なぜこのような現象が生じるのかについて、本書から再度引用(こちらは一部意訳)次のような経験はないだろうか。
朝、ちょっとした嫌なことが起きると、家のテレビで流れる悪いニュースばかり目に入るし、人と会っても相手の嫌なところばかり目につくような気がする。家に帰ってきた後もその日にあったネガティブな記憶ばかりがはっきりと思い出され、どんどん落ち込んでしまう――。
(中略)
このように、人は自分の今の気分に沿って物事を記憶したり、思い出したり、判断したりする傾向がある。これを気分一致効果と呼ぶ。
この負のループを避けるには、それなりのコツがある。この効果が生じるメカニズムについては、いくつかの説明が存在し、最も有名なものとしてネットワーク活性化仮説がある。
ある人が悲しい気分になったとする。すると、その人にとってその「悲しい気分」と結びついた頭の中の概念が活性化される。この活性化された概念やそれに近い物語の内容は、処理が促進され、よく記憶されることになる。
(気持ちが落ち込んだときに)大切なのは、そこから一気にポジティブな気持ちにもっていくのではなく、少しずつ気持ちを切り替えることにある。
失敗によって、気持ちが過度にネガティブになっている時は、その部分にしか目が行かなくなっていることが多い。視野狭窄に陥りながら、マイナスの感情を連鎖させ、自分自身を必要以上に追いつめてしまう。
そんな時は大きく深呼吸をして、思考を自分の失敗から少しだけ逸らしてみよう。考えを向ける先が愉快なものであれば、より効果的だ。
あるいは「確かに失敗だったけど、得るところはあったよな」、と冷静に現状を分析してもいいし、「以前も同じように落ち込んだけど、じきに立ち直ったじゃないか」、と過去の類似体験を引っ張り出してきてもいい。そうやって、少しずつ視野を広げることが重要なのだ。
さらに、「これはゲームであり、自分はその中のプレイヤーにすぎない」と想像するやり方もある。それによって感情よりも策略が優先され、大局的な視野に立つことができるというわけだ。
これは決して単なる一時凌ぎや、現実逃避ではない。憂鬱な気分の時、思考にどっぷりとはまり込むことさえ避ければ、それがすべてを台なしにするような悲劇ではなく、今までの人生に何度もあった、些細なトラブルのひとつに過ぎないと気づくことができる。この気づきこそが肝心なのだ。
そのようなコツさえ知っていれば、強引な切り替えなどしなくても、思考はネガティブから中立へ、そしてポジティブな方向へと、ゆるやかに舵がきられていき、ひとつしかないはずの現実が、まったく違うものに見えてくることだろう。
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内山 直
作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。
「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。