僕のブログには類推が多くエビデンスが少ないとの批判をたまにうける。
これはもちろん意図してやっていることで、エビデンス重視なら論文以上のことは書けなくなる。
5月の時点からファクターXはマスクと主張したり、日本での第2波は7月で終わると予想し、的中させたりしてきたのは、十分なエビデンスがない中、様々な状況証拠を合わせて類推したからで、それが感染症専門医ではない自分の持ち味だと思っている。
しかしあまりに推測記事が続くのも何なので、今回は僕の主な主張、「マスク」「検査」「換気」について、根拠となる良記事や論文をまとめて紹介したい。
特に新型コロナに関して理論武装したい人にはもってこいの内容になっているはずだ(そういう需要がどの程度あるのかは疑問だが)。
まずは僕が以前から訴えてきたマスクの重要性。いまだにまだ効果を疑問視している人はスウェーデンのテグネル氏と引っ込みがつかなくなった一部ネット民くらいだと思うが(最近は岩田健太郎先生ですらマスクに意義ありと言い始めている。いつの間に!?)、エビデンスが欲しいという人にはますこれ。マスクの効果に関するTOP20の論文集。素材比較論文では、サージカルマスクが一番効果的だが、布マスクも意外と遜色はないようだ。
https://covidreference.com/top-10-august-24臨床研究として最もエビデンスレベルが高い系統的レビューを用いて分析した論文がこちら。マスク関連の172件の論文を系統的レビューの対象として選定。
その結果、マスクには85%の感染リスクを減少、1mの社会的距離で82%の感染リスク減少の効果が認められたとのこと。
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)31142-9/fulltext
さらに新しいのはこちら。ネイチャー誌でのまとめ記事。
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02801-8日本語でということになれば忽那先生による記事が秀逸。
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20201010-00202347/もし周囲に「マスクなんて科学的でない」というレベルの人がいたらぜひこの記事の存在を教えてあげてほしい。
つい先日はこんなニュースが。実際のウイルスを使ってマスクの効果を確認している。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201022/k10012674851000.htmlなおフェイスシールド、マウスシールドにあまり効果は期待できない。もし周囲でしている人がいたら、勇気を出して注意してほしい。
https://www.theguardian.com/world/2020/sep/22/face-shields-ineffective-trapping-aerosols-japanese-supercomputer-coronavirus下はスイスのホテルでのクラスター。フェースシールドの人だけが感染し、マスク装着者の感染はゼロだったとのケースが記事になっている。
https://www.thelocal.ch/20200715/only-those-with-plastic-visors-were-infected-swiss-government-warns-against-face-shields次は検査について。検査を広げる意義については、最近の下記フィナンシャルタイムズの記事が興味深い。
https://ig.ft.com/coronavirus-global-data/イタリアと韓国の比較。最初は同レベルで感染者数が推移したが、韓国は広範囲の検査と接触追跡で沈静化。イタリアが同レベルの検査数に達するには、さらに3か月と34,000人の死亡が必要だったと記されている。
もちろん人種も土地柄も違うので単純比較はできないが、同じ実効再生産数で推移した両国で、その後まったく違う経過をたどった例としては劇的でわかりやすい。
プレプリントだが、こういう論文もある。
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.08.19.20178137v1.full.pdf「感染者の割合が非常に低い集団であっても、検査を繰り返せば偽陽性は減り、行動制限を減らすことができる。ただし検査の特異度が高いことが前提」というもの。
日本ではいまだに、むやみに検査を広げるのは費用対効果が低いという意見が多いが、それに真っ向から対立する内容となっている。
ちなみに封じ込めに成功した国、コロナ禍でも経済が順調な国は、ほぼ例外なく検査数が多い。下記サイトをみると検査陽性率が低い国ほど感染をうまく抑え込んでいることがわかる。
https://ourworldindata.org/coronavirus-data-explorer?hideControls=true&yScale=log&zoomToSelection=true&time=2020-02-22..latest&country=®ion=World&casesMetric=true&interval=smoothed&aligned=true&smoothing=7&pickerMetric=total_deaths&pickerSort=desc「それは因果関係ではなく相関にすぎない」と言い張る人は、数字しか見ておらず、成功した国々の実態を知らないのだと僕は考えている。個別に経過を追ってみれば、検査の多さが功を奏したことがわかる(参考ブログ;
なぜ東南アジアでは新型コロナウイルスの感染者が少ないのか?)
西欧で比較的成功しているドイツも検査数が日本とは桁違いだ。
https://twitter.com/murakamiatsushi/status/1316920798997692416下はCNNの記事(日本語)。
https://www.cnn.co.jp/fringe/35156467.html「症状のない感染者による『静かな伝染』が半分を占めている可能性がある」
「人口の1%未満に感染拡大を抑制するには、症状がみられるすべての感染例に加え、静かな伝染についても1/3以上を発見し隔離する必要がある」
と無症状者への検査がいかに重要かが記されている。
経済とのからみでいえば、「大規模検査と濃厚接触者確認への投資は、その30倍の経済的利益をもたらす可能性がある」との論文まであるが、まだ感染者数が少ない日本にそのまま当てはまるわけではなさそうだ。
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2771764?utm_source=twitter&utm_campaign=content-shareicons&utm_content=article_engagement&utm_medium=social&utm_term=101220#.X4R1YylrEN8.twitterちなみに僕はPCR検査が拡充できない日本では抗原検査でのスクリーニングを進めるべきだと考えている。抗原検査の特徴はというと、PCR検査と比較し、
•確度は低い
•診断目的の検査でなく防疫目的
•検査アクセス大幅改善
•結果がすぐその場でわかる
•頻回検査で最も感染性のある時を逃さない
•安価
•医療機関を受診せず使用可能
という特徴がある(参考ブログ;
PCR検査と抗原検査の違いを深堀りしてみる!)。
感度が低いのは事実だが、それはPCR検査のように感染性のない残骸を拾わないだけで、PCR陽性および培養陽性(感染性ウイルスの可能性を表すとされる)検体に対する各抗原検査の感度を評価する論文(preprint)もある。検査によって差があるが一部は感染力のある検体をうまく捉まえている。
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.10.13.20211524v2富士フィルムは写真現像の銀塩増幅技術を応用し、高感度な抗原検査キットを開発中。現実的なゲームチェンジャーとして期待したい。
https://www.fujifilm.com/jp/ja/news/list/5499こちらはネイチャー誌「抗原検査はゲームチェンジャーになりうるのか?」との記事。
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02661-2最近の米国科学アカデミー紀要。アメリカでは家庭で使用できる迅速抗原検査の開発が進行中のようだ。
https://www.pnas.org/content/117/42/25956各自が家庭で週2-3回抗原検査をし、陽性ならマスクをしておとなしくしている。たったこれだけのことで感染は収束するはずだ。
僕は8月に頻回抗原検査で経済を回そうとの提言を行ったが、残念ながら空振りに終わってしまった(参考ブログ;
この冬、新型コロナから日本を救うにはこの策しかない!)
しかし今でもこの提言は有用だと考えていて、いずれこの手法が注目される日がくることを期待している。
最後に換気について。いかに換気が重要かに関しては、この記事が(学術的ではないが)インパクトが強かった。
https://www.barks.jp/news/?id=1000188738昼カラオケ、カラオケ喫茶であれだけクラスターが発生したのに、カラオケボックスでは一例の報告もない。その理由はカラオケボックスでは新幹線並みの換気が行われているからでは、というもの。
換気をし、ある程度の社会的距離をとれば、たとえ歌っても感染しないというのは世界に提示すべきデータであるように思える。
ちなみに僕が行ったツイッターでの調査でも、飲食店の換気が行われている地域では感染者数が少ない傾向がはっきりと読み取れる。
https://fire-earlyretire.com/blog-entry-226.htmlそして屋外での感染報告はほとんどないという記事がこちら。極端なことをいえば、屋外並みの換気をすれば感染はほぼ生じえないことになる。
https://www.japantimes.co.jp/news/2020/10/17/world/science-health-world/catching-coronavirus-outside-possibility/サイエンス誌ではエアロゾル吸入が主な感染経路との論文も。
https://science.sciencemag.org/content/370/6514/303.2空気感染を確信させる、韓国スタバでの事例。
https://twitter.com/tyonarock/status/1297515823389487108新型コロナウイルスは感染性を残したままエアロゾルに含まれる。これが確実だとすると、人が発出する量はエアロゾルのほうが飛沫より遥かに多いのだから、そちらが主体と考えないとむしろおかしい。
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/02786826.2020.1812502日本語でのまとめ的記事ならこちらをお勧めする。
https://news.yahoo.co.jp/articles/e8eaf9ed7906ad1ee5138a3b984c92adfe992383新型コロナに関しては、もはや空気感染は当たり前だと考えた方がいい。その意味では日本のようにほぼ全員がマスクを着用し、三密を避けて換気するという対応は正しかったことになる。これからはまだ十分とはいえない換気の啓蒙を行うのが重要だ。
しかし大変残念なことに、日本ではいまだに坂本先生や岩田先生といった影響力が強い先生方が「飛沫感染が主経路だから2mの距離があればマスクは不要」と主張し続けている。
専門医でない立場から申し上げるのも甚だ恐縮だが、これは完全なミスリードであり、専門家ならではの思い込みから抜け出せないでいるのだと僕は想像している。
距離で割り切れるほど単純なものではない。たとえば屋外で短時間ならマスクなしで会話しても低リスクだが、換気不十分な屋内なら黙ってマスク装着でも中リスクとなる。
下記は論文。
https://www.bmj.com/content/370/bmj.m3223それをうけた日本語の記事がこちら。
https://www.afpbb.com/articles/-/3302874マスクは重要。検査も重要で、PCRが拡充できなければ頻回抗原検査がある。経路としてはそれが「主」かどうかは議論があるとはいえ、空気感染の存在はほぼ疑いようはなく、その上で対策を一部練り直す必要がある。
僕がそう考える根拠の一部を掲載し、興味のある人ならどなたでもチェックできるようにするため、この記事を作成してみた。
SNSではびこる一部の妄言には耳を貸さないでほしい、というのはもちろんだが、どういうわけか日本では「専門家」たちのわけのわからない発言が目立つ。
岩田健太郎先生など「新型コロナはただの風邪」→「意外と危険だが今の状態ではマスクは不要」→「徹底封じ込めを」→「2m以内ならマスクは重要。封じ込めは不要」とコロコロ意見が変わった上に、いまだに空気感染の重要性を認識していない(恐らく、『したくない』)。
僕は専門家ではないが、日本だけでなくアメリカの専門家の情報発信や論文をチェックしながらブログを書いている。思い込みや守るべき地位が少ない分客観的であり、情報も決して遅くないつもりでいる。
読者の皆さんがご自身の考えをまとめる参考にして頂ければうれしい。
ランキングに参加してます。ぜひ一票を。
更新の励みになります!
↓
にほんブログ村
日本酒にすべきか白ワインにすべきか、それが問題だ。
お料理に興味のある方はこちらの記事をご参照ください。
【我が家お薦めのお手軽料理本】 ベスト3 ~ おいしくて簡単な本を厳選しました! お手間でなければ、こちらも。
感染症・ウイルスランキング