僕らはみんな「ウソばかりついていて」かつ「自分では真実と思いこんでいる」


昨日までは分離脳および海馬損傷患者での実験を例示し、僕ら人間が常日頃からいかに嘘ばかりついているかを説明した。
しかし中には、
「分離脳や海馬損傷というのはそもそも一般の脳とは異なる特殊な話では?」
と訝しく思っている人もいることだろう。
というわけで、今日は脳障害がない一般人での実験を紹介する。

まずはこの本から。


p102~
買い物客に四つのパンティーストッキングを見くらべてもらい、もっともいいものを一つ選ばせた。すると、右端のストッキングを選ぶ傾向が強いことがわかった。ところが、なぜそれを選んだか尋ねると、「それが右端にあったからだ」と答える人はいなかった。ストッキングの品質を理由にあげる人が目立ち、織り方や感触などを詳しく説明する人もいた。しかし、あいにく四つのストッキングはまったく同じものだった。

嫌な実験だなあ(笑)。
この実験のミソは、被検者たちが真剣に「自分はその理由で選んだ」と考えている点。やはり僕ら人間は意識することなく理由をでっちあげ、それを本当だと信じ込んでいるようだ。

続いては池谷裕二著「脳には妙なクセがある(扶桑社文庫)」から。


p307~
ガルディ博士らは、本人が「まだ決めていない」と信じていても、その人の自動メンタル連合を測定すれば、すでにどちらに決めているかが当てられるといいます。自動メンタル連合とは、物や言葉に対する反射のことです。
実験では、イタリアの小都市ヴィチェンツァで、アメリカ軍基地を拡張する政策に関する意見を、住民129人に聞いています。この政策に関しては、当時メディアでも賛否両論入り乱れていました。
実験とはこんな具合です。目の前のモニターにさまざまな映像や単語が現れます。そこで、映されたものが、「良いもの」だったら左のボタンを、「悪いもの」だったら右のボタンを押してもらうのです。できるだけ素早く正確にボタンを押すのがポイントです。
モニターには、是か非かがはっきりと別れる単語(幸運、幸福、苦痛、危険など)に交じって、アメリカ軍基地に関係した写真が提示されます。そこで、ボタンを押すまでの反応時間と判断ミスの頻度を測定します。
(中略)
そんな実験を行って、思考の連合癖を調べておけば、当人が「まだ賛否を決めかねている」と感じていても、最終的にどちらの支持に回るかを、事前に高確率で予測できることがわかりました。基地の写真を見たときに、どう反射するかを知ればよいのです。
重要なことは、決断をする本人より先に、試験を行った研究者に、将来の解答がわかるという点です。つまり、本人は無自覚だけれども、無意識の世界ではすでに賛否を決定していると言えます。
もうひとつ重要なことは、自動メンタル連合によって現れる傾向は、本人の意識にあがる信念とはほぼ無関係だったという点。つまり、基地拡張に意識の上では好意的であっても、潜在的には快く思っていないということもあるわけです。この場合には、無意識の姿勢が最終判断に反映されやすいことがわかりました。
(中略)
さらに面白いことに、決断後に「どうしてアメリカ軍基地拡大に賛成したのですか」と訊くと、「現在のイタリアやアメリカの政況や外交を考えると……」などと、自信満々に理由を創作するのです。後付けの屁理屈にすぎないのですが、本人はそれが本当の理由だと確信しています。
本当は潜在意識のなかですでに決まっているのです。ニュースに接したときにどう感情反応するかは、当人の知識や過去の経験によってすでに決まっているのに、理由を問われたとき、誰一人として「ただの反射です」と答える人はいません。人は自分の行動の意味を、本人のあずかり知らないところで偽造する癖があるのです。

すなわち「作話」ということになる(個人的にはコロナ禍におけるマスクやワクチンに関するいささかヒステリックな論争を思い浮かんだ)。
どの実験においても非常に興味深いのは、本人に作話している意識はまったくないという点。同じことが僕らにも日常的に起きていると考えると、怖くなってこないだろうか?
人間は「圧倒的な妄想と錯覚」の中で、実は脳のゆらぎに操られるように生きているにも関わらず、自分では確固たる自我を持ち、自由に生きていると勘違いしている可能性が高いようだ。

明日は「ダメ押し」でさらなる実験を紹介する。
僕は書いていて楽しくてしょうがないのだが、肝心の読者の皆さんが飽きていないことを祈る(汗)。

シリーズ1回目から読みたいという方はこちらから。
https://fire-earlyretire.com/blog-entry-1155.html


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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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