コロナ報道について首を傾げること

コロナ禍についての報道で、ちょっと首を傾げることがある。
今日はそれについて書いてみたい。

最近、東京都医師会長がテレビに出演し、危機的状況だと繰り返し話している。
するとコメンテーターや視聴者の中には、「医師会長が大変だと言っているのに、なぜ政治家の意識は低いんだ!」と憤る人もいるようだが、それはちょっと違うと思う。
まず、医師会というのが何かというと、建前上はいろいろあるが、実態は医師、特に開業医を中心にした政治団体だ。
決して学術的な集まりではない。
したがって医師会長は、医師としてすぐれているとは限らない。
むしろ政治的な能力が高い医師が就任していることがほとんどだ。
一方、政府が諮問している専門家会議のメンバーには感染症のプロが何人も含まれている。
それらのプロが膨大なデーターを分析した上で、日々政府にアドバイスしているというわけだ。
どちらの意見が信ぴょう性が高いのかは言うまでもないだろう。
(そしてもちろん両者とも、テレビ朝日の玉川氏より1万倍は詳しい)。

非常事態宣言で政府が要請している内容は甘い、もっと厳しい制限が必要だという意見も多い。
僕が見た限り、テレビのコメンテーターは異口同音でそう主張している。
感情的にはもっともだと思うし、僕だってそう感じることもある。
ただし知ってほしいのは、上述したとおり、政府の要請内容は感染症のプロたちのアドバイスを受けた上での決定であること。
僕を含め、一般市民には理解の難しい、高レベルな議論が日々交わされているはずだ(そう信じたい)。

それに加え、制限の出口についても考えてほしい。
もしこれが厳しい行動制限によって、1カ月程度で完全に収束するのなら、僕だって厳しい制限に賛成する。
ただ、おそらくそうはならない。
感染者数がゼロにならない以上、人の動きが戻れば、ウイルスは再度蔓延していく。
ワクチンや治療薬が開発されるか、あるいは集団免疫が成立する日まで、人類は一定の行動制限を続けざるをえないのだ。
下手すればそれは年単位に及ぶ。
であれば規制も、状況が許す限り緩いものにしないと、経済が壊滅的な被害を受けてしまいかねない。
金よりも命が大切などと簡単に言わないでほしい。
経済的苦難がどれだけ多くの自死者を生むのかは、バブル崩壊後のデータからも明らかだ。

なによりも問題なのは医療崩壊だろう。
これは何としてでも阻止しなければならない。
ただ、医療崩壊が起きない範囲でなら、若者を中心に少しずつ感染者が増えるのは悪いことばかりではない。
免疫をもつ既感染者が増えれば、流行は収束していくからだ。
となれば医療崩壊を起こさないぎりぎりのレベルで、経済活動を維持するのが理想ということになる。
政府や専門家会議は、膨大なデータと豊富な知識をもとに、そのぎりぎりの落としどころを探っているはずだ(そう信じたい)。
であれば現在の政府方針である、「とりあえず都の意見より少し甘めのラインを引き、その後の推移を慎重に見守る」というやり方は、悪手だとも言い切れないのだ。

政府対応の生温さについて、欧米のロックダウンを引き合いに説明する人も多いが、これもちょっとピントがずれている。
日本のほうが感染者の出現はずっと早かった。
なのに欧米は、あっという間に日本を追い越してしまった。つまり、対応を誤ったのだ。
失敗してきた国々はここまで悲惨だから、今まで比較的うまくやってきた日本もそうなりますよと言われても、いささか説得力に乏しい。
参考にし、できれば真似をするとしたら、欧米ではなく、うまくやっている韓国や台湾であるべきだと思う。ちなみに韓国でも台湾でも、欧米のような形でのロックダウンは行われていない。
(それにしても欧米メディアがこぞって日本政府の対策を批判しているのには笑ってしまう。日本、韓国、台湾など、普段は下にみている国々が自分たちよりはるかに善処している現実に苛立っているのかもしれない)。

日本では欧米のような休業補償がないという怒りの声も多い。
これも、ちょっと待ってほしい。
まず、アメリカでの休業補償など、微々たるもののはずだ。
年収の上限を定めた上で、大人1人につき現金1200ドル(約13万円)、子ども1人につき500ドル(約5万5千円)を直接支給。
僕が報道で知っているのはこの程度だ。
アメリカでは休業したお店は所得が補償されると一部のコメンテーターが言っているが、ちゃんとソースはあるのだろうか?
補償がそこまで厚いのなら、失業保険給付の申請件数が、先月中旬からの3週間で1600万件(!)を越えたりするはずがないのだが。

一方、ヨーロッパでは確かに休業補償が手厚い。
なんといってもヨーロッパは消費税が20%の、高福祉国家なのだ。
消費税が10%程度のアメリカや日本がこれを真似するのは、とても難しい。
日本人は消費税を抑える代わりに、ある程度の自助努力を国民に要請する、アメリカに近い社会システムを選択してきたのではないか?
ヨーロッパ並みの庇護を要求するのなら、四の五の言わずにヨーロッパ並みの消費税率を受け入れるべきだった。
高福祉国家は税金が高い。逆に税金が安ければ国からの補助は少ない。
当たり前の話だ。
もちろんセフティネットは必要だが、今の日本にできることは残念ながらあまり多くはない。

僕だってもちろん専門家ではないので、間違ったことも書いたかもしれないが、個人的に感じたことをメモしてみた。

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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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