新型コロナ感染拡大で子供を登校させるのが怖い親御さんへ、元医師からのアドバイス。



この夏、新型コロナ感染は拡大し、第9波となっている。
これまでの波で最多の感染者数になることが予想されるが、今年5月に感染症としての位置づけが2類相当から5類に変わり、学校での感染防止マニュアルも変更になったため、学校での感染拡大や学級閉鎖が止まらない事態になっている。
「ほとんどの人がマスクをしなくなったのにこの程度?」
と揶揄する人もいるようだが、現在、国民の抗体保有率が50%を超えると予想される中、感染者数は過去最大なのだから、やはりマスク着用率の低下を始めとした行動変容の与える影響が大きいのだろう。
子供は大人より重症化率は低いとされるが、それでも重症化する、あるいは死に至る懸念はあるし、学習障害を始めとしたコロナ後遺症(ロング・コヴィッド)を懸念する向きも多い。

最近、
「感染が拡大してもマスク再着用の機運が広まらず、学校に行かせるのが怖い」
という相談を受けるようになった。
2類相当のころとは違い「感染防止」を理由に挙げても、「出席停止・忌引等」にしてもらえず欠席扱いになることが増えているとのこと。となるといくら自宅で勉強をがんばっても内申点は下がり、進学に悪い影響が出てしまう。
新型コロナは怖い。でも希望校に挑戦したい……。
そこで、元医師であり、また2人の児童をもつ親として、
「どうかけあったら学校に感染防止策を施してもらえるか」
について書いてみる。

感染防御の観点からいえば望ましいのは皆が再度マスクを着用すること、すなわちユニバーサル・マスキングが最適だ。
これについて、僕は2020年の春から繰り返し主張してきている。
ユニバーサル・マスキングとは? 僕がもっとも有効と考える新型コロナウイルス対策
しかし現時点でこれが可能かといえば、答えはノーだ。
ワクチン接種が広がり治療が洗練化したことにより、新型コロナ罹患による致死率はかなり減少した(とはいえ、まだインフルエンザよりずっと怖いのだが)。世の中には、「マスクをするくらいならコロナに感染したほうがまし」と考える人の割合が増えてきていて、もはやこの声を無視することはできない。
現に、現在の「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル」には、
「学校教育活動においては、児童生徒及び教職員に対して、マスクの着用を求めないことが基本となります。」(p5)と明記されている。
この状況下で学校に、
「マスク着用の積極的推進を」
と訴えても意見を通すのは難しいし、場合によってはモンスター・ペアレント扱いされてしまう可能性もある。
そして、もし担当する教師や校長が内心ではマスク着用によって学校内の感染を抑制したいと考えても、今度は反マスクの考えをもつ児童や保護者から猛反発をうけてしまうことだろう。
「文科省の通達には着用を求めないとあるじゃないか! 越権行為だ!」
そうねじ込まれることを考えると、マスク着用推進に再度舵を切ることは非常に困難と考えるしかなさそうだ。

では感染を恐れる保護者は内申が悪くなること覚悟で欠席させるしかないのか?
いや、手はある。本当に細い糸のような手だけど、あるにはある。
ここから僕が考える、「今、保護者にできる最善のこと」、そして、実際に息子たちが通う中学校にかけあって成功したやり方を紹介したい。

まず、感染したくない側は必ずマスクを着用すること。
そして学校側に伝えるべき「最優先事項」はこれから述べる3つだ。

下ふたつの資料を持参用にプリントアウトしてほしい。
学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル
学校保健安全法施行規則の一部を改正する省令の施行について

最初に手に取ってほしいのは、「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル」。ここには3つのうち2つのポイントがある。
さきほど、このマニュアルがあるから学校はマスク再着用推進が難しいと書いた。
しかし逆に、このマニュアルには感染抑制に非常な有効な方法も記載されており、そこを徹底してもらうだけでかなりの効果が期待できるのだ。
まずはp3からの「3.換気の確保」

① 常時換気の方法
気候上可能な限り、常時換気に努めます。廊下側と窓側を対角に開けることにより、効率的に換気することができます。なお、窓を開ける幅は 10 ㎝から 20 ㎝程度を目安としますが、上の小窓や廊下側の欄間を全開にするなどの工夫も考えられます。また、廊下の窓を開けることも必要です。

とある。
2方向からの常時換気は感染性エアロゾルを滞留させないために非常に有効だ(1方向では効果は限定的)。
そもそも新型コロナウイルスの主な感染経路は「飛沫」と「エアロゾル(人によっては空気感染に含める)」で、接触感染は少ないと考えられている。
飛沫は直径5μm以上の粒子のこと。大きく重いので空気中には長く浮遊せず、すぐ落下して感染性を失うし(飛距離1m程度)、万が一飛んできても自分がマスクをしていれば捕捉され、感染をうけにくい。
(厳密にいうと微妙に違うのだが。興味がある方は下の記事を読んでほしい)
新型コロナウイルスは「空気感染」するの?

一方でエアロゾルは気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子と周囲の気体の混合体のことで、粒径は分子やイオンとほぼ等しい0.001μm程度から花粉のような100μm程度まで約5桁にわたる広い範囲を指す(ただし新型コロナウイルスの大きさは0.05μm ~ 0.22μmまでなのでこれより小さいエアロゾルは気にしないでいい)。
これがやっかいで、小さい分マスクの隙間や網の目から侵入できるし(もちろん、ある程度はカットできる)、飛沫と違ってすぐに落下しない分、長時間、教室内を浮遊し続ける可能性があるのだ。
2020年の感染拡大初期、「三密」を避けろとの啓蒙がなされたのは記憶にあると思うが、そのひとつ、「換気の悪い密閉空間」は、エアロゾル感染の発生要因になっていたことになる。
このエアロゾルは換気によって屋外に放出することができる。新型コロナの感染、特に大規模クラスターはほぼ屋内で起きているのはこのためだ。
「マスクで防ぎやすくすぐ落下する飛沫、マスクで防ぎにくく滞留するエアロゾル。しかしエアロゾルは換気で逃がすことができる」
そう考えれば、感染を嫌う児童がマスクを装着している場合、換気の有無で感染リスクが大きく変わると理解できるはずだ。
残暑の厳しさもあってか、1方向だけのおざなりの換気しかしていないケースが多いようなので、しっかりと確認してほしい。

このマニュアルからは、もう1点。
「感染流行時」に限っての話だが、

会食に当たっては、飛沫を飛ばさないように注意することが重要となります。(p9)

とある。
飛沫を飛ばさずにしゃべるのはまず無理だから、これは事実上の「黙食」と考えていいだろう。
上述したように飛沫はマスクである程度ブロックできるが、マスクを外した昼食時は無防備になる。
「黙食の有無」はこれまた、非常に重要なのだ。

このマニュアルにはほかに多くのことが書かれているが、上記2点が飛び抜けて重要で、他の対策は比較的効果が小さい。
学校側の理解をえやすくするためにも、マニュアルからはこの2点に絞り、付箋を貼って手渡した上で、
「これは文科省からの通達です。もし十分に実施されずクラスターが発生した場合は、学校側の重大な過失になりますよ」
と(優しく)加えれば、学校側も本気にならざるをえないはず(と、期待している)。

さて、3つのうち最後のポイントについては、「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル」から離れ、「学校保健安全法施行規則の一部を改正する省令の施行について」に移る。

出席停止解除後、発症から 10 日を経過するまでは、当該児童生徒に対してマスクの着用を推奨すること。(p3)

個人差はあるが、5日間の隔離期間後も感染性ウイルスが排出されている可能性はかなり高く、実際に多数の感染が報告されている。
ところが現在は、「隔離期間は5日」の文言ばかりがひとり歩きして、その後も5日間のマスク着用が推奨されていることは、意外と見落とされている(厚労省からの新型コロナウイルス 療養に関するQ&Aにもしっかり記載されているのだが)。
学校側もわかっていないケースがあるようなので、ぜひ念を押してほしい。
ただし最初に書いた通り、学校側は「マスクの着用を求めない」ことになったので、強い規制は期待できない。
「隔離解除後も5日間はマスク着用が推奨されていることを知らない児童や保護者も多いでしょうから、通達にあるとおり、ぜひ先生のほうからもお声がけしてくださいな」
という程度の言い方が無難だろう。
なお、息子が通う中学校ではこの後、全職員・児童に対しマスク装着が「推奨」となった。
感染で辛い思いをした児童に、一々「10日間はマスクがいるからね」と告げるより、「全員マスク」としたほうが指導する立場としては心理的に楽だったのでは、と邪推している。

というわけで、
学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアルにある
「常時2方向での換気」、
「(流行時のみ)昼食時の黙食」、
および、「学校保健安全法施行規則の一部を改正する省令の施行について」や「新型コロナウイルス 療養に関するQ&A」にある、
「発症後10日までマスク着用などの配慮を」
の3つの重要項目。
この3つさえしっかり学校に実施してもらえば、児童がマスクで身を守れる可能性がぐっと高くなる。
逆にいうと、この3つが実施されない環境では、マスクの感染防御能力は限定的と言わざるを得ない。

ご理解いただけただろうか?
好むと好まざるとにかかわらず、現在、国は感染拡大抑制から経済優先に舵をきっている。
そして「マスクなんて見るのも嫌だ」という意見の人にも人権はある(個人的には弱者のために皆が少しずつ我慢してほしいと思っているが……)。

そんな中、個人として、親として戦うにはどうしたらいいか。
このやり方が「ギリギリのライン」だと僕は考えている。

(一部内容について、湘南の父さんからご指摘を頂き、加筆訂正しました。多謝!)

9月10日追記;
学校側が意図的にノーマスクに舵を切ろうとしている場合、新型コロナ後遺症のひとつ、ブレインフォグについて説明してみてほしい。教職員の皆さんは意外とわかっていないことも多いので。
2022年、当時長男が通っていた高校の教諭に感染抑制策の不備を指摘したところ、最初は「若者は重症化しないのに、何を大袈裟な」という対応だったのが、ブレインフォグについて説明したとたん、態度が一変した経験がある。
(日経サイエンス記事 コロナ後遺症 脳神経への深刻なダメージ"



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ちなみに僕、内山直は元医師で、2016年に47歳でアーリーリタイア。
本を出したり、こんなブログを書いたりしながら、地方都市で妻、3人の息子たちとゆるゆると生活している。ついでに自著の宣伝をば。


アーリーリタイア(早期リタイア)そのものや自由度の高い生き方に興味を持つ人に対し、幸福学や心理学の学術データを用いて、真の幸せとは何かと問いかけると共に、ファイナンシャル理論や行動経済学の観点から、必要な蓄財・運用術をできるだけわかりやすく紹介している。
生存率・貯蓄率・満足率・リスクリターン率という4つの「率」から、生涯を通してみた「幸せの確率」がどうすれば上がるのかを考察し、アーリーリタイアにひとつの答えがあるのではないか、とのアイディアを提起している。 停滞を始めた現代の資本主義社会で生きる我々が真に幸せに生きるにはどうすべきなのかを問う、新しい生き方の指南書……のつもり。


幸せに生きるための行動術や思考法を、幸福学、医学、心理学、哲学、伝統仏教といった幅広い分野から選び出し、その中から特に重要で比較的簡単に実行できる28のアイディアを紹介した。
毎日1つ、5分程度で読める分量の記事を読み、その内容を意識しながら1日を過ごすことによって、4週間後には幸福度の高い生活スタイルが身についているという、画期的な実践書……のつもり。

つもりばかりで恐縮だが、機会があればぜひ手に取ってみてほしい。


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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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