皆さんはピーク・エンドの法則という言葉を聞いたことがあるだろうか? 行動経済学者、ダニエル・カーネルマンによって1999年に提唱されたもので、あらゆる経験の喜びや苦痛は、そのピーク時と終了時で決まるとされている。
我々はコンピューターのように、正確に体験を記録するわけではないし、過去の出来事を均等に思い起こすわけではない。記憶に大きく作用するのは、経験のピークとエンド、すなわち絶頂部と終わりの部分であり、その他の要素、例えばその出来事がどのくらい続いたかといったことは、ほとんど無視されてしまうのだそうだ。
実際にダニエル・カーネルマンは次のような実験を行っている。
① 痺れるほど冷たい水に両手を60秒浸す。
② 痺れるほど冷たい水に両手を60秒浸した後で、同様にとても冷たいが、少しは温度が高い水にさらに30秒浸す。
苦痛の総量でいえば、もちろん②のほうが大きい。しかし被験者である学生に、「どちらの経験ならもう一度してもいいか」と尋ねたところ、②を選ぶ人が8割を超えたのだそうだ。
この場合、ピークの苦痛は同じだが、エンドの苦痛が少ない分、②のほうがましな経験としてインプットされたということになる。
実生活での記憶においても、ピークの高さが大きな意味を持つことに関しては、今さら言うまでもないだろう。体験から得られる感動が大きければ、その分いい思い出になりやすい。
終わり方の重要性はピンと来にくいかもしれないが、映画やドラマに当てはめれば簡単にわかるはずだ。たとえ序盤から中盤にかけて盛り上がったとしても、それに続く後半の場面が退屈なら、作品の印象も今ひとつということになってしまう。
もちろん制作する側もそんなことは百も承知だから、ストーリーの終盤で見せ場をつくったり、最後にオチを用意したりするというわけだ。
そのような事実を踏まえれば、幸せな思い出を残すためには、「ピーク」をできるだけ良いものにするのに加え、「エンド」を盛り上げればいいということになる。
まあまあの楽しさが長期間続き、最後が尻つぼみになるような経験は、幸福感の積分量が大きいわりには、いい記憶として残りにくいようだ。
意識して「エンド」を高める
この法則を実際に生活で応用してみよう。
絶頂を高めるのは、やろうと思ってできることではない。でも、最後をより良く締めくくるのは、さほど難しいことではないはずだ。
誰かと会う機会があれば、別れ際は極上の笑顔で締めくくろう。せっかく楽しい時間を過ごしても、最後が愉快なものにならなければ、あなたが相手に残す印象はかなり減点されてしまうし、あなた自身だって記憶をいい形で残すことができず、長い目で見た場合の幸福感を損なってしまうことになる。
今日1日、それぞれの行動の終わりを、しっかりと充実させてほしい。
会話の最後の一言。食事なら最後の一口。昼休みの最後の5分。その場を去る時や、人を送り出す時の挨拶。
となると、いくつかの重要な言葉が浮かび上がってくる。「さようなら」、「いってらっしゃい」、「ごちそうさま」、そして「おやすみなさい」だ。
これらの言葉はいずれも、ある行為を終えるか、あるいは、その後しばらくの間、相手と離れ離れになるタイミングで使われる(同じ部屋で寝れば『おやすみ』の後も物理的には一緒だが、もちろん意識は離れてしまう)。
だから、これら4つの言葉を口にする時は、可能な限り上機嫌でいよう。それが習慣づけば、自分自身が幸せになるだけでなく、周囲からの好感度も高くなるというわけだ。
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内山 直
作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。
「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。