記憶障害患者に本人は覚えていない出来事について尋ねると、どんな返事が返ってくるだろうか?


――作話――
人間がいかに理由をでっち上げ、かつ自分でそれに気づかないでいるか、という話の続き。
今日は海馬という脳の部位が損傷を受けた人での実験について下記書籍から紹介する。


p170~
「海馬」という脳部位がある。海馬という脳部位が損傷を受けた患者さんを見ると、興味深いことがいくつかわかる。
海馬は記憶をつくる場所だ。だから海馬が作動しないと記憶が形成されない。でも、それ以外の脳機能は正常だ。
(中略)
さて、海馬が損傷されて記憶ができない患者さんでテストすると、やはり作話が見られることがわかる。担当医が来て手を差し出して握手をしたとしよう。この患者は<握手をした>という記憶は残らない。何分かで消えてしまう。
そこで、握手するときに、手に小さな電気ショック機を隠しておいて、握手した相手をビリビリと刺激してみる。イヤなことするよね。(中略)
不意を突かれて刺激を受けた患者さんは「何をするんですか」と怒るんだけど、でも、やはり、数分ですっかり忘れてしまう。
さて、その患者さんが再び診察に来たとき、「握手しましょう」と同じ医者が手を差し出すと、患者さんはイヤがる。刺激されたこと自体はまったく記憶にないけれど、でも、とにかく握手はしたくないんだ。
そこで質問をする。「どうして握手をしてくれないんですか」と、すると患者は「手を洗っていないのです。手が汚れているから握手しては失礼だと思って……」などと答えてくる。つまり、自分の感情の根拠を、自分がアクセスしやすい記憶に落とし込んで、説明をつけてしまう。
これも事実を知っている僕らから見ると、滑稽なこじつけに思えるけれど、やっぱり本人はいたってマジメ。間違った帰属推論に何の疑問もはさまずに真剣に話している。
もちろん、彼らの言動を笑ってはいけない。僕らも同じように、いつも歪んだ主観経験の中を生きている。単に、その推論に論理的矛盾が生じない限り、「自分はウソをついている」ことに気づかないだけのこと。
(中略)
日常生活の中では、僕らは「自分がウソつきである」ことに気づくチャンスは少ない。だって行動や感情の根拠が不明瞭だからこそ「作話」するわけでしょ。
そして根拠が不明瞭である以上、裏を返せば、作話した内容が「間違っている」ことを立証することは難しい。そもそも、真の理由がわからないから作話したのであって、だから、もはや、作話内容を「真実」と照合して、検証するなんて叶わない望みだよね。
そんなわけで僕らは「本当は自分が道化師にすぎない」ことを知らないまま生活している。根拠もないくせに、妙に自分の信念に自信を持って生きている。

池谷氏が実に丁寧に説明してくれているので、僕から付け足すことは何もない。
僕らだってこの被検者同様、「間違った帰属推論に何の疑問もはさまずに真剣に話している」道化にすぎないのだろう。
ここまで読んで、「なるほど、人間が滔々と述べる理由なんて、実に適当なものなんだな」と納得してくれた読者も多いだろうが、中には
「分離脳とか海馬損傷とか、一般の脳とは異なる特殊例の話では?」
と訝しく思う人もいることだろう。批判的意見は、もちろんウェルカムだ。

というわけで、明日は一般人での実験を紹介する。



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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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