“経済学者、ロバート・フランクによって提唱された、人間のもっているものを地位財・非地位財の二つに分けて考えるやり方を紹介しましょう。ここでいう「もっているもの」とは、お金や服といった物質的なものだけではなく、地位、名声、健康、愛情といった形のないものも含まれます。
地位財とは、「周りとの比較により満足を得るもの」と定義され、資産や社会的地位の他に、家、車、高級な服といった所有物を指すのに対し、非地位財は「他人との比較とは関係なく幸せが得られるもの」のことで、健康、自主性、自由、愛情などを意味し、物質的なものは含みません。
研究によると、両者とも人を幸せにすることに変わりはないものの、地位財による幸福感は比較的すぐに消えてしまうのに対し、非地位財による幸福は長続きすることがわかっています。つまり、持続的な幸福のためには、お金や車、高級な服といったものに対してこだわりを持つことよりも、自由を満喫したり、人とのつながりや愛情に感謝したりすることのほうが重要だというのです。
そもそも、なぜ人間はより多くの地位財を得ようと四苦八苦するのでしょうか?
人間を含め、基本的に生物は子孫を残すことを目指して生きています。そういった欲求のない生物は、種として栄えることができず、すぐに滅びてしまうわけですから、現在でも繁栄している我々には、そのような欲望が不可欠だった、と考えれば合点がいくことでしょう。
よりよい配偶者を得て、子孫を残すためには、他者との競争に打ち勝たなければなりません。たとえあなたが自主性や愛情に溢れた素晴らしい人だとしても、それを他人から簡単にうかがい知ることはできませんが、もし、高価なブランドの品をいくつももっていたら、金回りがいいようだと容易に判断してもらえることでしょう。つまり、非地位財よりも地位財の方が、客観的評価を得やすい分、異性の獲得に有利に働くわけです。
極端に言えば、あなたの遺伝子(本能と言ってもいいでしょう)が欲しているのは、ある程度あなたが生き延びることと、子孫を残すことであって、あなたの生涯が幸せかどうかなど、知ったことではないのです。
美しい、あるいは優秀な配偶者を獲得したりするために、高収入を目指したり、素敵な洋服で着飾ったりすることが悪いとは言いません。むしろ、若い間はある程度そのようなこともあっていいでしょう。しかし、遺伝子の意向に振り回されて、いつまでも地位財を求めるような生き方を続けると、非地位財で得られる持続的幸福を十分に味わうことがないまま、人生を終えることになるかもしれない、ということは知っておいたほうがよさそうです。
このように現代の科学的知見からも、むやみやたらと欲望の実現を求めることは、決して得策ではないことがわかります。“
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内山 直
作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。
「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。