熟練した瞑想者たちが実感する「思考」の正体とは


「作話シリーズ」、今回が最終回。
ここまでは実験の数々によって、人間が理由を説明するとき、その多く(あるいはすべて)が作話なのだろうと書いてきた。今日はそれを別の角度から掘り下げる。
瞑想の達人、小池龍之介の著書から、瞑想が進んだ状態での「思考」について紹介したい。


この心の中に発生するいろいろな考えと見解は、自分で作っているものではなく、それゆえ自分のものでもない。前項ではそう記しましたけれども、実際に考えが生じてくる瞬間に、本当はどうなっているのかをこまやかに観察してみない限りは、なかなか納得しがたい真実であるのは確かでしょう。
(中略)
私たちにとって、優しくて気配りもできると、大変に良い印象を与えている、Aさんという知人がいたと仮定します。そして私たちの家族や友人といった身近な存在がもしも、「Aさんって、良い恰好したいだけの嫌な人だよね」と批判をして、同意を求めてきたとしましょう。
すると、ほとんどの場合、Aさんの弁護をしたくなる思考と見解が、心の中に反射的に湧きあがってくるのではないでしょうか。(中略)
その場合、その見解は私の見解と言えるのでしょうか? なにぶんにも、これから、「私なる者」が、「私の意志により」、そのような見解を作って、相手の意見を訂正する発言をしよう、と計画する暇などは、まったくもって金輪際、なかったはずなのですからねぇ。
つまり、何をどう考えるかについて、脳の中の意識の座が介在する余地はまったくないままに、脳の中で思考を司る領野が先に処理して自動生成した見解を、意識の座は事後的に受信しているだけなのです。
(中略)
であれば、相手の言に対して「不快」を感じているのは「私」の選択ではなく、扁桃体の自動的な振る舞いにすぎません。相手がいい終わりもしないうちに、「いや、でもAさんにも良いところがあるんだよ」と言いたくなるのも「私」の選択ではなく、Aさんについての知識や体験や好悪が原因となり、Aさんへの悪口を聞くことが条件となって、原因と条件がより合って、自動発生しているだけ。
マインドフルでないと、それらの原因と条件による自動的発生にすぎないものを、「私の作った、それゆえ私の大切な考え」と勘違いしてしまうので、手放せなくなるのです。
十分な集中力と、平静さと観察力とを鍛えながら、己の思考・見解が自動生成するありさまに、気づきを向け観察してみること。そうするなら、この刺激も考えも、脳の各所で自動生成して送信されてくるにすぎず、私の作品でも私のものでもないから、ドウデモイイヤー、と力を抜いてスルーできるようになるでしょう。
かくして、あらゆる見解は力を失うのです。


「あらゆる見解は力を失う」。実に迫力のある文言だ。
小池氏のみならず、多くの熟練した瞑想体験者が
「今まで自分が確固としたものとして捉えていたような『自己』あるいは『自我』は存在しない」
と感覚的に理解するようになった、と話している。まさに釈尊の説いた「無我」に該当しそうだ。
座禅でもヴィパッサナーでもマインドフルネスでも手法は(おそらくは)どれでもいい。高い集中力を保ちながら心を静かに見つめることによって、少しずつ自分自身をも欺く錯覚のからくりが見えてくるはず。
釈尊は2500年前に瞑想によって無我の境地にたどり着いた。
僕のような凡人に達成が難しいのは間違いないが、釈尊の時代と違い、現代では前回までに紹介した科学的知見が蓄積されている。「自我は錯覚」と理屈では知りうる僕ら現代人にとって、瞑想で悟りに近づく道のりは昔より比較的容易なのではなかろうか?(あくまでも『比較的』。簡単なわけがない)
自我の儚さを理屈としてではなく、実感として捉えることができれば、世界の見え方がドラスティックに変わるはず。そんな日がくることを祈りつつ、僕は毎日1時間以上、座布の上で座って過ごしている。

「作話」シリーズ、最後までお付き合いいただき、感謝。
(シリーズ1回目から読みたいという方は下リンクから)
https://fire-earlyretire.com/blog-entry-1155.html



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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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