二日酔いについて ~ 伊集院静の研究2


11月24日、肝内胆管癌で亡くなった伊集院静氏が40歳代のころ、週刊文春で連載していた「二日酔い主義」から氏の生き様を紹介している。僕自身、もちろん伊集院氏ほど破天荒ではなかったものの、周囲との折り合いがつかず、酒に逃げることも多い時期だったので、共感し、ときには大いに励まされたりもした。
(なんだ、僕よりもっとひどいのもいるじゃないか)
という感じ(失礼)。
2回目の今日のテーマは連載のタイトルにもなっている「二日酔い」

1994年だから伊集院氏は44歳。この2年前に直木賞を受賞し、同年、女優の篠ひろ子さんと3度目の結婚をしている。

ひどい二日酔いである。
手足がしびれたままで起き上がれない。
天井は球形にふくらんでいて、今しも上の階の家具やら人やらが身体の上に落ちてきそうな錯覚に襲われる。
右手が背中の下にはさまったまま取れない。
おまけに何がくやしかったのか、背中の下の左手を握りしめたまま寝ている。背中の真ん中がズキズキ痛んでしようがない。ひょっとして縛られているんだろうか。
ベッドと壁の間の床に、あおむけでいるから、ここが自分の家かどうか不安になってきた。
顔を上げようとしたら、胃の中から酒が出てきた。
これじゃ人間のかたちをした酒壜が床に転がっているようなもんだ。
(中略)
「ねぇ、リビングに誰か知らない人が寝てますよ」
いきなり背後で家人の声がした。
「男の人? 女の人?」
「男に決まっているでしょう」

居間へ行くと、編集者のO君が放心状態の顔をして座っていた。
「君、何時来たの?」
「夜明け方ですが……」
「ひとりで来たの」
「何も憶えていないんですか」
O君はじっと私の顔を見ている。
「何かあったっけ?」
「酒場で一緒だったじゃないですか」
「そう……」
訳がわからないのと頭痛で、頭がぐちゃぐちゃになってきた。
(中略)
風呂場へ行って、水風呂をはった。中に入ると鳥肌が立った。喉が渇いたので湯舟の水を飲んだ。気持ちいい。
――この湯舟の水、全部飲んでやろう。
ひと飲み、ふた飲み、ウッ、ヤバイ。湯舟の中に昨日の酒とツマミがあふれ出た。ピーナッツなんか、ほとんど嚙んでない。黒いのは海苔かしら。そうそう鮨屋へ行ったんだ。それにしてもゲロの海だね、これは。


翌、1995年。

ひどい二日酔いである。
正確に言うと三日酔いで、三日前の朝方にドロドロになって帰宅してからまる一日起きられずに、吐いたり下痢ったり、目を覚ましてすぐ倒れたりを繰り返していた。夢の中でも二日酔いで唸ったりしていた気がする。疲れもあったのだろうが、丸二日横になったままだった。
ようやく起き上がれるようになった三日目の夜明け、風呂に入ったらまた吐く始末でどうしようもなかった。

話を戻すと、ともかく少量の酒で酔っ払ってしまうようになったわけです。
おまけに時間の観念がなくなっちまったらしい。二日酔いでMママに電話する。
「昨夜何時まで飲んでたかな」
「5時よ、5時に店を出たの」
「どうして早く帰れって言ってくれなかったのかね?」
「何言ってんのよ。表へ出た時に、まだ夕方じゃないかって言ったのはそっちでしょうが……」
――失礼しました。
その上二日酔いがひどい状態になっている。一日倒れたままである。朝方家に戻って床で寝るケースがほとんどで、そこでそのまま夕刻までふやけている。

今日の症状は吐けない。結論が出た。なら治療法を変更。電話だ。
「すみません。湯麵と麻婆豆腐丼」
相手は私の声でわかるらしい。
じっと台所の椅子に座る。十分もしないうちにインターホンが鳴る。ドアを開けて階段を上がってくる出前を待つ。
「二日酔いですか」
「他に何があるの? ご苦労さん」
「あのお代を……」
「やっぱり取るか」
「えっ」
湯麵と麻婆丼を交互に食べる。吐きそうな時にはこれがいい。荒療治だが、この手で何度も切り抜けてきた。


1999年、50歳近くなっても落ち着かない。

ひどい二日酔いである。
朝方、目を覚ました時、部屋の天井が揺れていた。
――こりゃ、重症だぞ。
と目を閉じて、もう一度眠ろうとしたら、いきなり胃の奥から突き上げるように、吐き気がした。イカン、トイレに行かねばと立ち上がろうとしたが、身体が痺れて言うことをきかない。
「洗面器と新聞紙」
と声を上げたつもりが、センヘンヒ、シンフンフィとしか耳に届かない。なんだか自分が終わってしまった気がした。
ベッドから転がるように落ちて、トイレまで這って行った。便器に顔を埋めて、のどの奥に指を入れたが、グェッ、グェッとアヒルみたいな奇声を発するばかりで、何も出てこない。
洗面所によじ登ると、鏡に頭が爆発したオジサンが映っていた。水道の蛇口を捻り、頭から突っ込んだ。鼻先、顎の先から水が滴り落ちる。涙も出ている気がする。
顔を上げたら、今度は河童みたいなオジサンが映っていた。
水を飲んだら、また吐き気だ。
少し吐いて、這いながらベッドに戻り、横になった。
――どうして、こんなになるまで飲んだんだ?


どうしてそこまで飲んでしまうのか?
酒飲みにとっては永遠のテーマかもしれない。
僕自身はアーリーリタイア後、めったに深酒をしなくなったから、現役時代によくあった飲みすぎはストレス故だったのかな、と感じている。
そして伊集院氏のエッセイを読み返すと、自分の昨今の軟弱な飲み方が情けなくなってきたりもする。

それにしても当時、二日酔いで頭を抱えながらも、伊集院氏のエッセイを読んで救われた気分になった酒飲みは多いんじゃないかな?(もちろん僕も含めて)

明日も追悼記事を続ける。




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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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