西浦博氏による「何の対策も打たなければ42万人死亡」ははたして妥当だったのか?


漫画家、倉田真由美氏のツイートが炎上しているのが目に止まった。
https://twitter.com/kuratamagohan/status/1405035357222051840

専門家の「42万人死ぬ」予測の検証が必要ではと呟いた時、「何も対策しなかったら、と言ってるだろ!」という反発たくさんいただきました。昨年のコロナ死者、約3500人。42万人の100分の1以下です。これがすべて「対策のおかげ」?そのことも含め、検証が必要でしょう、と言っているんです。

ツイート中の専門家とはもちろん西浦博氏のことだろう。倉田氏は西浦博という名前さえ覚えてないのかな?
これは感染拡大初期の記事。
https://www.asahi.com/articles/ASN4H3J87N4HULBJ003.html

新型コロナウイルスについて、厚生労働省のクラスター対策班に参加する北海道大学の西浦博教授(理論疫学)は4月15日、不要不急の外出自粛などの行動制限をまったくとらなかった場合は、流行収束までに国内で約42万人が感染によって死亡するとの見方を示した。

西浦氏がどのように計算したのか知りたい人は、こちらの記事が比較的詳しいので、読んでみてほしい(長いので引用は割愛)。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/06/8-39_1.php

話を倉田氏のツイートに戻す。
まず「検証が必要」というのが僕にはよくわからない。
これは政権や専門家会議の発表ではなく、西浦氏個人の意見だ。検証したいのなら倉田氏が自分でやればいいし、数学が苦手なら得意な人に「個人的に」お願いすればいい。
自分の意に沿わない意見に対し、論理的に反論するのではなく、「検証が必要」とだけ述べるのは、頭を使わず否定している感じがして僕は好きでない。

そしてそもそも42万人という数字が適切なのかどうか?
僕にとっては去年、すでに結論が出ている。これは12月時点でのツイート。
https://twitter.com/uchiyamasunao/status/1336617721853669376

【マナウスからの報告により集団の76%まで感染が広がりうることがわかりました】
感染致命割合(IFR)を0.5%と仮定すると、日本で76%が感染すれば48万人が亡くなることになります。
この数字を感染初期にはじき出していたんだから、西浦先生はすごいです、ほんと。

解説すると、ブラジルのマナウス市では感染の拡大が早く、以前から集団免疫成立の目安になりうるとの側面からも注目されていた。
そんな中、サイエンス誌に発表されたのが下リンクの論文。
https://science.sciencemag.org/content/371/6526/288
感染率が住民の76%に上昇したことから、40-50%程度の感染では集団免疫成立には至らず、76%以上の感染が必要と考えらるようになった。
かたや新型コロナの致死率はどうだろう。感染致命割合には検査陽性者数を分母とする症例致命割合(CFR)と検査の有無にかかわらず感染者数を分母とする感染致命割合(IFR)とがあり、日本でのCFRは約2%。
単純に割り算で算出できるCFRと違い、IFRは実際の感染者数がわからない分算出が難しいが、様々な調査から大体0.5~1%程度ではないかと考えられている(ただし日本では人口に高齢者が占める割合が高いため、もう少し高い可能性がある)。
控えめに下限の数値、0.5%を採用して、それに日本の総人口、集団免疫成立に必要な感染率を掛ければ、対策なしで放置した場合、50万人近くが亡くなる計算になるのだ。
西浦氏が42万人と警鐘を鳴らした去年4月の時点では、集団免疫に必要な感染率も感染致命割合もわかっていなかった。
そんな中でこれだけ的確な数値予想ができたのだから、西浦氏はすごい!と上記ツイートで賞賛するにいたったわけだ。

日本で何の対策もしなかった場合、少なくとも40-50万人は死亡したと僕も考える。
さらに医療は完全に崩壊し、救えたはずの命も救えなくなる。加えて日本由来の強毒化した変異株が出現した可能性も低くはないから、その2倍程度、すなわち100万人が亡くなっていてもなんの不思議もない。
今は様々な知見が集積されているから、今なら西浦氏のような複雑をしなくても、僕が示した小学生レベルの算数でできてしまう。
「検証を!」との主張はもっともらしく、否定するのも難しいのだが、その前にちょっと自分の頭を使ってみたら、というのがちょっと辛口な今日の結論だ。

ちなみに僕は西浦氏のこの意見に賛成しているだけで、全面的に信頼しているわけではない。
強く批判する内容の記事も書いているので、興味があれば併せて読んでみてほしい。
西浦博氏の「中国が抑え込んだから周辺国はその恩恵を受け、ファクターXがあるようにみえた」に反論する。



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タイ風海老サラダ。ビールはもちろん、日本酒とも合います!

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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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