今日はあまりきれいな話ではないので、あらかじめお断りしておく。
僕は皮膚科医で、これは中々便利な専攻分野だと思ってきた。生活の様々な場面で自分のみならず、家族や友人の役に立てるのだ。
たとえばかぶれ、じんましん、ちょっとした傷などは、わざわざクリニックに行かなくても自宅で診察し、適当な薬を渡すことができる。
さらに疣贅、軟属腫といったウイルス性の「イボ」に子どもたちが感染した場合、本来なら何度か皮膚科クリニックに通院する必要があるのだが、これも自宅で処置できてしまう。
医者であればどの科だって一緒と思うかもしれないが、皮膚科以外だと結局は診断や処置に器具が必要になるため、通院に近いことをせざるを得なくなる。
たとえば外科医だからといって、「子供が盲腸っぽいから家で摘出しておくね」というわけにはいかない。盲腸を疑った場合はどのみち正規ルートで病院を受診し、手術をうける必要があるので、外科医であることの「役得」や「便利感」はほぼなくなってしまう。
ご存じのとおり、病院への通院というのも中々面倒なものだから、家族にひとり皮膚科医がいるというのはなんて便利なんだろう、と悦に入っていたし、感謝もされてきた。
逆に皮膚科医であることによる不利益などひとつもない……とも思っていた。
しかしこれは間違いであった。
今日は僕が「皮膚科医である」がゆえに起こった厄災についてお話ししよう。
今から6年前のこと。
この頃僕はアーリーリタイアを決意し、診療のかたわら、クリニックを継承してくれる医師を手を尽くして探していて、それなりにストレスは強かった。
そんなある日、シャワーで体を洗っていると、肛門の横に腫物があるのに気づいた。押すと痛い。
場所が場所なだけで自分では見れないのだが、触った感じや経過を考えれば、毛嚢炎か皮下膿瘍だろうと考えた。疲れがたまっている証拠だろう。
自分で切開、排膿をしようかとも考えたが、やはり場所が悪く、自分ではやりにくい。
結局、抗生剤を数日飲んで腫れは治まったが、その後にしこりが残った。
一番考えやすいには「粉瘤」かな、と思った。皮膚によくできる良性腫瘍で、肛門のすぐ脇にできてもなんの不思議もない。
しかし同時に、別の腫瘍の可能性も否定できないし、痔ろうの可能性も残る。それらの場合、放置した結果大きくなってしまえば、肛門機能を温存しての摘出が難しくなるかもしれない。
となれば人口肛門となる。
そのような展開はもちろん避けたいが、いかんせん自分では直視できない部位である以上、どの程度のリスクがあるのか判断できない。
なら他の皮膚科医に見てもらえばいいじゃないかって?
まったくもって、その通り。しかしそこで本稿の最初で触れた「僕が皮膚科医であるが故の問題」が生じる。
なにせ狭い業界。実は県内のほとんどの皮膚科医は顔見知りなのだ。
知り合いに肛門部の診察や、触診といった処置をしてもらうのは、大変心苦しく、恥ずかしい。
そんなわけで6年も放置していたのだが、定期的に痛み、かゆみ、腫れ、それに微量ながら排膿を繰り返すので、どうにもわずらわしい。
というわけで恥を忍んで皮膚科を受診し、摘出してもらう決心をした。
前述したように肛門のすぐ横の手術だから、直腸までつながっている可能性もあり、手術の難易度は高い。そこで手術は県内の皮膚外科分野でトップの先生に依頼することに。本来ならそれなりの必然性、そして紹介状が必要だが、僕だって皮膚科医の端くれだからそこはあらかじめ根回しの上、紹介状は自筆で作成。
今週初め、腫瘍専門病院の外来を受診し、その場ですぐに摘出していただいた。
これですっきり!
想像してほしい。6年間にもわたり常に頭の片隅にあった厄介ごとが、きれいに消え失せたのだ。気分は実に爽快で、誇張ではなく、景色がキラキラ輝いてみえる。
それにしてもこういうとき、皮膚科はやはり便利だ。手術分野で誰が真に優れているかを知っていて、さらにその医師に直々に手術を依頼できるのだから。
おまけに初診日に即手術。かつ抜糸のため再来する必要もなし(難しい処置ではないので、自宅で妻に抜いてもらうことにした)。
というわけで、冒頭の「皮膚科医ゆえの厄災」との前言は撤回せねばなるまい。終わってみれば、気の持ち方ひとつで解決できる問題であった。
やっぱり皮膚科医は便利! 我ながらいい職業を選択したものだとほくそ笑みながら、今はまだ術創をいたわるため、ゆるゆると日々を過ごしている。
抜糸まであと3日。それまではのんびり過ごすことに…ア、イテテ。
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