ここ10年で一番はまったエッセイ集! 今さらながら「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」を読んだ。


昨日の続きで、今日はブレイディみかこ著「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」(新潮社)の書評。
僕がここ10年で読んだ中では、間違いなくベスト・エッセイだ。実話でこのレベルのものを書かれてしまうと、世の小説家たちは頭を抱えるのではなかろうか?

著者のブレディみかこさんはイギリス人男性と結婚し、男の子がひとりいる。エッセイの主役は、その息子。市のランキングで常にトップを走っている名門小学校に通っていたのだが、彼は系列の中学ではなく、公立の「元底辺中学校」に入りたいと言い出す。

その中学を著者はこう表現している。

“そこはもはや、緑に囲まれたピーター・ラビットが出てきそうな上品なミドルクラスの学校ではなく、殺伐とした英国社会を反映するリアルな学校だった。いじめもレイシズムも喧嘩もあるし、眉毛のない強面のお兄ちゃんやケバい化粧で場末のバーのままみたいになったお姉ちゃんたちもいる。”

そうなってしまった社会構造はというと、

“昨今の英国の田舎の町には「多様性格差」と呼ぶしかないような状況が生まれている。人種の多様性があるのは優秀でリッチな学校、という奇妙な構図ができあがってしまっていて、元底辺中学校のようなところは見渡す限り白人英国人だらけだ。”

僕は30年前に1年間ロンドンに住んでいたが、その頃はリッチな私立に白人が集中していたはずだ。それが今や逆転して、レベルの低い公立が白人ばかりになっているとは。読みながら、ううむ、とうなった。

その中学への入学にイギリス人の夫は反対する。

“「お前が本当に行きたいなら行けばいいと思うが、俺は反対だ」
配偶者は息子にそう言った。
「どうして?」と訊く息子に彼は言った。
「まず第一に、あの学校は白人だらけだからだ。お前はそうじゃない。ひょっとするとお前の頭の中でお前は白人かもしれないが、見た目は違う。第二に、カトリック校はふつうの学校よりも成績がいいから、わざわざ家族で改宗して子どもを入学させる人たちもいるほどだ。うちはたまたまカトリックで、ラッキーだったんだ。それなのに、その俺らのような労働者階級ではめったにお目にかかれない特権をそんなに簡単にすてるなんて、階級を上昇しようとするんじゃなくて、わざわざ自分から下っているようで俺は嫌だ」“

これは現代の先進国、しかも世界有数の大国の話なのかと不思議になってくる。肌の色だの改宗だの階級が上だの下だのって・・・。
しかしこの息子くんは父親の反対を押し切って元底辺中学校に入学する。

ちなみにこの中学は単なる底辺中学校ではない。さっきから気になっている人も多いと思うが、その前に「元」がつくのである。

“そこはもともと、「ホワイト・トラッシュ(白い屑)」というまことに失礼な差別用語で表現される白人労働者階級の子供たちが通う中学として知られていた。うちの近所でも、ほんの数年前までは、中華料理店のガラス窓にレンガを投げつけて遊んでいるガキどもや、公園の茂みの中にたむろって妙なにおいのする巻きたばこをたしなんでいたりする同校の生徒たちが問題になっていた。が、常に学校ランキングの底辺にいたその中学校が、なぜかいまランクの真ん中あたりまで浮上しているという。”

その理由は本を読み進めるにつれ明らかになっていく。

黄色人種と白人種との自称「ハーフ・アンド・ハーフ」である息子が、ロンドン近郊の荒廃した地域で両親や地域住民、それに「底辺中学校」を上のレベルに押し上げた教師たちによる温かい教育に支えながら成長していく実話だ。
って思い出して書いているだけでまた涙ぐんできた(汗)。自分の子供たちについて、そして社会について、いろいろと考えさせられることになった。
さらに最近欧米で活発化している「Black lives matter」ムーブメントをより深く理解する一助にもなりそうだ。

読んでいない人は人生損してる!と断言したいくらい、僕がフル・スイングでお勧めする1冊だ。







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生ガキの季節到来。
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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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