5日目 楽観的でいれば幸福になれる
前回は健康状態を楽観視することの意義について書いたが、その他のことに関しても、楽観的な人のほうが総じて幸福度が高いことがわかっている。さらに健康状態もよく、寿命も長いそうだ。
また楽観的な人は、様々な分野でその道のプロとして成功しているケースが多い。これは楽観主義のおかげで意欲的になり、より難しい目標に向けて挑戦し続けるためだと考えられている。
今日は楽観的になる方法について触れたい。
まずは「トム・ソーヤの冒険」の著者として有名な作家、マーク・トウェインの言葉。
「私は人生の苦難を味わってきたが、実際に起きたのはほんの少しだった」
本当にその通りだと思う。
僕らは日々、大げさな想像によって勝手に不安に陥っているだけで、ほとんどのことは杞憂に終わっているのだ。
たとえばこの1週間、いくつの悲観的な未来があなたの頭をよぎったのか、そして、そのうち実際に起きたのはいくつあったのかを数えてみてほしい。ほとんどの懸念はあなたに不安定な感情をもたらしただけで、実際に降りかかりはしなかったはずだ。
このことさえしっかりと理解できれば、悲観的な思考によって苦しむことが、いかに馬鹿馬鹿しいかがわかる。
ただ僕らの問題は、そうとはわかっていても、つい悲観的になってしまうということ。
生存のためには、あらゆる疫災に備えていたほうが有利なのは確かだから、悲観的でいることは種の保存にとってプラスに働く。永い間繁栄を続けてきた人類には、そのような習性が遺伝子レベルでインプットされているであろうことは、想像に難くない。
しかし、いくら生存に有利であったとしても、幸福という観点から考えれば悲観癖はマイナスだ。
以前、心をポジティブで安定した状態に保つための神経伝達物質、セロトニンについて書いたが、この量を調節しているのがセロトニントランスポーターと呼ばれるたんぱく質で、日本人の多くは働きが弱い型のセロトニントランスポーター遺伝子を有していることがわかっている。残念なことに、悲観癖は僕らのお家芸なのだ。
では、遺伝子プログラムに逆らって、楽観的になるにはどうしたらいいのだろうか?
ひとつには、笑うこと。笑うことの効用はこの本の最初のほうで述べたが、気持ちを楽観的にする作用があることも知られている。
だから、もしあなたが以前の記事によって、微笑みを習慣づけることに成功しているのなら、今の時点で多少は楽観的になっているはずだ。
また、脳科学分野では、「物事は記憶しなければならない」という思い込みを捨てることにより、楽観的になれるとされている。
幼少時から記憶学習の大切さを叩き込まれてきた僕らは、そもそも忘れることに対して抵抗があるし、人から受けた恩義を忘れるようなことがあれば、後々の不義理につながりかねない。しかし記憶にこだわると、嫌な出来事から解放されにくくなり、悲観的な傾向を強めてしまうのだそうだ。
どうしても必要なことは、メモを残せばいい。そして、どんどん忘れよう。「忘れてはいけない」の呪縛から解き放たれることによって、楽観回路が働き出し、気持ちが楽になっていくはずだ。
老化による記憶力の低下も、同様の作用をもつ。物忘れが増えるのは決してうれしいことではないが、実はそれによって楽観的になり、幸福度は上がることがわかっていて、「高齢化のパラドックス」と呼ばれている。
「忘れても別にかまわない」と懐を深くすることは、大きく幸せに寄与するのだ。
意識して楽観的でいよう
楽観的でいようと、常日頃から意識することも大切だ。
先ほど述べた通り、遺伝子から悲観的になるようにとの指令を受けているのだと考えれば、楽観の側にとどまるには、感情のままに流されるのではなく、その場でしっかりと足を踏ん張らなければならないということになる。
このことを指摘したのが、哲学者のアラン。世界3大「幸福論」のひとつに数えられる著書(岩波書店)の中で、
「悲観主義は気分のものであり、楽観主義は意志のものである」
と述べている。
というわけで、今日は以下の3点に注意しながら過ごしてみよう。
笑うこと。
忘れるのを恐れないこと。
そして、意識して楽観的であろうとすること。
それでも悲観的な考えが頭をもたげてきた時には、上述したマーク・トウェインの名言を思い起こしてほしい。大丈夫! それはまず起こらない。
楽観的であることによって、どれだけ気分が軽くなるのかということを、実感できる1日にしてほしい。
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内山 直
作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。
「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。