幸福の「資本」論 その1

ここから数回は、橘玲著、幸福の「資本」論について。

まず、僕の橘氏に対するスタンスはというと、
「非常に気になる作家」
という感じになる。
一番の理由は、2006年に刊行された、名著「臆病者のための株入門(文春文庫)」に、大いに感銘をうけたこと。
デイトレからインデックス投資、さらにプライベートバンクまで、投資というものの実情をとてもわかりやすく解説しているのに加え、文章もいい。
たった810円なので、投資に興味があって、読んだことのない人は、ぜひ一読することをお薦めする。
これを読まずして自分の金を動かすなど、アリエナイ! と声を大にして言いたい名作だ。

ただ、他の著作に関しては、全面的に支持しているわけではない。
「ファン」ではなく、「気になる作家」という表現にとどめたのは、橘氏の書き方にはふたつほど、賛同できない点があるからだ。

ひとつは、文献からのいいとこ取り。
科学研究の場に少しでも実を置いたことのある人なら知っていると思うが、世に出る論文のすべてに高い信憑性があるわけではない。
「トンデモナイ」ものもたくさんある。
だから、ちょっと変わった論文を引用する際には、それとは反対の立場からのものも併せ読んで妥当性を判断する必要があるのだが、橘氏はそれを十分に行っていないようにみえることがある。
それどころか、参考にしているのは論文自体ではなく、「論文を引用した一般書」だけで、元論文は読んでいないのではないか、と思えることや、自分の展開する論旨において都合のいい文章をひっぱってくるだけで、論文の全体像をくみ取っていないようにみえることが、ままある。
科学者として研究生活を送った経験のある僕としては、承服しがたい。

ところが今度は作家のはしくれとしての目線で考えてみると、実は理解できなくもない。
反対論文までしっかり読み込み、整合性の高いものを書こうとすれば、結論は常識的なものになってしまい、さっぱりおもしろくはならないし、専門の学者が書いたものの方が、出来がいいに決まっている。
参考文献の取捨選択において公平さを少し犠牲にして、自分の感性を前面に出すことをしなければ、そうそうユニークなものなど書けるわけがないのだ。
傍からみたら無茶苦茶な引用のラインアップであっても、おそらく橘氏の脳内ではちゃんと繋がっているのだと思う。
それが作家の技量であり、実力だ。
読者目線に立てば、「好きか嫌いか」の問題ということになる。
橘作品が人によって、「目から鱗」と評されることもあれば、逆に「トンデモ本」と嘲られたりするのは、そこをどう評価するかの問題であるように思える。
(実は評価が割れることに対する答えは、橘氏自身がこの本の中で述べているので、後日に紹介するつもりだ)。

橘作品のもうひとつの問題点は、自著からの引用が多い、すなわち、同じことを繰り返し書く傾向があるというもの。
幸福の「資本」論も、半分近くは、以前に書いたものからの引用や焼き直しになっている。
このことに対する批判は、Amazonのレビューなどでも、実に多い。
出す本のほとんどにおいて、かなりのページが旧作の焼き直しによってさかれるなどということは通常はない。

しかし橘氏の立場になって考えてみると、これに関しても、僕には全面否定することができない。
というのも彼はほとんどの著作において、前作の立場を踏まえた上で、新しい論理を発展的に提唱しているから、引用をしないとしたら、読者に、「過去の作品を読んだ上でないと、この本は理解できませんよ」と言うしかなくなり、はなはだ不親切だし、第一、そんな本が売れるわけがない。
引用の多さに関しては、橘氏としても苦渋の選択なのではないか、と僕は推測している。
逆にいうと、あまり本を読まない人にとって、彼の本は魅力的かもしれない。
最新刊を手に取れば、それまで彼が書いた本の「さわり」の部分は、ほぼ網羅されているのだから、1冊読むだけで、彼の長年の愛読者とほぼ同じ知識をもてることになる。

というような理由で、僕は彼の「ファン」にはなりきれない。
何冊かはもっているが、その重複の多さから、もはやお金を出してまで買うことはない。
もし僕が橘玲の本を再度買うとしたら、それは彼が亡くなるか、引退を表明したときだと思う。
彼のスタイルだと、最後の一冊こそが、まさに「橘玲のすべて」になる可能性が、非常に高いからだ。

前振りだけでけっこうな長さになってしまった。
肝心の書評は、明日、明後日にわけて書く予定でいる。 

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内山 直

2016年、47歳でセミリタイア。地方都市でゆるゆると生息中。
「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で、遺伝が50%。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってきます!

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