ユニバーサル・マスキングと ドイツからの報告~新型コロナウイルス

恒例のフィナンシャルタイムズHPより。
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この4カ国は本当に仲がいい(笑)。

ただし規制の状況はまったく違う。
とっくにロックダウンを解除したしたドイツとイタリア。
ロックダウン解除の影響がそろそろ出るであろうフランス。
まだほぼロックダウン状態のスペイン。
新規患者数の推移は同じというのがとても奇妙だ。

5月27日のブログで、僕はドイツの状況をこう書いている。

緩和が一番早かったのはドイツ。
5月6日に全店舗の再開を許可した。
とはいえ、まるっきり自由というわけではない。
道端でも店の中でも人との距離を1.5メートル以上空けることを求める「接触制限」が設けられているし、公共交通機関を利用する際や買い物でのマスク着用が義務付けられている。
これら規制によるドイツ人の不自由感は相当なものらしく、反対デモが各地で起きているそうだ。
なんにせよ緩和開始後3週間たった今でも、感染拡大再燃の兆しがないのは興味深い。
(中略)
となれば新型コロナウイルスの感染拡大防止策は、
「相応の自粛は必要だが、ロックダウンまでは必要ない」
という推論が導き出せる。


冒頭でグラフで示したように、ドイツではその後も順調に新規感染者数が減ってきている。
対数グラフでみてほぼ一直線の減少ということは、実効再生産数が1以下、かつほぼ同一のまま推移していることを意味する。
つまりロックダウン終了後も、ロックダウン中と同じペースで新規感染者数が減っているのだ。

引用にもある通り、僕は今までも、「ロックダウンまでは必要ない」との見解を述べてきた。
しかし、「ロックダウンに効果がない」わけがない。
現にドイツでは3月22日にロックダウンが始まり、その約2週間後をピークに新規感染者数が減少に転じている。
であればロックダウン解除後、いくらマスクとソーシャルディスタンスが義務付けられたままとはいえ、新規患者数の減少率に多少の陰りがみえるはずなのだが、それがない。
なぜだろうと首を傾げていたのだが、先日、その答えらしきものがみつかった。
ドイツ在住日本人ジャーナリストによる、4月8日の記事から抜粋する。

ロックダウンが発令されるとものすごく暗く厳しい生活が強いられるようなイメージがあるかもしれません。しかし、実際には、私が住む西ドイツの州では殺伐とした雰囲気はなく、特別な外出を控える以外には比較的平和な日常を送っています。
ロックダウン中でも、街中でマスクをしている人を見掛けることはあまりありません。

https://halmek.co.jp/culture/c/ccolumn/2118#head2

なんとロックダウン解除前にマスク装着が法律で義務付けられるまで、買い物や散歩といった外出時にほとんどの人はマスクをしていなかったのだ。
であれば答えはひとつ。

新型コロナウイルスにおいて、「マスク装着」は「マスク装着なしのロックダウン」と同等の感染防止効果がある。

としか考えられない。
僕が今まで書いてきた、「最大のファクターXはマスク」説が裏付けられた気がする。

韓国、中国、台湾は日本同様マスク文化。
東南・南アジア諸国では、かぜ予防ではなく大気汚染の問題から、国民はマスク装着の習慣があった。
これがあっという間に感染爆発が起きた欧米諸国との一番大きな違いであるように思える。

しかし、それだけで説明がつかないのが、オーストラリアとニュージーランドだ。
すぐれた政策(早期の国境閉鎖と感染者の追跡能力)が大きいとは思うが、これに関しては交差免疫説も念頭に置いておきたい。
逆にBCG説はこの状況に矛盾する。


そのBCG接種がらみでドイツから興味深い報告。
6月10日放送の「ミヤネ屋」にリモート出演したドイツ在住の医師、村中氏が、
「ドイツではBCG説はすぐに一蹴された」
と語っていた。

日本でBCG説を支持する多くの人が挙げていたのがドイツでの感染状況だ。
東ドイツはBCGワクチンのソビエト株を、西ドイツは西欧株を使用し、1998年に接種の義務付けを中止している。
旧東ドイツ地域で感染率が低く、旧西ドイツ地域で高いのは、この差によるのではないかというものだ。
それに対し村中氏は、
「最初の感染の多くは休暇先のスキーリゾートから持ち帰ったものだった。ドイツでは地域によって休暇の時期がずれるので、ちょうどそのタイミングだった西ドイツで感染が爆発したにすぎない」
と解説していた。
僕は同様のことを5月30日のブログで書いているが、ドイツ在住の医師からもお墨付きをもらえたようだ。

日本人が、
「ドイツの東西での感染状況をみれば、BCG接種の有効性に疑う余地はない」
というのは、ドイツ人が、
「日本の東北地方の状況をみれば、飛沫の飛びにくい東北弁ではウイルス感染が起きないことがわかる」
と大真面目で言っているようなものなのだ。
もちろん岩手県で感染者がいないのは東北弁のためではない。
「わんこそば」が原因と考えて間違いなかろう。

当事者であるドイツで一蹴されたBCG説が、極東の島国でここまで盛り上がったのはなぜか?
その理由は大体わかっている。

要は「パズルとしての複雑さ」が適当だったのだ。
BCG接種の有無だけでなく、過去の接種や株の違いといった要素がある。
また、BCG接種による肺炎予防効果、といった論文もある。
(医者の目からみればつっこみどころも多いのだが、そこは素人にはわからない)
加味しなければならない要素の塩梅がよく、偶然とはいえ、推理パズルとしてもっとも楽しい難易度に仕上がったのだ。
自分がパズルを完成させてみせる、と意気込んで勉強しているうちにサンクコスト効果が生じ、正しいと思い込みたくなる。
さらにSNSで発信でもしようものなら、「間違っていたと思われたくない」という新たな認知バイアスが加わり、否定的な意見は一切受け付けなくなる。
本人も気づかぬまま、1信者の出来上がりだ。
馬鹿にしているのではない。人とはそういうものなのだ。
自我の主な役割は自己正当化にある(もちろん僕も含めて)。
「因果関係」と「相関関係」の違いがよくわからない、すなわち、あまり科学的な作業に携わったことがなく、かつIQが110~120くらいある層が見事にトラップされた印象だ。


最後に、こんな記事を紹介する。

マスクの着用によって新型コロナウイルスの感染拡大を40%抑えられることが、ドイツの調査で示された。この調査はドイツ国内でマスク着用が奨励された地域での感染実態を基にまとめられた。
ボンの労働経済学研究所(IZA)が発表した論文によると、人口10万8000人のイエナは他の都市よりも早く4月6日に公共交通機関や商店でのマスク着用を義務付けたところ、今では新規の感染がほぼゼロになった。イエナより数日、あるいは数週間遅れてマスクの着用方針を採用した他の地域の多くでは、新型コロナの感染拡大が続いた。
同調査はイエナと人口構成や医療システムが似ている市町村の住民を加重平均で調整し、このグループとの比較で、イエナの感染動向が4月6日を境にどう変化したかを分析。論文によれば、マスク義務付け以降にイエナで確認された新規感染例は同グループより25%少なかった。この差はドイツの大都市との比較ではさらに顕著だという。
マインツ大学のクラウス・ウェルデ氏ら論文の執筆者は、新型コロナ感染拡大の防止策としてマスクは非常にコスト効率が高いようだと指摘した。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-06-12/QBT87TT0AFB501

マスクの効果を数値化したという点において、興味深いデータだ。
それぞれの都市で具体的な実効再生産数がどうだったのかを知りたいところだ。
マスク教の1信者として(笑)、今後のさらなる論証を見守りたい。
そして今後、「ユニバーサル・マスキング」なる言葉が広く知られることになるだろうと予言をしておく。


以上、ドイツからの報告3点を踏まえた今日の結論。
やはりマスクは大切! 屋外はともかく、屋内でのマスク装着率をなんとか100%に近づけられないものだろうか?
そして「日本人はBCGを打っているから安心」と言ってマスクを拒否する人が減ってほしいと願っている。

予告してきたとおり、いよいよ明日はコロナシリーズ最終回。
書きたいことはまだまだあるのだが僕もいささか疲れたし、読者の皆さんはとっくに飽きているはず(笑)。
明日はこの病気の「実際の致死率」を世界に先駆けて解明する。

などと大風呂敷を広げて、本当に僕に書けるのだろうか?


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タイ風海老サラダ。これは日本酒。

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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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