コロナ禍の少し前に書いたブログを転載。懐かしい人と会うの、苦手なのです。。。
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僕は古い知り合いに会うのが好きではない。
そもそも記憶力が悪いので、相手の名前だけでなく、共有しているはずの思い出を忘れてしまっていることが多い。先方が懐かしそうに色々なことを語ってくれるのに、そのほとんどを思い出せず、曖昧に返事をするのはなんとも気まずい。
でも、実はもっと大きな理由がある。僕は過去の自分と向き合うのが嫌いなのだ。
若いころの自分には悪い印象しかもっていない。なにもわかっていないくせに、傲慢かつ粗暴。物事を斜めから見る癖が過ぎていたし、周囲と協調し、集団行動をとるのも苦手。
古い友人と会うとどうしても昔話になるから、過去の自分と向き合わなければならない。すると自分の幼稚だった側面ばかりが色濃く浮かび、やるせない気分になってしまうのだ。
先日、友人たちにとあるバーへと連れて行ってもらった。最近できた店で、しばらくハワイで生活していたTさんが帰ってきてはじめたバーだ。
僕は30年前、まだ医学生だったころ、当時彼がやっていたバーでよく飲んでいた。ずいぶん昔の話で、Tさんにとってはハワイに行く前にやっていた店の、さらにその前の店ということになる。
住宅街の一角で看板も出さずにやっているようなアングラな店で、外国人の比率がやたら高かった。センスのいい音楽が大音量でかかっているのがウケたのだろう(地元では当時、そういう店は珍しかった)。
その後、無事国家試験に合格してからは忙しくなったので、その手のにぎやかな店に顔を出す機会もなくなり、店主であるTさんとも疎遠になっていった。
で、今回。
最初に書いた通り、友人に連れられてTさんの新しい店に行った。
この時は、「古い友人に会うのは嫌だな」という、いつもの引っ込み思案な性格は出なかった。あまりに昔の話であり、Tさんが僕のことを覚えていることもないだろうと思ったから。
その時一緒にいた他のメンバーはみなTさんの店の常連だから、僕は隅で静かに飲んでいればいいや、とそんな気楽な気分で店に足を踏み入れた。
Tさんがほぼ一から手を入れたという内装は、実にいい。音楽も相変わらずすばらしい。
たまたま店内は空いていて、僕らの貸し切り。Tさんが手がける空間が懐かしく、それまでの店での酔いも手伝って、実にいい気分だった。
(あとで聞いたところ、たまたま空いていたのではなく、とっくに営業時間は終わっていたのに開けていてくれたのだとこと。やれやれ)
僕の友人たちと、Tさんとの話は弾む。Tさんからはハワイでの土産話も多いので、なおのこと盛り上がる。
数分後、ようやく僕と目があった。メニューにおすすめとあったブラディ・マリーを頼むと、Tさんは目を丸くして言った。
「おおっ、なつかしい顔が! ずいぶん久しぶりだねえ」
まさか覚えられているとは思ってもいなかった僕は仰天する。30年ぶりだから人相だって変わっているはずだ。
「覚えているさ! 当時からブラディ・マリー好きだったじゃない?」
そうだっけ?
「あの頃はずいぶん尖がってたよねえ」
ええっと、それ、誰か別の人と勘違いしてません?
「あの後、ちゃんと医者になれたの?」
ううむ、やはり僕のことのようだ。
「医者にはなったんだけど、最近辞めちゃいました。今は物書きもどきをやってます」
僕がそう言うと、
「へええ、あいかわらず尖ってるなあ」
とTさん。
いや、昔も今も、全然尖ってなんかいないんだけどね・・・。
常日頃から世の中についても自分自身についてもわけがわからないことだらけの中、なんとかバランスを保ちながら生きているのに、昔の話、しかも自分の記憶とは異なる話を持ち出されるのはなんとも気色が悪い。いつのまにか肉体が入れ替わって、他の人の人生を歩いてるんじゃないか? そんな妄想まで湧いてしまう。
酔っていればカオスはさらにその勢いを増し、体ごと飲み込まれそうになる。
底がぬかるんだような居心地の悪さから抜け出すには、もっと飲むしかない。そしていつも通り、ひどいことに・・・。
だから僕は、古い友人に会うのが嫌なのだ。
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新型コロナの影響で、Tさんの店にもさっぱり行けていない。
まさか僕がこんなに飲み屋から遠ざかる日が来ようとは。。。
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