「合格発表」を見に行ったことがない僕の悲喜こもごも


僕は合格発表なるものを見に行ったことが人生で一度もない。
遡ること40年前。高校受験の結果は午後1時から高校正面玄関で発表だったと記憶しているが、僕は郊外に住んでいたので自転車で飛ばしても片道30分くらいかかった。発表を見てすぐ帰るとなると往復で1時間自転車をこぐことになり、それはちょっときついなあ、と思っていたところ(自家用車で来ないよう通知でもあったのだろうか、親に車で送ってもらうという発想はなかった)、地元テレビ局の夕方の番組で、県立高校の合格者番号がテロップで流れると聞き「ならそれでいいや」と放送を待つことにした。
実際の発表より数時間遅れてしまうが、それでも自転車で往復することに対する面倒くささが勝ったのだから、不精な性格は当時からだったようだ。ちなみに受験したのはその1校のみで滑り止めを設けなかったのも不精ゆえ(よってこの他の合格発表もなかった)。
次の関門である大学受験は地元の医学部。合格者は発表前に大学の教授会にかけられるので、医師であった父の友人の教授から教授会の直後に「息子さん、通ってたよ」と連絡をもらい、それで合格を知ってしまった。
高校受験とは逆に早くわかったのはうれしかったが、いきなりの通知に拍子抜けしたのを覚えている。ちなみにこのときもやはり滑り止めの受験はせず1校のみの受験であった。
親になってからは長男の高校、大学受験、次男、三男の中学受験を経験したが、やはり実際の発表会場には行かず、妻や息子たちを車で近くまで送り、降ろした後は近所を流し(通常発表会場に駐車場はない)、10数分後、発表を見てきた妻子をピックアップする役目を担った(幸い息子たちはすべて合格)。
さて、そしてこの春、次男の高校受験に際し考えた。
「僕だって合格発表を経験してみたい!」
と。

報道などの映像をみる限り、合格発表の現場はかなり盛り上がるものらしい。
番号を記した大きな紙が職員の手によって張り出されると、すぐさまその前に群がる受験生と保護者たち。あちこちで上がる歓声の中、対照的に肩をすくめ、言葉少なに去っていく家族の姿もちらほら。
このような一大イベントを一度も経験することなく一生を終えるのは、いくらなんでももったい。人生から貴重な思い出が欠落しているようにすら思えてくる。
「ようし、人生の初体験。僕も合格発表の場に立ち会うぞ!」
と決めてからは発表日までが長かった。日に日に高まる緊張感。そして、いよいよ当日、発表まで数時間を待つのみとなった。
しかし、である。そこでひとつの思いが脳裏に浮かんだ。
「僕は合格発表を一度も見に行ったことはなく、そして僕も息子たちも受験に失敗したことがない」
という事実。
つまり僕が現場に行かないことは「最高のハッピー・ジンクス」なのでは? と思えてきたのだ。
馬鹿馬鹿しい、と一笑に付したい気持ちももちろんあったが、一度思いついてしまうとどうにも因縁めいたものに感じられ、自分の中でどんどん重くなっていった。
これだけ再現性の高いジンクスを無視して僕が合格発表を見に行き、結果、息子が落ちているようなことがあったら、僕はかなり激しく自分自身を責めることになるのでは? と。

迷いに迷った結果、当日になって僕は合格発表を見に行くのを断念。訝し気な表情の息子と妻を家の玄関から黙って送り出した。
そして結果は合格。発表の場で息子と妻は歓喜の瞬間を味わったらしい。
いいなあ、楽しそうだなあ。うらやましいなあ。
そして誰も僕のささやかな自己犠牲には気づいていないのだと思うと少しだけ悲しい。わかっているか、君たち、父さんは断腸の思いでいるのだよ。
そして今回も合格してしまった以上、今後も合格発表には立ち会えないことになりそうだ。嗚呼。




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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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