結局ファクターXとは何なのか? 徹底的に考えてみる。


なぜ日本ではこの程度の感染者数ですんでいるのだろうか?
まずは山中教授によるファクターX候補を紹介していく。

・クラスター対策班や保健所職員等による献身的なクラスター対策
・マラソンなど大規模イベント休止、休校要請により国民が早期(2月後半)から危機感を共有
・マスク着用や毎日の入浴などの高い衛生意識
・ハグや握手、大声での会話などが少ない生活文化
・日本人の遺伝的要因
・BCG接種など、何らかの公衆衛生政策の影響
・2020年1月までの、何らかのウイルス感染の影響(交差免疫)

それに僕から

・早期から3密を避けたこと
・大声を出す必要がなく、唾液も飛びにくい日本語の特性
・肥満率が低いなど、国民の健康レベルが高い

を追加する。

それを勝手に2つのカテゴリーに分類させていただく。

グループA 生活様式や行政の対応といった、「人体外の要素」
・クラスター対策班や保健所職員等による献身的なクラスター対策
・マラソンなど大規模イベント休止、休校要請により国民が早期(2月後半)から危機感を共有
・マスク着用や毎日の入浴などの高い衛生意識
・ハグや握手、大声での会話などが少ない生活文化
・早期から3密を避けたこと
・大声を出す必要がなく、唾液も飛びにくい日本語の特性


グループB すでに体が持ち合わせていた、「人体内の要素」
・日本人の遺伝的要因
・BCG接種など、何らかの公衆衛生政策の影響
・2020年1月までの、何らかのウイルス感染の影響(交差免疫)
・肥満率が低いなど、国民の健康レベルが高い


これで準備は整った。
まずはグループB「人体内の要素」。
これが大きな要因とは考えにくい。いずれももっともらしいのだが、実際の感染状況との整合性がとれないのだ。
そう考える最大の理由は、ダイアモンド・プリンセス号からの報告だ。これは乗船者全員に対して検査が実施されたため、情報としての確度が高い。
乗船していたのは半分以上外国人であり多くの欧米人も含まれていたが、日本人と欧米人とで感染率や死亡率に大きな差はなかった。
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.17.20068601v4
これは似た生活様式をとれば、日本人も欧米人も同様に感染することを示唆する。日本人の体内にうつりにくい要素があるのなら、船内での感染率も低くなるはずだ。

さらに8月1日時点での日本での新規感染者数の推移を見てほしい。
Eeve7TrUEAU8Hih.jpg
なんと1カ月で10倍にまで増えている。これをみてもなお「日本人は何らかの体内的要素によって感染しにくい」と考える人は少ないのではないだろうか?

さらにグループB「人体内の要素」の中の個別の項目について考える。
まずは人種的差異。
多民族国家、アメリカでの人口当たりの死者数を比べると、白人とアジア系は同レベルとされている。
https://forbesjapan.com/articles/detail/36316
ちなみに、黒人、ヒスパニックとの間にも差はなし。
https://www.nytimes.com/2020/12/09/health/coronavirus-black-hispanic.html?smtyp=cur&smid=tw-nytimesscience
さらに北海道大学は「新型コロナウイルスへの感染のしやすさは、遺伝子レベルでは地域や民族間の差がない」との分析結果を報告している。
https://mainichi.jp/articles/20200927/k00/00m/040/110000c

次にBCG接種の影響。これも考えにくい。
接種により短期的に他の病原体に対しても免疫力が上がることは以前から指摘されている。
しかしBCG接種国で感染が広がりにくいのが事実だとしたら、免疫力が上昇した状態が接種後数十年続かなければならない。
BCGワクチンの効果はそもそもの結核に対してさえ、10~15年程度とされている。
パンデミック初期において感染者が先に出たのは日本や韓国なのに、欧米があっという間に追い越していったから、「何かあるはず」と感じるのも無理はない。
しかしこのところ人口当たりの新規感染者数が多いのはBCG接種が義務化されているバルカン半島諸国が中心だ。人口当たり新規感染者数がアメリカの倍近い国がいくつもある。
スクリーンショット 2020-12-01 132242
なぜBCG接種説がもてはやされたのかは以前に分析しているので、興味があればご覧頂きたい。
https://fire-earlyretire.com/blog-entry-99.html

次は交差免疫。
これに関しては否定的な論文が複数出ている。
https://twitter.com/3Cj0MeO8oomX9C6/status/1327076466824196096
一般的な季節性ヒトコロナウイルスに対する抗体は、新型コロナには役に立っていないようだ。

最後は、肥満率が低いなど、国民の健康レベルが高いこと
これは関係があってもよさそうなのだが、実は日本では感染の広がりは欧米より遅いものの、致死率はあまり変わらないされている。
https://fire-earlyretire.com/blog-entry-162.html
健康レベルが高いから感染率は低いが致死率は変わらないという理屈は考えにくいので、一旦は除外(最後に再度考察する)。

これらの知見によりグループBの影響が少ないとすると、日本人に感染者が少ない理由のほとんどが、
グループA 生活様式や行政の対応といった、「人体外の要素」
に見出されるはず、ということになる。

どのポイントが大きく貢献したのか、順にチェックしていく。
・マスク着用や毎日の入浴などの高い衛生意識
・ハグや握手、大声での会話などが少ない生活文化
これらは関与していないと考える方が難しい。
特にマスクの効果は絶大で、散々書いてきたので繰り返さないが、もしいまだにマスクの効果に懐疑的な人がいるようなら、下記記事を参照してほしい。
https://fire-earlyretire.com/blog-entry-272.html
・早期から3密を避けたこと
これがその後、海外でも3Csとして賞賛されたことはご存じの方も多いだろう。
現在では感染のかなりの割合をエアロゾル感染が占めることが確定的になってきており、3密回避の合理性が論理的にも証明されつつある。
https://fire-earlyretire.com/blog-entry-275.html
・マラソンなど大規模イベント休止、休校要請により国民が早期(2月後半)から危機感を共有
これも大きい。流行の立ち上がりを欧米に比べ低く抑えることができた。対岸の火事と楽観していた欧米で瞬く間に感染が広まったのと好対照といえる。
・クラスター対策班や保健所職員等による献身的なクラスター対策
感染者数が比較的少ないうちは効果が出やすい。第一波においては一定以上の役割をはたしたと考えるべきだろう。
・大声を出す必要がなく、唾液も飛びにくい日本語の特性
僕はこれもある程度関与していると考えている。興味のある方は下記記事を参照してほしい。
https://fire-earlyretire.com/blog-entry-284.html

というわけで、日本で感染者数が少ないことに対する僕の結論。
主たるファクターXは、マスクの着用。
感染初期から国をあげてユニバーサルマスキングを達成した効果には疑う余地はないように思える。
さらに、
・クラスター対策班や保健所職員等による献身的なクラスター対策
・マラソンなど大規模イベント休止、休校要請により国民が早期(2月後半)から危機感を共有
・毎日の入浴などの高い衛生意識
・ハグや握手、大声での会話などが少ない生活文化
・早期から3密を避けたこと
・大声を出す必要がなく、唾液も飛びにくい日本語の特性
これらの効果も大なり小なりあったと考える。
その他の要素の影響も否定はしないが、あったとしても軽微だった可能性が高そうだ。

最後に致死率について触れる。前述したように現時点で日本での致死率が低いという報告はないが、僕は普通に考えれば低くあるべきだと考えている。
一番の理由はやはりマスク。
マスクには感染予防効果だけでなく、感染が生じてしまった場合の症状の出現率や致死率を下げる効果もあると考えられている。
https://fire-earlyretire.com/blog-entry-194.html
早くからユニバーサルマスキングを達成していた日本では致死率が多少は低くあるべきなのだ。
さらに肥満度の低さをはじめとした健康レベルの高さも致死率を押し下げる効果があるはずだ。
整合性のとれる説明として
・データが揃っていないだけで、実は日本での致死率は欧米より低い
あるいは
・条件の良さを高齢者比率の高さが打ち消し、結果他国と同レベルになっている
という2点を挙げておきたい。

というわけで結論。
ファクターXはマスク。
さらに生活習慣や初期の対策、早い時期からの警戒といった要素を副因として挙げておきたい。

ちなみにうまくいっている理由は国によって異なり、これが他国にそのまま当てはまるわけではない。
興味があれば下記記事をご覧頂きたい。
https://fire-earlyretire.com/blog-entry-270.html


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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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