遺伝の影響を調べる「双子の研究」ってどんなもの? ~ 親ガチャについて考える1


親ガチャという言葉が一時期流行った。ググってみるとこんな解説が。

「子どもは親を自ら選ぶことはできない」という意味です。 人生を大きく左右する家庭環境や境遇などは運任せだということを指します。

人によって定義は違うようだが、受け継いだ遺伝子より家庭環境に重点をおいた論説が多いように見受けられる。
心地よい話ではないが、確かに真実。
そして遺伝や家庭環境がその人の才能や人格に与える影響力の度合いは、ある程度わかっているはず……。
そう思って本棚から取り出したのが数年前のベストセラー、安藤寿康著「遺伝子の不都合な真実(ちくま新書)」。
本記事での引用は同書、あるいは下記サイトで紹介されている安藤氏の講演、インタビュー記事のいずれかからのものであるとお断りしておく。
https://kodomogakkai.jp/cafe2-1.html
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/01/post-6659.php


遺伝子の影響度合いがどのように調べられているかがわからないと、さっぱり信ぴょう性があがらないと思うので、まずは「双子の研究」について説明する。
一卵性双生児はまったく同じ遺伝情報をもつが、二卵性双生児では遺伝的類似性は半分の50%にとどまる。二卵性双生児の場合、生まれてきたのがほぼ同時なだけで、遺伝的類似性は一般的な兄弟姉妹と変わらないわけだ。
一卵性双生児と二卵性双生児との差異を計算すれば、理論上は遺伝の影響をパーセンテージで示せることになる。以下は引用。

cafe_02_07.jpg

双生児の相関係数からは、さらに細かな情報を得ることができます。双生児の相関係数、つまり類似性は、出生体重を例にとると、横軸にふたごのかたわれ、縦軸にそのきょうだいの数値を取った時の点の集まりのように、一方が重ければもう一方も重く、また逆に一方が軽ければもう一方も軽い、ただその類似性は完全ではなく、ある程度ばらついて下図のようになるものです。これが二卵性になれば、やはり同様に右肩上がりの図になりますが、一卵性ほどは似ていないことがわかります。

その人の今に影響を与える遺伝以外の要素は環境しかなく、環境は共有、非共有のふたつにわけることができる。
家族のメンバーを類似させるような環境が共有環境で、これは一般にいう「親ガチャ」や「家庭環境」に近いと考えていいだろう。一方で家庭のメンバーをひとりひとり異ならせるような環境を「非共有環境」と呼んで区別する。
たとえば兄弟のどちらにも厳しいしつけをする親がいたとき、どちらにとっても品行方正な態度を育てるのに寄与していれば共有環境。一方は品行方正に育てても、一方がそれに反発して育った場合は非共有環境として働くことになる。

ここで一卵性、二卵性それぞれに相関係数を調べてみますと、一卵性で0.70、二卵性で0.58になります。ここでなぜ一卵性が0.70になったかというと、それは全く同一の遺伝子によるという理由と、さらに同じ環境に育ったこと、つまり共有環境によるという理由があります。すなわち【0.70=遺伝+共有環境】ということになります。一方、二卵性双生児がなぜ0.58になるかというと、共有環境の影響は一卵性と同じと考えられますが、遺伝がその類似性に及ぼす影響は、遺伝子を半分だけ共有しているということから一卵性の半分ということになります。つまり【0.58= 1/2遺伝+共有環境】です。これで、遺伝と共有環境の簡単な連立方程式ができました。遺伝をx、共有環境をyとおけばもっとわかりやすいでしょう。

0.70= x + y、0.58= 1/2 x + y

ここから遺伝の影響(x)は0.24 (24%)、共有環境の影響(y)が0.46 (46%)であることがわかります。それだけではありません。同じ遺伝子と環境を共有する一卵性双生児でも、完全な一致である1には満ちていない。その1に満たない分は、同じ環境で育ちながらも一人ひとりに固有な環境の影響、つまり非共有環境の影響を表しています。

1-0.70=非共有環境

ここでは非共有環境の影響が0.30(30%)ということになります。このように一卵性双生児と二卵性双生児の類似性のデータがあれば、遺伝、共有環境、非共有環境という三つの要因の相対的な寄与率がわかるわけです。

このようにわりと単純な計算によって遺伝の影響と、共有・非共有のふたつの環境の寄与率を算出することができる。おもしろいでしょ?
いわゆる親ガチャで問題になる家庭環境は共有環境に含まれ、非共有環境は親ガチャとはいえない。また、遺伝子だって本来は親ガチャなのだが、冒頭で書いたように親ガチャという場合、受け継いだ遺伝子よりも家庭環境を指すことが多いようだ。
では人がもつ色々な性質について、遺伝、共有環境、非共有環境はそれぞれどの程度影響しているのか?
それについては明日述べたい。



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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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