岩田健太郎著「丁寧に考える新型コロナ」を丁寧に読んだ。


岩田健太郎著「丁寧に考える新型コロナ」を(途中までは)丁寧に読んでみた。
執筆が6月下旬のようなので情報が古いのは仕方がないのだが、現時点でもご本人は盛んにこれを読むようSNSでアピールを続けているので、本人に「この情報では古くて使い物にならない」との認識はないものと考え、遠慮なく論評させていただく。
引用はほぼいずれも一章から。

p66
医療用マスクの効果は「感染者が感染を広げる」のを防ぐことであり、「非感染者が感染しない」効果はないか、ほとんどないことが示唆されている。

大間違い。予防効果はあるとされており、知見が積み上がっている。
これを読んだ一般の人が「マスクに予防効果はない」と勘違いしたら申し訳ない、との罪悪感は著者にはないのだろうか?
(あるいはいまだにマスクに予防効果はないと信じているのか?)
米CDCの見解(英語)
過去のブログ記事

p66
マスクの効果は「ある程度感染者が多くて、無症候感染者がまわりにうようよしていて、そうした感染者がみんなでマスクをつけることによって感染リスクをヘッジする」という戦略に戻づいている。

だから感染者が少ないときは意義が薄いというのが岩田氏の主張で、僕はこれに対して否定的だ(参照記事 日本で感染が広まらなかったのは、単に“スタート地点が違っていた”から??)。
そしてこの記載の後、2月の時点でTVタックルに出演し、「マスクに意味がない」と言って批判されたことに対する言い訳が長々と続く。
この本では「当時日本にはほとんど感染者がいなかったからそう言っただけ。感染者がいなければマスクは不要で当然でしょう」と天気と傘の例えまで出して力説しているが、まったくのデタラメだ。
この本の前に出した「新型コロナウイルスの真実」に、「岩田氏の発言の真実」が証拠として残ってしまっている。
「新型コロナウイルスの真実」のほうでははっきりと、「マスクには予防効果はなく、また症状がない人が周囲にうつすことはまずない。自分が無症状なら周囲に高齢者がいてもマスクは不要」と書いているのだ。もちろんそこには「周囲の感染者数によって話は変わります」などという戯言は一切出てこない。
そしてこの本もテレビ出演と同時期の2月に執筆されている。
岩田氏は2月時点では、感染者がある程度いてもマスクは不要と信じ込んでいたのだ。そしてそれが間違いであることが、つまり「無症状感染者も感染性が強い」ことが明らかになってから持ち出したのが、この「感染者数によって」との甚だ苦しい弁明というわけだ。
こういう嘘を平気でつけるのが岩田健太郎という人物のメンタリティらしい。その認識なしでこの本を読み進めるのは大変危険だ。
そして「感染者が多ければマスク有用」、「ほとんどいなければ不要」というどうでもいいことを長々と書いているのに、肝心の「では、どのくらい感染者がいればマスクに意味があるのか」については最後まで触れていない。普通に考えれば、それこそが重要ポイントのはずなのだが。
彼にとっての関心事は「どのくらい感染者がいればマスクに意味があるのか」ではなく、「どうやったら2月の失言をうまく正当化できるか」しかないようにみえる。

そもそも2月当時のことをよく思い出してほしい。当時は屋形船でのクラスターが報道され、実はすでにウイルスは巷にかなりいるのでは?と考える人も多く、そうではないと証明するだけの検査数もなかった。渡航制限がなかったので中国からの観光客もたくさんいた。
岩田氏が居住する神戸に感染者がいなかったのは後になってわかったことで、当時は「周囲には感染者はいないから大丈夫」と安心できるような雰囲気では決してなかった。
事前確率が低かったのではない。事前確率は「わからなかった」のだ!
正しく恐れ、マスクを装着していた一般の人びとに、テレビから専門家が「そんなものは意味がない」と間違った呼びかけをしたのだからひどい話だ。

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テレビ発言の瞬間。
岩田氏は「当時、日本にウイルスはほとんど存在しないからそう言っただけ」と弁解しているが、画面右上には「猛威」「感染拡大」の文字が。

岩田氏の新著に戻る。

p68
「エアロゾル」による空気感染を起こしていることを示したケースは稀有です。

実は報告はかなりある。(参照;新型コロナウイルスは「空気感染」するの?
そもそもエアロゾル感染が稀なら「換気の悪い密閉空間を避ける」「換気をする」といった対策の意義はほとんどないことになる。飛沫は換気では防げない。
SNSでそこを突かれると必ず答えをはぐらかすか、沈黙してしまうところをみると、ご本人も持論の抱える大きな矛盾に、内心では気づいているのではないか?
ちなみ世界的権威であるファウチ氏は先月、論文でこう書いている

新型コロナの疫学は、ほとんどの感染症が2m以内の近距離で感染した個人への曝露によって広がる可能性が高いことを示しています。しかし最近の報告によると、換気が悪いといった特定の状況では、歌ったり、叫んだり、激しく呼吸したりするなどの行動に関連して、より長い距離または時間にわたって空気中に残っているエアロゾルも新型コロナの感染に関与しています。

これはCDCも認め、ガイダンスを変更している。
CDCがエアロゾル感染に否定的な間は、「ほら、CDCもそう言ってる」と自らの主張が正当である根拠として挙げておきながら、CDCが認めたとたんそれについては触れなくなってしまった。
なんとも往生際が悪いが、大体においてそういう人のようだ。

p69
突然変異が感染のしやすさや死亡リスクをどんどん変えるという事例はほとんどありません。そういうことは「起きにくい」のです。

はずれ。今日本で流行している欧州株は、元の株より感染力が高いとされている。これは一般の方でも知っているのではないか?
実験でも検証され、ニュースとして報道されている。
執筆が6月なら当然知っていたはずなのだが、なぜこんな妙なことを書いたのか僕には見当もつかない。
ちなみにSNSでは現在、以前から知っていたかのようにシレッとこの事実を認めている。
https://twitter.com/georgebest1969/status/1327170789297143808

この論文はすでに現象として観察されていたことの動物実験での検証。基礎医学的価値が高いのでサイエンス、だがニュースの意味をメディアは理解してたのかな。

わかっていなかったのは、あなただろうに……。

p104
そろそろ結論です。では、日本で第二波が発生したとき、われわれは第一波よりちゃんと対応できるのでしょうか。答えはイエスです。
(中略)
いまや、何をやればうまくいって、何をやれば失敗するかはほぼ明らかなのですから。
いや、第二波の発生そのものを事前に防止することだって不可能ではないかもしれません。小さなクラスターレベルの断続のレベルで抑え続けるのです。

見事に大外れ。これはちょっとありえないひどさだ。
なぜ岩田氏は日本にそんな離れ業ができると予想したのか、僕には見当もつかない。
日本はいまだに十分な検査数、接触追跡能力、隔離政策を構築することができず、後手後手の対応に終始している。
ちなみに僕は他の多くの医師同様、「冬にくる波は第一波どころじゃないし、夏の間収束する保証さえない」と主張しつづけてきた。本ブログにその証拠は山と残している。
医師の仕事は予想屋ではないとはいえ、感染症においては、ある程度の予想能力がなければ対策は練れないことを考えると、岩田氏の認識のズレはあまりにもひどい。
はっきり言おう。岩田氏は極端に視野が狭いのだ。世間知らずの優等生。
だから前著「新型コロナウイルスの真実」では満員電車についてこんな解決策を示している。

p174
満員電車で感染が起こるんじゃないかと心配している人もいると思います。これまでのところ、電車での感染は言うほど起きていませんが、もちろん避けられるなら避けた方がいいいです。
あんなものはみんなで工夫すれば回避できると思うんです。自宅でリモートワークで働けばいいし、電車に乗るのをやめて自宅の近くで働けばいい。

満員電車を避けるために、「電車に乗るのをやめて自宅の近くで働けばいい」との提案。これに「なるほど!その手があったか」と膝を打つ人は皆無だろう。
発想が小学生レベルなのだ(といったら小学生の息子に『僕はそんなアホなことは言わない』と笑われてしまった)。

最後にちょっと脱線したが、第一章だけでこんな感じだ。あまりのひどさに「丁寧に読む」のはここで断念。
他の章もパラパラとページをめくりはしたが、何ら目新しいことはなく、間違い、言い訳、思い込みのオンパレード。
これが感染症専門医の第一人者(と前著の帯にはある)が書いた本かと思うと、怒りを通り越して虚しさが込み上げてくる。
しかし版元のために弁解すると、この本全部が悲惨というわけでもない。巻末の西浦先生との対談だけはおもしろい(西浦先生が話している部分限定だが)。

西浦先生は端的にこう述べている。

三密条件で伝播が起こって、残りではほとんど起こっていない

確固たる事実。このウイルスの実に奇妙な特性。
この現象を読み解く一番シンプルな解は、岩田氏が頑なに否定するエアロゾル感染だ。
「エアロゾル感染もあるので時にメガクラスターが生じるが、感染力自体はさほど強くないので、条件が重ならないと感染は広がりにくい」
と考える他、辻褄のあう説明は僕には見当たらない。
現に新型コロナの感染は、屋外においてはほとんど報告がない。
飛沫感染なら屋外でも同様に生じうる。屋外で生じないのは、普通に考えればエアロゾル感染の特徴なのだ。
第一、三密のひとつ、密閉(窓がなかったり換気ができなかったりする場所)を避けるというのもまた、本来は「空気感染対策」にあたる(換気をしたって飛沫は飛んでくる)。
専門家会議のメンバーは、このウイルスの感染経路が単なる飛沫感染では説明がつかないことに一早く気づき、現在は世界でも浸透しつつある「三密」なる言葉を生み出した。
厚生労働省クラスター対策班の一員としてCOVID-19対策の最前線で活躍されている東北大学大学院歯学研究科副研究科長の小坂健教授は、インタビューでこう答えている。
https://web.tohoku.ac.jp/covid19-r/people/people2/

三密の対策は早期にできていました。換気の重要性を入れたのは、従来の飛沫感染対策だけでは感染予防が難しいことを織り込み済みだったからです。

岩田氏にSNS上で僕や他の有識者がコメントを求めても、返ってくるのははぐらかしと沈黙だけであった。

よく聞いてほしい。
僕はFIREぐうたら医師で、岩田氏は感染症専門医だ。僕が間違っていて、岩田氏が正解の可能性もないわけではない。
しかし、例えそうだとしても、医者は危険を軽く見積もってはならないのだ。感染症の専門医はよほど確証がないかぎり「○○は対策はしないでいい」、「○○の心配はいらない」などと公の場で発言してはならない。
多くの専門家が「そこはまだ確定的なことは言えない」あるいは「わかっていない」とお茶を濁したような言い方をするのは、自分が間違っている可能性も考え、不確かなことは言えないからだ。決してごまかしているわけではない。
単純明快に切って捨てれば注目も浴びられるし、束の間は頭がよくなった気分になれて爽快だろうが、専門医はそのような軽率な真似を決してしてはならない。
せめて、「エアロゾル感染は稀と僕は考えますが、まだ知見が集積されている最中なので、屋内では2mの距離がとれても念のためマスクをするのが無難でしょう」と言うべきなのだ。
岩田氏にはこの「医師としての基本」がみえていない。

僕は岩田氏の頭が悪いとは思わない。知識量が少ないとも勉強不足だとも全然思わない。
しかし調子に乗りやすい性格と視野の狭さから「マスクに意味はない」「空気感染は絶対にない」といった発言を断定的に繰り返してしまった後、プライドの高さから間違いを素直に訂正することができず、自分にとって心地のいい知見にしか目が行かない状態になっていると推測する。
いわゆる、認知バイアスだ。

というわけで、本日の結論。岩田氏の本は、新型コロナを学びたい人にはほぼ害にしかならないが、「認知バイアスの恐ろしさ」を記すテキストとしては一級品であり、故に星4つでお薦めしておく。
「新型コロナウイルスの真実」ではなく「岩田健太郎の真実」がここで浮き彫りになっている。





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昨日は昼からボジョレーヌーボ。すいません(謝ることもないか 笑)


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内山 直

2016年、47歳でセミリタイア。地方都市でゆるゆると生息中。
「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で、遺伝が50%。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってきます!

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