今年の春から寮に入った高校1年生の長男。
寮生活がよほど楽しいらしく、大した距離でもないのにめったに帰ってこない。
こちらとしては寂しくもあるが、そこでの日々が充実しているのなら何より。
電話口で帰りたいと泣かれるよりもずっといい。
そんな長男が先日、地元で片付けなければならない用事が重なったため、珍しく2泊もしていった。
妻は「直前にいきなり連絡をよこして」とブツブツ言いながらも、長男の好物をこしらえる。
4人が5人になるだけなのに、一気に家がにぎやかになる。
長男と僕は音楽や映画の趣味が合う。
共通して好きなのは、音楽ならプリンス、セックス・ピストルズ。本なら中島らも、笑いは松尾スズキという具合。
実際に文字にして並べると、ちょっとマニアックな親子かも、という気がしなくもない。
弟ふたりが寝た後は、映画「図鑑に載ってない虫」を一緒にゲラゲラ笑いながら観た。
笑いの密度が高すぎて息もつけない。


(右が松尾スズキ。まだ若い!って単にズラのせいか?)
この手の映画が苦手で、そのせいでちょっとのけ者っぽくなってしまった妻に、
「ふたりともいい加減に寝ないと!」
と言われるまで話は弾んだ。
3日目の午後、僕が車で学校の構内にある寮へ送った。
僕が長男の学校や寮を見るのは、実はこれが初めて。
新型コロナウイルスのせいで入学式がなかったので訪れる機会はなく、送り迎えもいつもは妻がしていたのだが、この日は所用があったため僕が代わりに運転した。
車で小1時間で学校に着いた。海に近い、美しい土地だった。
入り口には歴史のありそうなチャペルがそびえるように建っている。
その脇に長く伸びる坂道を徐行で登っていくと、いくつもの建物が姿を現した。
ただっ広い構内を長男の指示に従って、右に行ったり、左に行ったり。
「前にあるふたつが女子寮ね」
と息子。
昔の公営住宅のように頑丈な、しかし装飾のないコンクリートの建物が並んでいて、その間を車で通り抜ける。
「僕の寮は一番奥なんだ」
さらに二度ほど曲がると、長男の寮がその先にある森を背負うようにして建っているのがみえた。
ほとんどの窓が開いていて、服が乱雑に吊るされているのがみえる。臭いんだろうなあ。
「あれ、外にいくつか机と椅子が出てるね。外で勉強している人がいるみたい」
と長男。
なんだかお前ら、自由だなあ。
寮の前に車をつけ、トランクから荷物を出すのを手伝っていると、長男がふと思いついたように言った。
「入口のところにチャペルがあったの、覚えてる?」
「もちろん。あそこで毎朝礼拝をするんだろう?」
「この前、先輩が屋根によじ登って鐘を鳴らしたんだ」
「よじ登って?」驚いて思わず聞き返した。「危ないなあ。相当高いだろう?」
「高いから、よじ登るにはすごく力がいる。しかも捕まれば停学。でも成功して逃げられれば寮の英雄」
なんなんだ、その昭和みたいな青春話は?
「お前、金城一紀って読むっけ?」
ふと思いついて僕は訊ねた。
「読むよ。『GO』とか」
「それじゃなくって・・・そう、『レヴォリューション No.3』だ! お前の話、あの小説に出てくるゾンビーズみたいだな」
「言われれば、そうだね。あの本もおもしろいよねえ」
と長男が笑ってうなずいた。うん、やはり趣味が合う。


その会話の後、長男は父との別れを惜しむ様子もなく、さっさと寮の中へ入っていった。
姿が消えてまもなく、長男が挨拶をする声だけが聞こえてきた。先輩とすれ違うときは挨拶するのが寮の鉄則だと言っていたことを思い出した。
間違いない。まさに青春まっ只中だ。
ひとり運転して帰る間、自分まで高校時代に戻った気がして、胸が高鳴るのが心地よかった。
しかし一本道を延々と走ること小一時間。自分の街に着くなり気分は現実に引き戻され、今度は逆にコロナ禍で様々な経験を諦めざるをえない若者たちに思いが向かった。
浮かれたような高揚は一瞬で消えた。
誰かが何とかしなければならない。誰か、は誰だ? 本来なら行政だが、現状ではとても無理だ。
であれば僕ら、大人がなんとかしてやるしかない。
今の日本には「大人の良識」しかこのウイルスと戦う武器はない、というようなことは少し前に書いた。
僕にできることはなんだろうと考え、今はこんな活動をしている。
寮での若者たちの楽しそうな様子を垣間見れば、それだけでこちらも幸福感がしばらくは持続するような、僕らが半年前までいた世界に早く戻れますように。
お知らせ。
今朝の読売新聞「気流」(東日本版)に僕のコロナに関する投稿が載っています。
内容は1カ月前にこのブログで書いた記事とほぼ同様。
ご興味があれば新聞か過去記事か、どちらか覗いてみてくださいな。
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