高橋氏による「自然免疫説」 木村太郎氏による「弱毒化説」をまとめて批判する


馬鹿馬鹿しすぎて書くのが苦痛なのだが、こういうことを整理するのも僕の役割だと思うので書いてみる。
最近巷ではびこっている、新型コロナウイルスに関するなんとも馬鹿馬鹿しい風説についてだ。
最初の2行で馬鹿馬鹿しいが2回も出てしまった。2行連続だ。いや、さらに1行あるから3行続いているじゃないか。
あはん。
と一旦「あはん」で息を付かずにはいられないくらい馬鹿馬鹿しいのだ。

バカ!
大声で怒鳴ったら少しストレス解消したので、ここからは呼吸を整えて真面目に書く。
ふう。

高橋泰氏の「自然免疫説」が評判だ。
新型コロナ、日本で重症化率・死亡率が低いワケ
これを読んで「なんだ、日本人はコロナにかかりにくいって、もう証明されているんじゃん!」という声がネット上に数多くみられる。
全然、違う。

記事から引用する。

“日本は強力なロックダウンを実施しておらず、新型コロナに暴露した人が欧米より極端に少ないとは考えにくい。むしろ先に述べた「これまで多くの人が新型コロナにすでに感染しているが、自然免疫でほとんどの人が治っている」という仮説に立って、抗体ができる前に治っているので、抗体陽性者が少ないと考えるほうが自然であろう。”

まず高橋氏の言う自然免疫は医学的データからの結論ではない。記事に書いてあるとおり「仮説」。仮にそうだとしてスタートしているに過ぎないことをご理解いただきたい。
そう仮定すれば、「日本では抗体保有者が少ない」理由が説明できるという主旨だ。
でも、その前にさらりと書かれている、
「新型コロナに暴露した人が欧米より極端に少ないとは考えにくい」
という大前提が間違っていることは、このブログの読者ならご存じだろう。

マスクだ。
僕が以前から主張していたマスクの有用性は、今や世界ではスタンダードになった。
感染初期からユニバーサル・マスキングに近いことができていた日本で、「新型コロナに暴露した人が欧米より極端に少ない」のは当然なのだ。
もちろん、欧米に比べて長めのソーシャルディスタンスや手洗いの習慣も影響は大きいはずだ。
(マスクについて数日以内に記事を書き足すつもりでいる)

記事で出てくる自然免疫やら日本人の低い致死率とやらは、この間違った前提を元にして高橋氏が勝手に捻りだしたシミュレーションにすぎない。
記事はこんなふうに続く。

”日本と欧米の自然免疫力の差をそれぞれ2%と20%と想定すると、両者の差はわずかに見えるかもしれないが、このわずかな差が欧米と日本の新型コロナ被害の大きな差を生んだ可能性が高い。欧米では感染後、しっかり発症して他の人にうつす、再生産確率が高いため、日本と比べて感染スピードが速く、かつ感染拡大のチェーンが途切れないということになる。”

読み飛ばすと、まるで日本人は免疫によって感染しにくいかのような印象をうけるのだが、ちゃんと読めば
「自然免疫力の差をそれぞれ2%と20%と想定すると」
とあるのがわかる。あくまでも高橋氏の想定なのだ。

だからこんな馬鹿げた結論になる。

“「発症者死亡率」。日本は欧米に比べて低いと考えられる。その理由としては、欧米人に比べて血栓ができにくいことがある。サイトカイン・ストームが起きても、日本のほうが重症化する可能性が低いと考えられる。「発症者死亡率」は、日本では0~69歳で0.01%、70歳以上では40倍の0.4%だが、欧州は0~69歳で0.05%、70歳以上が2%とした。”

そんなわけがないのは、ダイヤモンドプリンセス号での惨状(致死率1.8%)をみれば明らか。
しかもダイヤモンドプリンセス号ではPCR陽性者を分母にしているから、発症者を分母にすれば死亡率は当然その分高くなる(どののくらい高くなるかは発症者数が公表されていないので不明)。
0秒でわかる、は嘘か。じゃあ2秒でわかる。
この後もこんな調子でひどい記事が続くのだが、あまりのひどさに気分が悪くなってきたのでここまで。
ご興味があれば、皆様もツッコミどころを探してみてはいかがだろう。
複数見つけられたら、コロナ記事鑑定資格を贈呈する。
今日はもうひとつやっつけておかなければならない説があるのだ。

木村太郎氏が唱えだした「すでに弱毒化説」だ。
「どう猛な虎からヤマネコに変わった」新型コロナウイルスはワクチンを待たずに消滅か

木村氏がこんなことを言い始めた理由はというと、

“新型コロナウイルスの感染が再び拡大しているのに重症患者や死者が増えていない”

ことに対する疑問が発端だそうだ。
いやそれはPCRの検査体制がマシになって無症状~軽症の若者から陽性者が続出したからで、第1波との陽性率の違いや陽性者の年齢分布をみれば明らか・・・ってここから説明しなきゃだめ?
木村氏はともかく、このブログをご覧になっている賢明な読者諸君には不要なはずと考え省略する。

ところがなんと木村氏は、このジャーナリストとは思えぬポンチな疑問を、下の情報により解決した気になったらしいのだ。
イタリアで患者の治療に当たったサンマルティノ病院、マテオ・バセッティ教授ウイルスが「ウイルスは弱毒化している」と証言したとの記事だ。
以下がバセッティ氏の弁。

“ウイルスは劇的に変異したというのが私の印象だ。3月から4月始めにかけての状況は今とは全く違った。緊急治療室に運ばれてくる患者の容態は極めて重く酸素吸入が必要で、肺炎を発症しているものも少なくなかった。それが今は、この4週間を見る限りでは、患者の症状は極めて軽症に変わった。”

感染爆発が起き、重症者しか治療できず、悲惨な医療崩壊が起きた当時と比べれば、感染拡大が落ち着いた今は別世界だろう。
そりゃそうだ、と納得。
でも、だから弱毒化してなんて言っていいの?
軽症の患者も入院できるようになっただけじゃないの??

記事は結局、この一医師の感想と推論で終わる。なんの根拠も示されていない。
まったくの、ゼロ・データだ。
ね、ほんとうに馬鹿みたいでしょ?

もちろんウイルスが弱毒化した可能性はある。
でもそれを言うのなら、流行初期と現在とできちんと重症化率、致死率を検証しなければならない。
PCR陽性者数を分母にするしかないから、PCR陽性率で補正をかける。
医療崩壊の有無、救命医療水準の変化も考慮する。
その上で弱毒化と言うのならもちろん拝聴するが、こんな思い付きで言っちゃダメ。
上げ足をとられないようにもう少し正確に言うと、思い付きで言うのなら、これは僕の思い付きにすぎないんだけど、と断ってから言うべき。
あたかもイタリアの医師が立証したかのような言い方をしちゃダメ!
ジャーナリストなんだよね。町内会の長老がお茶飲みながらおしゃべりしてるのとは違うんだよね??

でも世の中の、
「日本人は強い。自粛なんてしなくても平気」
と信じたい人たちが飛びついて、これらの説がどんどん拡散されている。
確証バイアス(人は自分が信じたいものを信じる)の恐ろしさをコロナ禍で再認識させられているところだ。

日本が新型コロナウイルスと戦う武器は、高い民度しかないのでは、とここで繰り返し述べてきた。
なのでマスコミと一部ネット民、そして一部医師のあまりのレベルの低さに、書いていてつらくなってくる。
本当に、つらい。
こんな馬鹿げた論説に付き合うのはそろそろ精神的に限界なので、僕らは引き続き「正しく」怖がる必要があるのだ! と叫んで今日の記事を終える。

ほんと、馬鹿みたい。



追記
両説の危険性をご理解いただけるようなら、SNSなどで本記事を拡散していただけるとありがたい。
強い危機感を抱いています。


(僕の新型コロナ記事に興味をもってくださる方はこちらへ。お薦めの記事がまとめてあります)



IMG_6636.jpg
トムヤムクン。僕も妻もタイ好きなので本場に近い味にしてある。辛し。
今日の辛口記事との関連はない、ということにしておく。
お料理に興味のある方はこちらの記事をご参照ください。
【我が家お薦めのお手軽料理本】 ベスト3 ~ おいしくて簡単な本を厳選しました!

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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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