なぜ日本では頻回抗原検査が有用なのか。とことんわかりやすく解説してみる!


この冬、新型コロナウイルスの感染の拡大が止まらない。日本ではどのような対策が選択可能だろうか?
接触者を大量に隔離することによって成功した台湾やベトナムの方式は、私権制限を嫌う日本では難しい。
長期にわたる過酷なロックダウンで抑え込んだオーストラリア方式も無理だ。第一、人口密度が違う。
(これらの封じ込め成功国の状況については過去記事を参照いただきたい;日本ではなぜ「完全封じ込め」が難しいのか?
日本が現実的にとれる感染抑止策は「大量検査」しかない。消去法でいくと、これしか残らないのだ。
今日は頻回抗原検査についてできるだけわかりやすく解説したい。

まずはこの図をみてほしい。

En7zNHBW4AEDN7T.jpg

感染してからまもなく感染性(体内のウイルス量)は急激に高まり、5日後くらいをピークに徐々に減少していく。感染後10日から2週間でほぼ周囲にうつすことはなくなると考えられている。
感染者を検査でみつけられるのはいつか?
水平に走る2本の点線に注目してほしい。
上の低感度検査が抗原検査、下の高感度検査がPCR検査と考えてもらっていい。
検出できる期間はPCR検査のほうがはるかに長い。加えて感度(偽陰性にならない確率)、特異度(偽陽性にならない確率)ともに高い。
症状が重症化するのは感染性が高い時期と一致しないから、有症状者を適切に診断し、治療に結び付けるにはPCR検査のほうが有用だ(とはいえ日本では有症状者へのPCR検査さえ満足にできていないのだが)。

さて、そこから少し視点を変えて、治療目的ではなく防疫目的、つまり感染を広げないための検査としてならどうだろう?
PCRで検出できて、抗原検査で検出できない期間のほとんどは図の黄色の部分、すなわちすでに周りに感染させる力がほとんどなくなった後の期間に該当する。
このときに感染をとらえ、隔離することに防疫上の意義はないのだ。
では赤い期間はどうか? これから感染性が高まる直前の時期だから見つけ出すことは非常に大切だ。
ただしこの期間は非常に短く、1日もないと考えられている。
ならば高感度だが翌日まで結果がわからないPCR検査を週1回やるのと、低感度ですぐ結果がわかる抗原検査を週2回やるのとでは、どちらがスクリーニングとして有効だろう?
少し考えれば後者と誰でもわかるし、実はすでに立派なデータが出ている。
これは日本語の記事。
https://news.yahoo.co.jp/articles/4de65109c71aaf5cdf3e35146114ca6179a69548

“2020年11月20日に学術雑誌「サイエンスアドバンシズ」で発表された研究成果によると、検査頻度の高さと検査所要時間の短さが感染者の効果的なスクリーニングにつながる一方、検査精度の高さは限定的な効果にとどまるという”

海外では散々議論されている頻回低感度検査だが、日本語で記事になったのは僕の知る限りほとんどない。
ちなみにこの記事の元になった論文はこれ。やや専門的だが、興味があれば挑戦してほしい。
https://advances.sciencemag.org/content/early/2020/11/20/sciadv.abd5393.1
日本ではPCR検査の拡充が遅々として進まない。
検体採取(唾液でも可能だが、鼻咽頭ぬぐい液を採取するには防護服が必要)→検体の輸送→機器を要する検査過程→結果の通知、という多岐に渡るステップが目詰まりをおこし、拡充はそう簡単ではないのだ。特に日本には硬直化した保健行政という一朝一夕では解決できない難題がある。
しかし抗原検査ならどうだろう?
コンビニで200円で買えるように法改正さえすれば、その後の行政の介入は不要だ。自分で買って自宅で検査し、15分で自己判定できる。
安い、早い、手間いらず。感度でPCR検査に劣る点は防疫上大きな問題ではないのは前述した通り。
感染拡大を防ぐためのスクリーニングには、このほうがずっと適しているのだ。

そんないいやり方があるなら、なぜ取り入れられないのか?
実はアメリカはすでにそれに向けて走りだしている(なぜこのことが日本では報道されないのか、僕には不思議でならない)。
そもそもバイデン氏が打ち出した対新型コロナ対策にもちゃんと盛り込まれている。
https://joebiden.com/covid19/
「1」の2つめが該当する。

Invest in next-generation testing, including at home tests and instant tests, so we can scale up our testing capacity by orders of magnitude.

の部分だ。「自宅での検査を含め、検査能力を桁違いに拡大」とある。
米感染症研究の第一人者、ファウチ氏もこのやり方を支持している。
https://www.eatthis.com/fauci-who-needs-covid-test-now/
新CDC所長就任予定のワレンスキー氏からの正式なコメントは知る限りではないが、夏の時点ですでに支持するツイートをしている。
https://twitter.com/RWalensky/status/1295343179340722177
新型コロナ検査の市販検査キットをFDAが緊急(初)承認したのは先日お伝えした通り。
https://twitter.com/3Cj0MeO8oomX9C6/status/1337253546408853510
自己採取して施設に送るタイプで、結果が陽性または無効の場合は電話または医療機関経由で連絡がくる。陰性だった場合は専用サイトなどで通知されるようだ。
日本の格安PCR検査だと、陽性だった場合どうしたらいいのかがわからず一部で混乱が生じているが、アメリカ方式は陽性だった時の対応システムができている。
さらにアボット社の製品もFDAからの承認をうけた。ただしこちらは処方箋が必要。
https://www.prnewswire.com/news-releases/abbotts-binaxnow-covid-19-rapid-test-receives-fda-emergency-use-authorization-for-first-virtually-guided-at-home-rapid-test-using-emeds-digital-health-platform-301194400.html
そしてこちらも診断はデータ送付が必要になっている。
陽性者を保健当局が把握できなくなり、混乱が生じることを避ける目的と推測するが、そのやり方ではどうしても費用が高くなってしまい(ちなみにこの検査では3000円弱)、頻回に利用することは困難だ。
行政が一部陽性者を把握できなくなることを覚悟の上で、自宅で安く、気軽に診断できる検査キットの認可が待たれている。
医療顧問に任命される予定のファウチ氏もそう主張している以上、バイデン政権はそれに踏み切るのはほぼ確実な情勢だ。
https://twitter.com/3Cj0MeO8oomX9C6/status/1339767224035278848

さて、日本ではどうだろう?
硬直化した保健行政のためか、どうしてもPCR検査が拡充できない日本にとって、抗原検査は起死回生のゲームチェンジャーになりうると僕は考えている。
現在の価格(日本では1回6000円!)では話にならない。ある程度の感度があり、特異度が高い製品を安く買える社会を目指すべきだ。
たとえばアボットPanBioRapid Antigen Test。1575例で偽陽性はゼロで特異度ほぼ100%。感度も十分高い。製造コストはたった50セント!
https://twitter.com/Hiroshi_Tsuji/status/1337057655492390915
日本の技術があれば、政府が号令をかけるか、必要なら多少インセンティブをつければ同レベルのキットを大量生産することができるはずだ。

ではその抗原検査を日本でどう使うか? ここからは難しい。広く議論がなされるべきだろう。
夏の時点では接待系飲食店や寮など高リスクなスポットで頻回に行うべきと考え、今でもこれが最も効率的と考えているが、私権制限に拒否反応が強い日本では難しい側面もありそうだ。
(僕が夏に行った提言。興味があればhttps://twitter.com/3Cj0MeO8oomX9C6/status/1295468577613438977
一方、罰則がない中でのマスク着用率の高さをみても明らかなように、日本にはずば抜けた民度の高さがある。
たとえば国が号令をかけて「高精度抗原検査キットをコンビニで2-300円で買える社会をつくる」と宣言すれば、各メーカーは開発にもっと力を入れられるし、そのような社会が実現すれば、国民がそれを自主的に使いこなし(宴会前に参加者は全員検査しようね、など)、国家権力の強い介入なしで感染を抑え込むことができるはずだ。
https://twitter.com/3Cj0MeO8oomX9C6/status/1332220810891644928
現在1を少し上回っている実効再生産数を、1以下に押し下げれば感染は収束に向かうのだ。単純な事実。頻回抗原検査による感染拡大抑制効果がほんの少しだったとしても、それが現在の惨状を180度変えうるのだとご理解いただきたい。

「日本でもでき、感染を抑制でき、かつ経済も回せる」
それが頻回抗原検査だ。
同意いただけるようなら、ぜひ皆さんも日常生活やSNSで発信してほしい。
「日本こそ、頻回抗原検査を!」と。


参考記事
抗原検査でよく問題視される偽陽性について
https://fire-earlyretire.com/blog-entry-273.html


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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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