新型コロナウイルスは「空気感染」するの?


今日は専門家間でも議論がぶつかるこの大問題を取り上げる。この手の話をするときは、できるだけ元となる論文へのリンクを貼って記事の信ぴょう性が上げるよう努めてきたが、今回はそれを必要最小限とし、日本語の記事やツイートへのリンクを中心にする。
ただでさえわかりにくい話なので、そうでもしないとあまりにも難解になってしまう。
それでは物足りないという人は、記事やツイートから元論文を探せると思うので、ご自身でやってみていただければと思う。

さて、まず空気感染の定義から(大阪大学医学部付属病院HPより)。

空気感染は下のふたつ
①飛沫核感染
感染者から排出され空気中に浮遊している飛沫核を未感染者が吸い込み、直接気管支内に入ることにより、感染を起こす経路
②塵埃感染
病原体に汚染された土壌、床などから生じ、気流、風などにより空気中に舞い上がり浮遊している塵埃を未感染者が吸い込むことにより感染を起こす経路

ちなみに①の飛沫核が「飛沫」とどう違うかというと、

飛沫核;直径4μm以下の小さい粒子。空気中で長時間浮遊。
飛沫;直径5μm以上の大きい粒子。大きく重いので空気中には長く浮遊しない(飛距離1m程度)。空気中での落下速度は30~80cm/秒。

となる。
でもちょっと待ってほしい。直径5μmって無茶苦茶小さいと思うんだけど、本当に浮かないの?
実はそうでもないらしい。そこで最近よくマスコミで取り上げられるようになったエアロゾルという概念を考える。
エアロゾルは気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子と周囲の気体の混合体のことで、粒径は分子やイオンとほぼ等しい0.001μm程度から花粉のような100μm程度まで約5桁にわたる広い範囲。
つまり飛沫核と100μmまでの飛沫がここに含まれることになる。100μm以下なら飛沫であっても空中を浮遊するのだ。
となると先程の飛沫の定義「直径5μm以上の大きい粒子。大きく重いので空気中には長く浮遊しない」がおかしいことになる。だって5-100μmは浮くんだもの。
ここがおかしいから、「たとえ多少は浮いていても空気感染じゃないよ。だって5μmあったら空気感染じゃなくて飛沫感染だから」という禅問答のような事態に陥るのだ。
(ちなみにマイクロ飛沫という言葉もあり、これは飛沫の中で浮遊しうるもの。つまりエアロゾルから飛沫核を除いた概念になる。ややこしい)
国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター長の西村秀一氏はこう語っている

直径5μm以上の飛沫は2m以内に落下するというのは、あくまで無風環境下での理論的計算値に過ぎません。現実の生活空間では空気は動いており、5μm以上の粒子であっても空中に浮遊して空気の流れに乗って移動するものがありますし、それらは短時間で乾燥によっていわゆる飛沫核に変わります。
airborneは空気を媒介とした感染です。C型肝炎のように血液を介した感染であればbloodborne、食べ物を介するならばfoodborneというのと同列です。媒介物は何かを言っているだけです。インフルエンザ学者の多くはインフルエンザもairborneだと考えていますし、新型コロナウイルスも、よくよく検討したらairborneであったということだけです。

さらに国立感染症研究所は、アメリカ合衆国の疾病対策予防センター(CDC)が1996年に発出した「隔離予防策のためのガイドライン」を下のように紹介している。

同ガイドラインによると、飛沫感染(droplet transmission)とは、「微生物を含む飛沫が感染源となる人から発生し、空気中を短距離移動し、感受性宿主の結膜・鼻粘膜・口腔に到達する感染経路」を指す。飛沫は空気中に長くとどまることがないため、特別な換気は必要ない。また、空気感染(airborne transmission)は、「飛沫核(airborne droplet nuclei)(微生物を含んだ飛沫(droplet)から水分が蒸発した直径5μm以下の小粒子で、空気中を長く浮遊するもの)あるいは病原体を含む塵埃(duct particle)の拡散」によって発生すると記されている。

記事で最初に紹介した定義に加え、飛沫感染なら特別な換気は不要とある。
つまり「新型コロナは飛沫感染であり、空気感染しない」のなら換気は不要のはずなのだ。
しかし実際の報告例からどう考えても換気は重要だ。そこで空気感染とは意地でも言いたくない(空気感染はないと言ったのが間違いだったと認めたくない)専門家は、「多少は換気もしておいてね」と言葉を濁しているのが現状では、と感じている。

たとえばthe専門家、岩田健太郎氏はこう書いている

エアロゾルをよく問われる。エアロゾルは、発生しうる。しかし、めったに発生しない。
それが日常的にしょっちゅう発生しているのであれば新型コロナウイルス感染症はもっと激烈に広がるだろうし、現在行われているコンベンショナルな感染対策のほとんどは破綻しているだろう。

もちろんエアロゾルは山ほど発生する。岩田先生はエアロゾルを患者の吐しゃ物からくる状態など、限られたものと勘違いしているようだ。
そしてなぜか感染力と経路を一緒に語ってしまっている。「空気感染するが、空気感染にしてはかなり感染力が低い」と考えれば、簡単に説明がつくではないか?
「空気感染する病気は普通は感染性が高い」ことから、逆に専門家ならではの思い込みをしているように僕からは見える。

ウイルス研究者の峰宗太郎先生も岩田先生と同様の見解のようだ。

空気感染が頻繁に起こるなら、対策は無意味であると思われ、日本でももっと広がっているでしょう。欧米は自分たちの感染制御の失敗が受け入れられず空気感染と言い出している面もあるかな。

なんと、世界がようやく認め始めた「空気感染」は言い訳との弁。
峰氏もあくまでも定義はサイズ

「空気感染」は飛沫核感染とイコールという意味で言葉を使いますので、滞留時間関係なく、5μm以下かつ乾燥飛沫核による感染があれば空気感染と思います

しかし考えてほしい。
空中に漂う飛沫はいずれ乾燥して飛沫核になるに決まっている。この時、どの程度感染力が残っているかを議論する意味があるのだろうか?
感染防止のために重要なのは、換気がどの程度重要か? 換気に乏しい屋内なら2mあっても感染しうるのか?という点だ。決まり切っている。最初の答えは「重要」で、後の方は「感染しうる」だ。
たとえば韓国のスターバックスで新型コロナ陽性の客から、他の客56人に感染が広がった事例。
https://twitter.com/tyonarock/status/1297515823389487108
あっという間に下に落ちる飛沫や、接触によってとはとても考えにくい。
同様の事例は結婚式、合唱団などで報告されており、日本でもさいたまで劇団員の集団感染が起きたのは記憶に新しい。
https://mainichi.jp/articles/20201024/k00/00m/040/268000c

さいたま市浦和区の劇団「ミュージカル座」で91人中8割を超える74人が新型コロナウイルスに感染。

そして屋外での感染報告はほとんどないという記事がこちら。極端なことをいえば、屋外並みの換気をすれば感染はほぼ生じえないことになる。
https://www.japantimes.co.jp/news/2020/10/17/world/science-health-world/catching-coronavirus-outside-possibility/
昼カラオケ、カラオケ喫茶であれだけクラスターが発生したのに、カラオケボックスでは一例の報告もない。
https://www.barks.jp/news/?id=1000188738
その理由は「カラオケボックスでは新幹線並みの換気が行われているから」という指摘もある。
また、スイスのホテルでのクラスター。フェースシールドの人だけが感染し、マスク装着者の感染はゼロだったとのケースが記事になっている。
飛沫だけならフェースシールドでもかなり防御できるはずなので、これは空気感染であった可能性が示唆される。
https://www.thelocal.ch/20200715/only-those-with-plastic-visors-were-infected-swiss-government-warns-against-face-shields
これは英語の論文になってしまうが、サイエンス誌ではエアロゾル吸入が主な感染経路との主張も。
https://science.sciencemag.org/content/370/6514/303.2

というわけで新型コロナウイルスの感染経路として「空気感染」「エアロゾル感染」「飛沫核感染」「塵埃感染」のどれでもいいが、確かにある。このウイルスはまず間違いなく空中をフワフワと漂うし、ゆえに飛沫感染とは違う換気などの対策が必要になってくる。
そこさえわかれば、滴のサイズなどどうでもよろしい。
そもそも空気感染の定義と考えられている4μm以下という定義にもはや「実質的」な意味はないのだ。それよりはるかに大きくても、環境によっては立派に浮遊するのだから。
言葉遊び(と書くと専門家は怒るだろうが)に時間を費やすのではなく、とりあえず2m以上の距離があっても感染するリスクをしっかりと認めることが大切だ。「空気感染」「エアロゾル」「マイクロ飛沫」、呼び名はなんでもいい。「フワフワ浮いてうつる感染」だって、僕は全然かまわない。
それがあると認めた上で、正しい対策を講じることこそ大切なはずだ。

あとはこれが感染経路としてどの程度の割合を占めるのか?「主」なのか「稀」なのか?あるいはその中間なのか?
そこで上で列挙した知見にもうひとつつけ足しておく。
日本では暑さや雨で換気がしにくい6-7月に感染が急拡大し、秋には一旦沈静化。その後、寒さで換気がしにくくなった北海道から第3波がはじまっている。
状況証拠にすぎないが、換気の重要性は非常に高いと僕は感じている。であれば小さな「滴」からの感染は決して少なくないはずだ。

2月の段階で、岩田先生はこう言い切ってしまっている

「今後、空気感染が起こる可能性はありません」

過ちを認めたくない専門家が、みずからのプライドを守るためにこぞって世間をミスリードしているのだとしたら、我が国のアカデミアは悲惨な状況にあると断じざるをえまい。



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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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