そうなってしまった社会構造はというと、“そこはもはや、緑に囲まれたピーター・ラビットが出てきそうな上品なミドルクラスの学校ではなく、殺伐とした英国社会を反映するリアルな学校だった。いじめもレイシズムも喧嘩もあるし、眉毛のない強面のお兄ちゃんやケバい化粧で場末のバーのままみたいになったお姉ちゃんたちもいる。”
僕は30年前に1年間ロンドンに住んでいたが、その頃はリッチな私立に白人が集中していたはずだ。それが今や逆転して、レベルの低い公立が白人ばかりになっているとは。読みながら、ううむ、とうなった。“昨今の英国の田舎の町には「多様性格差」と呼ぶしかないような状況が生まれている。人種の多様性があるのは優秀でリッチな学校、という奇妙な構図ができあがってしまっていて、元底辺中学校のようなところは見渡す限り白人英国人だらけだ。”
これは現代の先進国、しかも世界有数の大国の話なのかと不思議になってくる。肌の色だの改宗だの階級が上だの下だのって・・・。“「お前が本当に行きたいなら行けばいいと思うが、俺は反対だ」
配偶者は息子にそう言った。
「どうして?」と訊く息子に彼は言った。
「まず第一に、あの学校は白人だらけだからだ。お前はそうじゃない。ひょっとするとお前の頭の中でお前は白人かもしれないが、見た目は違う。第二に、カトリック校はふつうの学校よりも成績がいいから、わざわざ家族で改宗して子どもを入学させる人たちもいるほどだ。うちはたまたまカトリックで、ラッキーだったんだ。それなのに、その俺らのような労働者階級ではめったにお目にかかれない特権をそんなに簡単にすてるなんて、階級を上昇しようとするんじゃなくて、わざわざ自分から下っているようで俺は嫌だ」“
その理由は本を読み進めるにつれ明らかになっていく。“そこはもともと、「ホワイト・トラッシュ(白い屑)」というまことに失礼な差別用語で表現される白人労働者階級の子供たちが通う中学として知られていた。うちの近所でも、ほんの数年前までは、中華料理店のガラス窓にレンガを投げつけて遊んでいるガキどもや、公園の茂みの中にたむろって妙なにおいのする巻きたばこをたしなんでいたりする同校の生徒たちが問題になっていた。が、常に学校ランキングの底辺にいたその中学校が、なぜかいまランクの真ん中あたりまで浮上しているという。”
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内山 直
作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。
「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。