すでに多くの土地を旅しているからということもあるのだろうが、年齢が、つまり経験が、感動や興奮を奪ってしまったという要素もあるに違いない。
前述したように若いころはいろいろな土地を、ひとりバックを担いで気ままに旅をした。p305
かつて、私は、あるインタヴューに答えて、旅をすることは何かを得ると同時に何かを失うことでもあると言ったことがある。しかし、齢を取ってからの旅は、大事なものを失わないかわりに決定的なものを得ることもないように思えるのだ。
(中略)
以前、日本の六、七十代の高齢の方たちがヴェトナムを団体で旅行しているところを見かけたことがある。これはとても楽しそうな風景だった。私も、もう少し齢を取ったらああいう旅行をするのもいいなと思ったくらいだった。
しかし、二十代を適齢期とする旅は、やはり二十代でしかできないのだ。五十代になって二十代の旅をしようとしてもできない。残念ながらできなくなっている。だからこそ、その年代にふさわしい旅はその年代のときにしておいた方がいいと思うのだ。
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内山 直
作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。
「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。