FIREに関しては相変わらず的外れな論評が目につくなあ―メタ思考のご紹介3


今日は澤円著「メタ思考―『頭のいい人』の思考法を身につける(大和書房)」のご紹介、最終回。


FIREについての言及があったので紹介する。

p90~
少し前に、若い人を中心にアーリーリタイアメント、いわゆる「FIRE(Financial Independent, Retire Early)」が話題になり、そのときブロガーのちきりんさんが、音声プラットフォームの「Viocy」で配信されていました。彼女が聞いたところによると、アーリーリタイアメントをしたい理由の多くは「仕事が嫌だから」だったそうです。
それについて彼女は、そうした人はおそらくアーリーリタイアメントをしても幸せにはなれないという趣旨の話をされていました。
つまり、仕事の中に楽しみを見出せない人は、たとえその仕事をリタイアしても、人生に楽しみを見つけられないのでは? そんな投げかけをされていたのです。
確かに、お金も時間も十分にあるのに、人生を懸けて打ち込めるものがない状態を想像すると、膨大な時間を前に茫然としてしまいそうです。


いやはや、なんという無理解。
なぜ「仕事が楽しめない」が「人生を懸けて打ち込めるものがない」ことになってしまうのか、僕にはまったく理解できない。
僕自身、忙しく、責任の重い医師の仕事を最後は楽しめなくなっていたが、その後の出版、新型コロナでの啓蒙活動、そして現在はまっている「禅」のいずれにおいても、かなりの熱量で打ち込んでいるつもりだ。
以下は自著「幸せの確率―あなたにもできる!アーリーリタイアのすすめ」から引用。


幸せの経年変化について、今度は精神分析学の古典からアプローチしてみます。「自己実現」という言葉は、皆さんもよく耳にすることでしょう。自分探しをして、自分のやりたいことをみつけ、それを実現させるような意味に使われます。
では、「自我実現」はどうでしょうか? こちらの方は、あまり馴染みがないかもしれません。
実はこれらの言葉は、スイスの心理学者ユングが最初につくったもので、自己実現は、自分が通常考える自分(自我)を超えて、無意識の自分をも含めて自己と捉え、それを開花させること、つまり、自分では意識せず、活かしきれていない、潜在的な性質や能力をも導き出して、本当の自分らしく生きることを意味します。
一方の自我実現は、自我の範囲内で、社会的に評価されるような目標を達成すること。努力して専門的な仕事についたり、大きなプロジェクトを成功させたりといった、意識した上で欲していた結果を得ることはこちらに含まれるので、現在、自己実現という言葉は、ユングの意図した本来の意味ではなく、むしろ自我実現に近い意味で使われることが多いようです。
ユングは、自分に相談に来る人々のうち、かなりの人が十分な地位的地位や財産に恵まれ、自我も確立した、一見した限りでは何の問題もなさそうな成功者であることに気づきました。そして、そういう人たちこそ、「本当に自分が望む人生を歩んでいるのだろうか」という悩みを抱くのだと考えたのです。そのような状態をユングは「中年の危機」と呼びました。それは、自我実現によって得られる精神的安定の限界であり、そこを起点として、人によっては自己実現へ向けてのチャレンジが始まります。自己実現は潜在意識までを含むので、自分にとってもよく意義のわからない要素も多く、達成には困難をともないますし、さらに、良識的なコントロールが効かなくなるため、時として社会や周囲との調和も難しくなってしまうのですが、それを成し遂げることによって、新しい創造性へと飛躍できるだけでなく、いずれ訪れる自身の死までも含めて、しっかりと心全体で納得し、受け止めることができるというのです。
現役時代の私は、ドクターとしての仕事に、誇りも、やりがいも感じていましたが、それでも数年ほど前から、患者さんの役に立つことによる喜びが、少しずつ薄れてきたことに気づいていました。単に仕事に慣れ過ぎたり、忙しすぎる日々によって感受性がすり減ったりしただけだったのかもしれませんが、もしかしたら、それは「中年の危機」だったのかもしれませんし、冒頭で述べた、自分が死に直面しているという悪夢こそ、まさに、自己実現を求める潜在意識の発露だったのかもしれません。
自我実現が目指すところは、社会的成功と相容れるので、仕事の延長線上で得ることができますが、自己実現の方はそうはいきません。恵まれた才能をもち、しかもそれが潜在意識を含めた自己と一致するといった幸運に恵まれない限り、生活の糧を得るための仕事によって達成することは困難です。
ユングは、人生の前半は自我実現を目指し、後半で自己実現に取り組むべきだと考えました。自己実現のためには、人生の価値に疑いをもてるくらい成熟することが前提になるため、若いうちではなく、ある程度年をとってから出てくるテーマである、というわけです。
となると、私のような凡人が自己実現を目指すのであれば、まずは自我実現を達成し、ある程度の資産を得てリタイア生活に入った後、中年期から老年期にかけて、今度は腰を据えて自己実現を目指す、という手順を踏んでいくしかないように思えます。
ユングの主張には異を唱える人も多く、だからアーリーリタイアが正解なのだというように、短絡的に結論づけることはできません。しかし私自身は、自我を超えたレベルでの自己実現というものに大いに興味がありますし、せっかくアーリーリタイアすることができたわけですから、これから始まる人生の後半戦では、それを目標に邁進するつもりでいます。


最後に加えると、世の中にはちきりん氏や澤氏のように、クリエイティブな仕事につける人ばかりではない。世の中にはいくら「メタ思考」しようとも、どうにもおもしろく、あるいは楽にならない職種もたくさんあるのだ(というより、こちらが主流だろう)。
澤氏は「一つの会社に留まることなく稼ぐ状態」をメタ思考はできても、「採算度外視で何かに情熱を傾ける日々」まではメタ思考できていないようだ、と厳しめに批判して、このシリーズはおしまい。



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奥に見えるのはアッシ・パルマンティエ。

お料理に興味のある方はこちらの記事をご参照ください。
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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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