伊集院静という作家が好きだ。特に古いエッセイが好きで、時折本棚から引っ張り出しては眺めている。
以下は「時計をはずして(文春文庫)」より抜粋(残念ながら現在は絶版)。
“初めてスキー場に行ったのは、二十歳の頃だ。私はアルバイト先の社長と12月の31日に志賀の湯田中の駅前で待ち合わせをした。昼過ぎに湯田中の駅に着いた。大雑把な社長で、31日に湯田中の駅前でな、と言われた。何時に来るのかもわからなかった。その頃は半日くらい人を待つのは平気だった。しかし辛いことがあった。腹が空いていた。昨日の午後から、私は何も食べてなかった。ポケットの中には50円玉しかなかった。野球部を退めたばかりで、食欲も今と違って旺盛だった。”
最初は「なんて無茶な約束を」と思ったが、すぐに自分だって似たようなものだったと思い返した。
まず頭に浮かんだのは、タイのバンコク。
30年近く前の話で、僕は20歳を少し過ぎたころだった。
最初は友人と一緒に行こうか、という話になったのだが、日程がうまく合わない。
友人も僕もバックパックにはまっていて、どうせ行くのなら1日でも長くいたいというタイプだったから、ぴったり同じというスケジュールが組めないのだ。そこでそれぞれが日程を別に組んで、タイミングがよさそうな日に安宿街であるカオサンロードからすぐのマクドナルドで待ち合わせることにした。
時間は「夕方くらい」という、アバウトな決め方だったと記憶している。異国の地で本当に落ち合えるのか不安だったので、友人の顔を見つけたときは心底ほっとした。
もちろん携帯電話なんかなかった時代だ。
宿だって、日本から取れるようないいホテルにはそもそも縁がなく、到着後、安宿街を歩きながら決めていたから、友達と落ち合うとしたらそういったやり方しかなかった。
同じようなことを、メキシコでもした。このときは日にちさえ決めることができなかった。
メキシコシティに〇〇という、日本人のたまり場になっている(らしい)安宿があるから、8月の始めあたりにそこで会おう、ということだけ決めて、春先に別れた。
この友人ともきちんと会えたら、考えようによってはお互いに律儀なものだ。
伊集院氏によるこのエッセイはその後食堂に入り、50円で食べられるライスだけを頼んだら、お店の女の子が小皿に乗せた福神漬けをサービスで持ってきてくれた、という展開になる。
うれしかっただろうなあ。うまかっただろうな。
そして当時からモテてたんだろうなあ、と少しやっかむ。
最近は皆、忙しすぎるように僕の目には映る。
昔はもっと時間がゆっくりと流れていたのに、などといったら、浅薄なノスタルジーに聞こえるだろうか?
あの時代にタイムスリップして、たまにはどこかの路地裏で文庫本でも片手に、友の訪れを半日くらい待ってみたいものだという気もしなくもない。
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