日本で新型コロナの感染が広がりにくい背景には、やはり日本語のもつ特性があるのでは?


なぜか日本では感染者数が少ない、その理由は何だろうと山中教授が命名した「ファクターX」。
僕はその主たるものはマスクだろうと主張してきた。例えば右は今から半年前のブログ(僕が考えるファクターX ~ 前編 感染者数
もちろん今でもこの考えに変わりはないが、世界的にマスク着用が進んだ今でも、日本では比較的感染が拡大しにくい状況が続いている。医療現場のひっ迫度合いを考えれば状況は切実ではあるが、それでも欧米とは桁が違う。
となるとマスク以外の要素も考える必要が出てくる。
ひとつは三密の回避だろう。日本ではすっかり浸透しているが、欧米では換気の重要性が日本ほどは一般化していないという話も聞く。
さらに人と人との距離。お辞儀による挨拶が一般的な日本と、握手やハグが日常の欧米とでは、そもそもの人との距離感が違う。
そして最近頭に浮かぶのは、「やはり日本語は飛沫などが飛びにくく、感染が生じにくい言語なのでは?」 という疑問だ。
上述したブログでも実はその点は検討している。以下引用。

・大声を出す必要がなく、唾液も飛びにくい日本語の特性
多くの東南アジア・オセアニア諸国が日本より好成績を収めていることから、この寄与度はあったとしても小さそうだ。

以上。たったこれだけで考察を終えてしまっている。
そうなのだ。この時点では僕は「アジア」対「欧米」の図式で考えていたため、言語の特性は深く考えることなく除外してしまった。
しかし同じアジアといえども対策は大きく異なり、特にタイ、ベトナム、台湾などはすぐれた政策で封じ込めに成功しているので、それらの国でもうまくいったから言語特性の影響は少ないとは(今考えれば)いえない。
日本と似た政策をとり、やはり日本同様善戦はしているが完全封じ込めには至っていないのが隣国、韓国。
現在の新規感染者数は1日600人程度と日本より遥かに少ないが、人口が日本の半分程度であること、PCR検査、濃厚接触者追跡のレベルが日本よりはるかに高いこと、検査陽性者を強制的に隔離できること、日本でいうGoToのような感染拡大政策を行っていないことを考え併せると、意外と多い印象がある。
逆にいえば日本はいまだ十分なPCR検査ができず、接触者からの検査拒否が相次ぎ、GoToキャンペーンを続けた状態でもこの程度の新規感染者数ですんでいるのだ。
韓国より日本が有利な点はなんだろう? と考えると、やはり言語が大きいように思える。韓国語には詳しくないが、日本人より声が大きい傾向があることに間違いない(僕は若い頃、イギリスの韓国人コミュニティで暮らしたことがある)。
日本語は他言語と比べ、感染が広まりにくい言語なのではないだろうか?

どのような言葉が感染を広げやすいかと考えた時、まず参考にされるのがランセット誌、2003年のSARSに関する論文だ。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7135525/
翻訳して引用する。

中国語には、有気音/非有気音の発音システムがあります。子音p、t、k、q、ch、cは母音の前にくると、b、d、g、j、zh、z とは対照的に強い息で発音されます。英語ではp、t、kが同様の強さで発音されますが、日本語ではさほど強くありません。

この論文以降、医学誌上で強い呼気をともなう発音といえば英語でいうp、t、kということになったらしい。
呼び名はいくつかあるようでややこしいのだが、下の解説書(?)ではそれらの音を気息音(asipirated)と呼んでいるので、このブログではとりあえずそれで統一する。
https://www.ed.kagawa-u.ac.jp/~nagai/2015/14L121.pdf

新型コロナに関する論文でもやはり気息音が注目されている。まずはこちら。
https://www.pnas.org/content/117/41/25237
「p」は2m以上飛沫を飛ばすため、2mは必ずしも安全な距離とはされないとのこと(日本にもパピプペポの発音はあるが、さきほど触れたように英語ほどは強い呼気を伴わない)。
英語のほうが新型コロナウイルスを拡散させやすい可能性が示唆される。
次の論文では気息音をもつ言語ともたない言語とで新型コロナ感染の拡大の違いを調べている。
https://ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7263261/
結論は有気音をもつ言語で感染者が多い傾向はあるが、有意差はなし。
もちろん各国で政策が違うわけだから、きれいなデータを期待するほうがおかしいのだが、とりあえず言語による感染力の違いを見出す試みはここでとん挫したかのようにみえる。
これに関してはツイッター上でも数々の議論が行われてきたことを内田さんから教えて頂いた。感謝。
下記はツイッターのまとめサイト。
https://togetter.com/li/1512994
https://togetter.com/li/1605201
Twitter界ではお馴染みの方々によって非常にレベルの高い議論が交わされているが(日本の自称・専門家たちに読ませてやりたい)、やはり注目されているのは気息音だ。

さて、ここで新型コロナウイルスの感染経路について。
感染拡大当初からエアロゾル感染の存在は知られていたが、最近はどうやらそれが「主経路」であると考えられるようになってきた(参照;エアロゾル感染に関する良記事をみつけたので、参照しながら僕なりにまとめてみる)。
そこで注目してほしいのがこの映像だ。エアロゾルがどのように可視化できるか、アメリカの感染症研究の第一人者、ファウチ博士の前でデモンストレーションが行われている。
4分40秒くらいから実験が始まる。圧巻の映像なので、ぜひ実際に再生してみてほしい(英語が苦手な人でも理解できるし、1分もかからない)。

1/40のスロー画像でいかにエアロゾルが放出されるかを観察している。画面向かって左側の男性がone, two, three, fourと通常の声量で順に話したところ、one、twoではさほどでもないのに、three、さらにfourで大量のエアロゾルが放出されているのがわかる。
たしかに気息音の two で大量の飛沫が飛んでいるが、それはすぐに落下しており、エアロゾルはほとんど発生していない。エアロゾルは気息音ではなく、th、f といった摩擦音ではるかに多く放出されているのだ(ちなみにこの実験は単にエアロゾルを可視化するのが目的なので、発音による量の違いに言及はしているものの、本稿のような分析はなされていない)。
もしあなたが英語が多少話せるようなら、口の前に手をかざして順番に発音してみてほしい。息の強さで言うと気息音の two が一番、ついで four, three, one の順になるはず。
つまり呼気の勢いは発出されるエアロゾル量とは何の関係もない可能性が高いのだ。
僕が特に注目したのは three。 th のあとに子音が続いているので息量はかなり小さいが、それでも four に近い量のエアロゾルが発生している。
歯と歯の間に唾液がたっぷりついた舌をはさみ、それを抜き去りながら(少量とはいえ)息を吐き出すのだから、エアロゾル製造機のような発音にみえなくもない。
three のように子音が続くのではなく、母音が後にくる think や thank だったら、エアロゾル量はさらに多かったのではなかろうか?
いままでこの手の研究は「飛沫が飛びやすい気息音」で比較されてきた。しかし新型コロナウイルスの感染経路にエアロゾルが占める割合が高いとわかってきた以上、「どの発音でエアロゾルが生じやすいか」に視点を切り替える必要がありそうだ。
(f、v は唇歯摩擦音、th は無声歯摩擦音と呼ばれるらしいが、これらを頻用するとかえってわかりにくくなるので、この後もアルファベットで表記する)。

こちらは有名な New England Journal of Medicine誌のマスクに関する実験。
https://www.facebook.com/watch/?ref=external&v=912508652510633
主旨は「Stay healthy」と言ったときの飛沫の飛び方をマスクなし(前半)、マスクあり(後半)で比べるものなのだが、そこを離れて、マスクなしで飛沫が飛ぶタイミングに注目したい。
特に healthy の th の部分で多くの飛沫が飛んでいるのがわかる。
こちらではエアロゾルを観察することはできないが、さきほどの映像と重ね合わせれば、多くのエアロゾルも放出されていることは容易に想像できる。
感覚としても、舌が口の外にでる th、下唇を前歯に当てて振動させる f,v といった一部の摩擦音では多くのエアロゾルが放出されて当然に思える。そしてもちろん日本語にはそのような発音はない。
これらの映像をみると、日本語と英語とで放出エアロゾルがあまり変わらないと考えるほうがむしろ不自然に思えてくる。
そこで発音とエアロゾルに関してつっこんだ論文はないのかと探してみたところ、あった。「人間の発話中のエアロゾル粒子放出に対する発声と調音方法の影響」。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0227699&referringSource=articleShare
こちらはコロナ禍以前に書かれたもので、下記が結論。

①「母音/ I /(例need、sea)は /ɑ/(saw、hot)や/ u /(blue、mood)より多くの粒子を生成し」
②「有声破裂音(例:/ d /、/ b /、/ g /)を含む二音節の単語は、無声摩擦音(例:/ s /、/ h /、/ f /)を含む単語よりも多くの粒子を生成する」

ここではなんと気息音の気の字も出てこない。むしろ最初に引用した論文で弱いとされた音のほうがエアロゾルを放出するとの結果になっている。
気息音はあくまでも飛沫や息量との関連であり、エアロゾル発生とは無関係である可能性が高そうだ。
ちなみに、
①のneed、seaの母音は日本語の「イ」とほぼ同一と考えていいから、ここでは英語と日本語の言語差はない。
ただし②の破裂音は英語のほうがかなり強い。英語の book と日本語の「ブック」とがかなり違う音であることに異論がある人はいないだろう。doorと「ドア」も違う。

と、ここまでは飛沫やエアロゾルと言語の関係について。
それに加え、英語は日本語より強い息を吹き出す傾向があることにも留意したい。
多少英語を話せる人にとっては常識と思うが、念のためそれに関する記事へのリンクも添付しておく。
https://diamond.jp/articles/-/57717
ちなみにちゃんとした論文もあることをツイッターで知った(びっくり)。
https://twitter.com/kenmomd/status/1261271230289571840

ここで最初に紹介したランセット誌、2003年のSARSに関する論文に戻る。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7135525/
中国を旅した数百万人の日本人はSARSに感染しないのに、なぜアメリカ人は感染するのか? その理由は土産物店の店員がアメリカ人には英語で、日本人には飛沫が飛びにくい日本語で話すからでは?
という考察がなされている。
この論文では前述したように気息音の有無に注目しているが、原因がそこにあるとの根拠はない。むしろ th、f、v、さらにb、d、g の発音が原因だった可能性もある。
いずれにせよ結果的に、「日本人と比べアメリカ人のほうがSARSにも感染しやすかった」という点に留意したい。

というわけで日本語は英語や類似する言語に比べ、ふたつの特性がありそうだ。
1.エアロゾルが発生しにくい(b、d、g が他言語より弱く、f、v、th といった子音をもたない)
2.エアロゾルを遠くへ飛ばしにくい(息を吹き出す量が少ない)

さらに感染が拡大しにくいアジアの国々。調べた限りでは韓国語、タイ語には th、f、v のいずれもなく、中国語は f はあるが th、v はないようだ。
破裂音の強さは調べようがないが、日本語よりは強い印象はある。
いずれの言語も日本人にとって感覚的にはやかましく聞こえるし、飛沫は飛びやすいだろうが、エアロゾルがどの程度発生しているかはそれ用の実験をしてみないと何ともいえなそうだ。

ファクターXのうちもっとも重要なのはマスクとの考えは変わらないが、日本語のもつ特性もその次くらいに挙げていいような気がしている。
であれば今後も日本では、欧米並みの感染爆発が起きる可能性は限りなく低い、と期待していいのかもしれない。
もちろんだから油断していいという意味ではないので、念のため。日本は脆弱な医療体制という、とてつもなく大きな欠点を抱えていることが明らかになってきたのだから。

マスクと換気が必須の、緊張の冬が続く。


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内山 直

2016年、47歳でセミリタイア。地方都市でゆるゆると生息中。
「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で、遺伝が50%。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってきます!

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