もっと「空気感染」という言葉を使おう! 「飛沫感染が主」では換気の重要性が伝わらないって!


新型コロナ対策における日本の弱点。
昨日の抗原検査に続き、今日は換気について書きたい。

マスク着用率が高い日本でも感染拡大が止まらない。
自粛とマスクによってインフルエンザをほぼ封じ込めたのに新型コロナウイルス、特にイギリス型変異株が拡散を続けるのはなぜか? さらに多くが経路不明なのはなぜか?
普通に考えたら「空気感染するから」だろう。
インフルエンザの方が「大きめの滴」に乗って伝播する割合が高いため、マスクによって容易に防御できるが、新型コロナのほうが「小さめの滴」で感染するためマスクでの防御率が下がる。
また、飛沫感染なら感染機会はマスクを外す場が主になるから経路がたどりやすいのに対し、「小さい滴」での感染ではマスクをすり抜けるから本人に危険行動をした自覚はなく、結果的に経路不明になりやすい。
では「小さめの滴」に対抗するにはどうしたらいいのか?
換気すればいい。空気を入れ替えればマスクをすり抜けるような小さな滴は容易に屋外へと放出されるはずだ。
こんな当たり前の話が日本ではなぜか広まらず、ろくに換気をしない店がいまだに多く存在する。
その責任は専門家たちにあるというのが僕の主張だ。
今日は「空気感染なんてしませんね。へへへー」と嘯く自称・専門家たちへの抗議の意味も込めて書きたい。

さて、まず空気感染の定義から(大阪大学医学部付属病院HPより)。

空気感染は下のふたつ
①飛沫核感染
感染者から排出され空気中に浮遊している飛沫核を未感染者が吸い込み、直接気管支内に入ることにより、感染を起こす経路
②塵埃感染
病原体に汚染された土壌、床などから生じ、気流、風などにより空気中に舞い上がり浮遊している塵埃を未感染者が吸い込むことにより感染を起こす経路

ちなみに①の飛沫核が「飛沫」とどう違うかというと、

飛沫核;直径4μm以下の小さい粒子。空気中で長時間浮遊。
飛沫;直径5μm以上の大きい粒子。大きく重いので空気中には長く浮遊しない(飛距離1m程度)。空気中での落下速度は30~80cm/秒。

となる。
でもちょっと待ってほしい。直径5μmって無茶苦茶小さいと思うんだけど、本当に浮かないの?
実はそうでもないらしい。そこで最近よくマスコミで取り上げられるようになったエアロゾルという概念を考える。
エアロゾルは気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子と周囲の気体の混合体のことで、粒径は分子やイオンとほぼ等しい0.001μm程度から花粉のような100μm程度まで約5桁にわたる広い範囲。
つまり飛沫核と100μmまでの飛沫がここに含まれることになる。100μm以下なら飛沫であっても空中を浮遊するのだ。
となると先程の飛沫の定義「直径5μm以上の大きい粒子。大きく重いので空気中には長く浮遊しない」がおかしいことになる。だって5-100μmは浮くんだもの。
ここがおかしいから、「たとえ多少は浮いていても空気感染じゃないよ。だって5μmあったら空気感染じゃなくて飛沫感染だから」という禅問答のような事態に陥るのだ。
(ちなみにマイクロ飛沫という言葉もあり、これは飛沫の中で浮遊しうるもの。つまりエアロゾルから飛沫核を除いた概念になる。ややこしい)
国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター長の西村秀一氏はこう語っている

直径5μm以上の飛沫は2m以内に落下するというのは、あくまで無風環境下での理論的計算値に過ぎません。現実の生活空間では空気は動いており、5μm以上の粒子であっても空中に浮遊して空気の流れに乗って移動するものがありますし、それらは短時間で乾燥によっていわゆる飛沫核に変わります。
airborneは空気を媒介とした感染です。C型肝炎のように血液を介した感染であればbloodborne、食べ物を介するならばfoodborneというのと同列です。媒介物は何かを言っているだけです。インフルエンザ学者の多くはインフルエンザもairborneだと考えていますし、新型コロナウイルスも、よくよく検討したらairborneであったということだけです。

さらに国立感染症研究所は、アメリカ合衆国の疾病対策予防センター(CDC)が1996年に発出した「隔離予防策のためのガイドライン」を下のように紹介している。

同ガイドラインによると、飛沫感染(droplet transmission)とは、「微生物を含む飛沫が感染源となる人から発生し、空気中を短距離移動し、感受性宿主の結膜・鼻粘膜・口腔に到達する感染経路」を指す。飛沫は空気中に長くとどまることがないため、特別な換気は必要ない。また、空気感染(airborne transmission)は、「飛沫核(airborne droplet nuclei)(微生物を含んだ飛沫(droplet)から水分が蒸発した直径5μm以下の小粒子で、空気中を長く浮遊するもの)あるいは病原体を含む塵埃(duct particle)の拡散」によって発生すると記されている。

記事で最初に紹介した定義に加え、飛沫感染なら特別な換気は不要とある。
つまり「新型コロナは飛沫感染であり、空気感染しない」のなら換気は不要のはずなのだ。
しかし実際の報告例からどう考えても換気は重要だ。そこで空気感染とは意地でも言いたくない(空気感染はないと言ってきたのが間違いだったと認めたくない)専門家は、「ある程度換気もしておいてね」と言葉を濁しているのが現状だ。

たとえばthe専門家、岩田健太郎氏はこう書いている

エアロゾルをよく問われる。エアロゾルは、発生しうる。しかし、めったに発生しない。
それが日常的にしょっちゅう発生しているのであれば新型コロナウイルス感染症はもっと激烈に広がるだろうし、現在行われているコンベンショナルな感染対策のほとんどは破綻しているだろう。

もちろんエアロゾルは山ほど発生する。岩田先生はエアロゾルを患者の吐しゃ物からくる状態など、限られたものと勘違いしているようだ。
そしてなぜか感染力と経路を一緒に語ってしまっている。「空気感染するが、空気感染にしてはかなり感染力が低い」と考えれば、簡単に説明がつくではないか?(これについては後で詳述する)
「空気感染する病気は普通は感染性が高い」ことから、逆に専門家ならではの思い込みをしているように僕からは見える。

ウイルス研究者の峰宗太郎先生も岩田先生と同様の見解のようだ。

空気感染が頻繁に起こるなら、対策は無意味であると思われ、日本でももっと広がっているでしょう。欧米は自分たちの感染制御の失敗が受け入れられず空気感染と言い出している面もあるかな。

なんと、世界がようやく認め始めた「空気感染」は言い訳との弁。
峰宗太郎氏もあくまでも定義はサイズ

「空気感染」は飛沫核感染とイコールという意味で言葉を使いますので、滞留時間関係なく、5μm以下かつ乾燥飛沫核による感染があれば空気感染と思います

しかし考えてほしい。
空中に漂う飛沫はいずれ乾燥して飛沫核になるに決まっている。この時、どの程度感染力が残っているかを議論する意味があるのだろうか?
感染防止のために重要なのは、換気がどの程度重要か? 換気に乏しい屋内なら2mあっても感染しうるのか?という点だ。決まり切っている。最初の答えは「重要」で、後の方は「感染しうる」だ。
たとえば韓国のスターバックスで新型コロナ陽性の客から、他の客56人に感染が広がった事例。
https://www.asahi.com/international/reuters/CRWKCN25F0AX.html
あっという間に下に落ちる飛沫や、接触によってとはとても考えにくい。
同様の事例は結婚式、合唱団などで報告されており、日本でも例えばさいたまで起きた劇団員の集団感染は状況が似ている。
https://mainichi.jp/articles/20201024/k00/00m/040/268000c

さいたま市浦和区の劇団「ミュージカル座」で91人中8割を超える74人が新型コロナウイルスに感染。

そして屋外での感染報告はほとんどないという記事がこちら。極端なことをいえば、屋外並みの換気をすれば感染はほぼ生じえないことになる。
https://www.japantimes.co.jp/news/2020/10/17/world/science-health-world/catching-coronavirus-outside-possibility/
昼カラオケ、カラオケ喫茶でこれだけクラスターが発生しているのに、カラオケボックスでは一例の報告もない。
https://www.barks.jp/news/?id=1000188738
その理由は「カラオケボックスでは新幹線並みの換気が行われているから」という指摘もある。
また、スイスのホテルでのクラスター。フェースシールドの人だけが感染し、マスク装着者の感染はゼロだったとのケースが記事になっている。
飛沫だけならフェースシールドでもかなり防御できるはずなので、これは空気感染であった可能性が示唆される。
https://www.thelocal.ch/20200715/only-those-with-plastic-visors-were-infected-swiss-government-warns-against-face-shields
これは英語の論文になってしまうが、サイエンス誌ではエアロゾル吸入が主な感染経路との主張も。
https://science.sciencemag.org/content/370/6514/303.2

というわけで新型コロナウイルスの感染経路として「空気感染」「エアロゾル感染」「飛沫核感染」「塵埃感染」のどれでもいいが、確かにある。このウイルスはまず間違いなく空中をフワフワと漂うし、ゆえに飛沫感染とは違う換気などの対策が必要になってくる。
そこさえわかれば、滴のサイズなどどうでもよろしい。
そもそも空気感染の定義と考えられている4μm以下という定義にもはや「実質的」な意味はないのだ。それよりはるかに大きくても、環境によっては立派に浮遊することがわかっているのだから。
そのような感染経路があると認めた上で、正しい対策を講じることこそ大切なはずだ。

ここから本稿では空気中をフワフワ漂って感染する経路を「空気感染」と、滴のサイズにかかわらず2m以内ですぐに落下するものによる感染を「飛沫感染」と呼ぶことにする。
浮世離れした専門家たちのたわごとはどうでもいい。この使い分けが一般の人に実態を理解してもらうのにもっともふさわしい言葉のはずだ。
ではこの空気感染。感染経路としてどの程度の割合を占めるのか?「主」なのか「稀」なのか?
接触感染はあまり多くないとされているので(https://fire-earlyretire.com/blog-entry-403.html)、主たる感染経路は「空気感染」vs「飛沫感染」となる。
これはまだ世界的議論の最中だが、僕自身は「空気感染」が主である可能性が高いと考えている。その根拠を羅列しよう。

・屋内で大量の感染が生じたとの報告が多い
・屋外での感染報告がほとんどない
・換気でリスクが減る
・無症状者からの感染が多い(咳やくしゃみをしなければ飛沫は飛散しにくいが、エアロゾルは会話で多く発生する)
・ある程度防備をしている医療従事者の感染が多い
これらは空気感染の特徴であり、いずれも飛沫感染では説明がつかない。

逆に反・空気感染論者がその根拠としているのは、先ほど説明した滴サイズを除くと
・近距離での感染が多い
・空気感染ならこの程度の実効再生産数ですむわけがない
の2つだが、その理由は説明できる。
ひとつめの距離。エアロゾルは飛沫よりもはるかに遠くに拡散することは事実だが、近距離の方が高濃度で存在する。3次元空間全体に広がっていく以上、距離とともに指数関数的に減少するため、空気感染であっても近距離での感染が多くなる。
ふたつめの実効再生産数。空気感染するウイルスといえば代表的な疾患は「はしか」であり、確かに新型コロナより感染力は強いが、そもそも感染拡大スピードと感染経路との間に直接の関係はない。
エアロゾル感染するが感染力は「はしか」より低い、で何の矛盾もないのだ。現に空気感染することで知られる結核の感染力は新型コロナとあまり変わらない。
新型コロナでは感染者の10-20%が病気の伝染の80%に関与していると推定されている。多くの感染者は周囲に感染させずに終わるのだ。この10-20%の感染力の強い感染者に目を当てれば、感染拡大スピードや経路はまるで「はしか」のようにみえてこないだろうか。
日本で多くの専門家が異口同音に唱える「飛沫感染が主たる感染経路」との主張には、このように薄弱な根拠しか存在しない。

ここまで読んで、まだ「空気感染なんてしませんよ、へへへー」と考える●●は、岩田健太郎氏くらいなものと信じたい。
2月の段階で、彼はこう言い切ってしまっている

「今後、空気感染が起こる可能性はありません」

過ちを認めたくない専門家が、みずからのプライドを守るためにこぞって世間をミスリードしているのだとしたら、こんなに情けない話もないだろう。

日本でも換気の啓蒙は「一応は」されている。しかし厚労省HPをみても消毒に比べ扱いははるかに小さい。
(国民の皆さまへ 新型コロナウイルス感染症の予防 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00094.html
しっかりした換気には「温度調節がしにくい」「音が外にもれる」「冷暖房費が高くなる」といった面倒な側面があり、しないですむならしたくないというのが多くの店舗経営者の本音だろう。
そこにきて、ほとんどの感染が接触や飛沫によるものと誤解していれば、換気を行わない店舗がいまだに多いのも当然だ。
結果としてマスクをし、距離もとっていてもクラスターが生じてしまう。https://rplroseus.hatenablog.com/entry/2021/04/13/155708
このような店を意識が低いと責めることはできない。不十分な啓蒙により対策を誤った犠牲者と考えるべきだろう。

新型コロナウイルスの主たる感染経路は「飛沫感染」ではなく「空気感染」。
どんなにしっかりマスクをしても、換気されていない屋内では、あなたのマスクをすり抜けてウイルスは侵入できる。だから屋内では徹底的な換気が重要だ。


政権や専門家がこう訴えてくれれば換気への意識が高まり、かなりの感染予防効果があると思うのだが、いかがなものだろうか?




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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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