日本の新型コロナ対策は民度が高く、同調圧力が強い国民性によって比較的うまくいってきた。しかし現在流行している変異株は、今までのやり方では太刀打ちできそうもない。
マスクの装着率が高い日本に欠けているのは、「無症状者へのスクリーニング検査」と「換気」だと僕は考えていて、それについて2日にわけて書きたい。
かなりのボリュームになってしまいそうだが、大切な点をすべて網羅する意気込みでいるので、ぜひ一読してほしい。
今日は頻回抗原検査について。
まずはこの図。

感染してからまもなく感染性(体内のウイルス量)は急激に高まり、5日後くらいをピークに徐々に減少していく。感染後10日から2週間でほぼ周囲にうつすことはなくなると考えられている。
感染者を検査でみつけられるのはいつか?
水平に走る2本の点線に注目してほしい。
上の低感度検査が抗原検査、下の高感度検査がPCR検査と考えてもらっていい。
検出できる期間はPCR検査のほうがはるかに長い。加えて感度(偽陰性にならない確率)、特異度(偽陽性にならない確率)ともに高い。
症状が重症化するのは感染性が高い時期と一致しないから、有症状者を適切に診断し、治療に結び付けるにはPCR検査のほうが有用だ。
さて、そこから少し視点を変えて、治療目的ではなく防疫目的、つまり感染を広げないための検査としてならどうだろう?
PCRで検出できて、抗原検査で検出できない期間のほとんどは図の黄色の部分、すなわちすでに周りに感染させる力がほとんどなくなった後の期間に該当する。この期間の感染をとらえ、隔離することに防疫上の意義はない。
では赤い期間はどうか? これから感染性が高まる直前の時期だから見つけ出すことは非常に大切だ。
ただしこの期間は非常に短く、通常は1日もないと考えられている。
ならば高感度だが翌日まで結果がわからないPCR検査を週1回やるのと、低感度ですぐ結果がわかる抗原検査を週2回やるのとでは、どちらが無症状者へのスクリーニング検査として有効だろう?
少し考えれば後者と誰でもわかるし、実はすでに立派なデータが出ている。
これは日本語の記事。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/11/post-95076.php“2020年11月20日に学術雑誌「サイエンスアドバンシズ」で発表された研究成果によると、検査頻度の高さと検査所要時間の短さが感染者の効果的なスクリーニングにつながる一方、検査精度の高さは限定的な効果にとどまるという”
(記事の元になった
論文)
そして周囲に感染させやすい人は当然ながらウイルス量が多く、抗原検査でも捕捉しやすいはずだ。
実際にどのくらいのウイルス量が問題になるかについては、まずはNEJMに掲載された韓国からの報告。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2027040?query=TOC「ウイルス培養陽性はPCR検査でCt値が28.4以下のもののみ」とのこと。
RNAコピー数に換算すると数万以上ということになり、これならかなり出来の悪い抗原検査キットでも十分検出できる。
(Ct値とRNAコピー数との関連は
こちらを参照してほしい )
国産抗原検査キットのデータをみると、1600コピー以上ならPCRとの一致率が100%の物が多い。数万コピーあればバリバリに陽性がでると考えていいだろう。
「培養が技術的に難しいだけで、本当は陰性でも感染性はあるんじゃない?」との疑問もあるかと思うが、この論文では発症から12日目まで培養陽性が出ている。
新型コロナでは発症から10日たてばほぼ感染性はないとされており、発症者の隔離義務も10日間。12日目まで陽性例が出るということは、培養試験が感染の有無を知る指標としてうまく機能していることを示唆する。
次はこちらの論文。
https://www.nature.com/articles/s41467-020-20568-4さきほど紹介したものよりやや大きな数字で、RNAコピー数10万以上でようやく培養可能となっている。これに関しても発症後20日まで培養陽性がでているので、培養技術が低いわけではなさそうだ。
Ct値に換算するとやはり28以下で、上の論文と同じ数字が算出される。
僕の知る限り認可を受けている抗原検査はすべて、ウイルス量が多い検体での感度は100%に近い。
つまり「新型コロナウイルスを人に感染させるには相当量のウイルスが必要であり、抗原検査でも容易に検出できる」ことになるのだ。
感染を周囲に広げるのは感染者の2割程度との従来からの知見とも合致する。
こちらの論文は査読前だが、PCR検査陽性例でのCt値、培養の可否がきれいにまとめられている。
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.11.18.20234104v1.full.pdf
培養ができて抗原検査陰性だったのはオレンジの部分だけ。ごくわずかであるとわかる。
特にCt値25以下だと897人のうち888人が迅速検査で検出されている。
これでもまだ「それでも見逃しは少しはある!」と主張する人もいるだろう。
その通り。ある。
あるいは「感染初期のウイルス量が増える前なら陰性になってしまう」との意見。
これまたその通り。
しかしそれはPCR検査でも同様なのだ。抗原検査よりは少ないが、一定数の見逃しがある。だからこそ「頻度」が重要になってくる。
本稿冒頭の「感度より頻度」の話に戻るというわけだ。
日本ではPCR検査の拡充が遅々として進まない。
検体採取(唾液でも可能だが、鼻咽頭ぬぐい液を採取するには防護服が必要)→検体の輸送→機器を要する検査過程→結果の通知、という多岐に渡るステップが目詰まりをおこし、拡充はそう簡単ではないのだ。特に日本には硬直化した保健行政という一朝一夕では解決できない難題がある。
しかし抗原検査ならどうだろう?
コンビニで薬局や数百円で買えるように法改正さえすれば、その後の行政の介入は不要だ。自分で買って自宅で検査し、15分から30分で自己判定できる。
安い、早い、手間いらず。感度でPCR検査に劣る点は防疫上大きな問題ではないのは前述した通り。
実際、欧米各国では「防疫目的の検査は抗原検査」が常識になりつつある。
(参考記事;
世界で広がる抗原検査。最近の欧米の動きを報告する。)
日本はPCR検査、ワクチンのみならず、防疫目的での抗原検査に関しても他の先進国から周回遅れになっているのだ。
変異株が今後まん延していくことはほぼ確実な情勢にある。今頃動いてももはや手遅れと思われる方もいるかもしれないが、決してそんなことはない。
実は日本には、このままだと大量廃棄される可能性すらある抗原検査キットが1000万個も残っているのだ。下リンク記事から引用する。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/80383新型コロナ「抗原検査キット」が、まさかの「大量廃棄」される事態になっていた。
「冬場にインフルエンザとコロナがダブルで流行し、PCR検査だけでは追いつかなくなると予想していたため、短時間で結果が出る抗原検査の発注を増やしたのです。
ところがインフルがまったく流行せず、完全に読み違えてしまった。もし、このまま使用されなければ、厚労省が在庫を買い上げざるを得ないのですが、買っても使い道がないので、廃棄するしかありません」
当然、その費用は税金だ。実際、補正予算案を見ると検査キット等の買い上げ目的として、179億円が計上されている。
大量に余り、このままだと破棄される可能性すらある抗原キットを、変異株拡大地域に一気に投入すればいいではないか。
現在の高価格(日本の医療現場での購入価は1キット5000-6000円)では話にならない。これはそもそも医療点数がそこに設定され、メーカーが横並びに販売価格を寄せたにすぎない。
国が号令をかければ、市販許可と引き換えに一気に1000円以下にまで引き下げられるはずだ。これを無料で配布してもいいし、補助金で援助して2-300円で市販してもいい。
たまに「日本の抗原検査キットは低精度で使い物にならない」と勘違いしている人がいるが、厚労省資料や諸論文をあたる限り、日本でもっとも多く生産されている富士レビオ・エスプラインはかなり高精度のようだ。
以下はエスプラインと欧米の製品とを直接比較した論文3点。
高精度キットの代名詞のようになっているアボット社・PanBioとの比較において、かなり前のものだが、Panbioの方が高精度という論文も確かにある。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0009898121000553
しかしスイスの機関が多数のキットを調査した報告ではエスプラインのほうが高精度。
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.03.19.21253950v1
こちらの論文でもエスプラインのほうが高精度との結果に。
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.01.27.21250659v1.full
ちなみに表の一番上にあるもっとも高精度のYCU-FF LFIAは、富士フィルムの「IMMUNO AG」に該当する。
https://www.fujifilm.com/jp/ja/news/list/6068写真の現像プロセスで用いる銀塩増幅反応による高感度検出技術を応用したもので、その分感度が高くなっており、これもすでに量産体制に入っているとのこと。
抗原検査を含めた体外診断用医薬品の承認情報はこのサイトでチェックでき、矢継ぎ早に認可がなされていることがわかる。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11331.htmlもしこれら国産キットで足りなければ、もちろん精度を確認の上でだが中国から大量輸入してもいい。中国は抗原検査キットの生産量が多く、しかし封じ込めに成功し、PCRリソースがふんだんにある自国では不要なため、世界中に輸出している。
打つ手は、ある。
「日本でもでき、感染を抑制でき、かつ経済も回せる」
それが頻回抗原検査であり、もはや世界の潮流だ。特に現在流行しているイギリス型変異株では感染者のウイルス量が多い傾向があり、感度で劣る抗原検査キットでもより捕捉しやすい可能性がある。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/10282-covid19-42.html同意いただけるようなら、ぜひ皆さんも日常生活やSNSで発信してほしい。
「備蓄した抗原検査キットの放出を!」もう時間はありませんよ。
ランキングに参加してます。ぜひ一票を。
更新の励みになります!
↓
にほんブログ村