お金(借金)について ~ 伊集院静の研究3


11月24日、肝内胆管癌で亡くなった伊集院静氏が40歳代のころ、週刊文春で連載していた「二日酔い主義」から氏の生き様を紹介している。僕自身、もちろん伊集院氏ほど破天荒ではなかったものの、周囲との折り合いがつかず、酒に逃げることも多い時期だったので、共感し、ときには大いに励まされもした。
(なんだ、僕よりもっとひどいのもいるじゃないか)
という感じ(なんて言い草だ)。
3回目の今日のテーマは伊集院氏と「お金」

1990年

去年の暮れ、借金の総額と、自分の生命保険の金がほぼ同額になった。
こういうのもバランスシートと言うのだろうか。今年から借りる分は、マイナスの計算になる。こんなこと書いちゃまずいな。
借金のある店に優先的に行く。では借金のない店があるかというと、皆無である。払わなくても払えなくとも顔を出すのが、酒場の借金のコツである。
死んでしまえば、まさか通夜の席まで請求書を持ってくる猛者はいないだろう。

私はある時期、1年のほとんどを競輪場と酒場で過ごした。
今はその時にできた借金をただ返済しているだけかも知れない。しかしいっこうに数字は逆転しない。深みにはまっていくだけである。それでもあんな楽しい1年は、もう二度と私の人生にはやってこないように思う。

気持ちがいいほど、金がなくなった。
これはもう年を越すとか越さないという話ではない。
生命の存続にかかわります。
なぜ金がないか?
金を使うからである。
なぜ金を使うか?
酒場、ギャンブル、女性にもよく使う。
これをやめればいい。この3つをやめて、何のために自分は生きるのか。


この3年前、近藤真彦さんに書いた「愚か者」が大ヒットし、印税収入がかなりあったはずなのだが、支出の方が勝っていたようだ。
借金の総額は定かではないが、2016年の作家・佐藤愛子さんとの対談では、

「ちょうど2億円くらいの金を出版社をはじめ周囲の人から借りたんです」

と語っている。
ちなみに直木賞を受賞するのは2年後の1992年。
受賞によって潤うかと思えば、そうはならないのがさすが伊集院氏。

1994年

いやはや大変な年の瀬である。
今から4年前の暮れに、私はこの欄で、
――気持ちがいいほど金がなくなった。
と書いた。その頃はよほど金のない暮らしが続いていたのだろう。
ところが今年は、
――気持ちが悪くなるほど金がなくなった。
なんかもう吐きそうだ。


1995年

まあそういう感じで今年の小倉の競輪も終った。帰りの飛行機賃がないので、もう一泊して救援隊を待った。
しばらく私はひっそりと暮らさなくてはならない。できれば静かな海の底の底で鮟鱇にでもなって生きて行きたい。

次の週のエッセイはこちら。

この頃、金欠病が末期症状に入って、台所に家人やお手伝いさんの財布が置いてあるのを見ると手が伸びそうになる。

確かに末期症状だ。

1999年

この夏場から仕事を増やした。理由はいろいろあるが、一番のそれは去年の暮れ借金をしなければ年を越せなかったこと。二番目は働けど働けど暮しが逼迫していること。三番目はいっこうに借金の額が減らないこと。

しかしこの年の年末、風向きが少し変わる。

今年は何とか年が越せそうだが、まだまだ油断はできない。
考えてみると、今年は楽ちんだナ、という年など一度もなかったように思える。これから先もそうなのだろう。

愚痴交じりながらも「年が越せそう」と言っている!
50歳を目前にして金回りがよくなったのか、と思いきや、翌2000年。

ちょっと、金がなくなった。
まあ元々、貯えとか、先の暮しのことを考えない人間だから、いつだって、金はないのだが、春先、金が枯れると、何かすべてがつまらなくなる。
働くことさえ馬鹿馬鹿しくなって来る。このところあまり金詰りにならなかったのだが、どこがどうなったのか、風が吹くとカランと乾いた音が身体の中でする。
面白くない春になってしまった。
おかしなもので、こういう状態の時に古い友人が金を貸してくれないかと言って来たりする。
事情を聞きながらなんとかしてあげたいと、ここ数日考えたのだが、どうも上手く行かない。
――どこか前借をさせてくれる出版社はないだろうか?
一社ずつ立派なビルを目に浮かべて、社長、重役の顔を思い起こしたが、借りていない会社は見つからない。銀行は目一杯だし……。


とまあ、まさに無頼派作家の面目躍如というところか。
ちなみにこの直後、漫画家、西原理恵子さん(僕はこの人の大ファンでもある)との「静と理恵子の血みどろ絵日誌」シリーズが小ヒット、2011年には「大人の流儀」が大ヒットし、伊集院氏は億の借金を完済することになる。
完済はもちろん立派だが、それ以前に、担保もなしで出版社から億の借金ができた、その「人望」こそすごいと思う。
愛され、才能を信用されてきた人なのだと思う。

とはいえ……。最後にその西原理恵子氏との対談(2000年)を紹介して、この回を終える。

西原 お疲れですか。
伊集院 いや、疲れは溜まってるんだと思うんだけど、今日はこれから出版社に金借りに行かなきゃいけないんだよ。事務所が狭いから、マンションを借りたほうがいいっていうんだけど、少し足りんのだな。
(中略)
銀行は貸してくれるんだけど、「挨拶に来てくれ」っていうんだ。銀行に頭下げるぐらいだったら、人間やめたほうがいいと。それで各社から借りている金を計算したら、今まで某社から借りてなかったのに気付いたの。今回本を出したら、金を貸して下さいませんかと頼みに行くわけです。
西原 それ、利子つくんですか?
伊集院 どうなんだろうね。返すつもりないから……。

まさか返せる日がくるとは、当の本人も思っていなかったんだろうなぁ。





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松茸。

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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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