今年中に週半日の外来診療を止めようと思っている


僕がアーリーリタイアを宣言したのが2016年2月。自分の診療所での診療をほぼ後輩医師に任せ、ほぼ自由の身となった。
その翌年、2017年春に僕の診療所は廃院となり、後輩医師がすぐ隣の土地で患者さんとスタッフをそのまま引き継ぎ新医院を発足。
その際、新医院への移行をスムーズにするため、しばらく週に半日だけ診察をしてくれないかと頼まれた。
僕にしてみれば、完全に医療業界からおさらばするつもりで心づもりをしていたから、やっかいなことになったと逡巡する気持ちもあったが、診療所を継いでくれた後輩からの頼みでは断わりづらい。一肌脱ぐつもりで引き受けた。
それも1年くらいかな、と勝手に推測していた。医師が新規で開業した場合、半年から1年くらいで厚生局から「新規指導」なるものをうける。
それを無事通過したらお役御免でいいのでは、と。
ところが新規指導が終わっても、後輩医師から「そろそろ」との声がかからない。
僕のほうも念願だった著作(幸せの確率―あなたにもできる!アーリーリタイアのすすめ)を出版することができ、時間的にも精神的にも余裕があったのに加え、どうしても僕に診てもらいたいという患者さんもそれなりにいたため、自分から辞めると言い出すのもはばかられ、そのままずるずると診察を続けていた。
その時、念頭にあったのは3年。さすがに3年もやれば社会的責任は十分果たしたと胸を張れるだろうとの思いでいた。
ところが3年目を迎える直前、2020年初頭に新型コロナウイルスが日本でも確認され、医療機関でもマスクが入手できない非常事態に陥った。
このタイミングで辞めるとは言い出せなかった。後輩医師が濃厚接触者にでもなれば変わって診察を受け持つ局面もあるかも、と引き続き診察を続けた。
そして今月で新医院発足から丸5年。
今度こそキリがいいし、パンデミックも落ち着いて来た。ここで辞めなければ次の節目である10年くらいまで漫然と続けることになりかねない。
それは僕の本意ではなく、「今しかない」と切羽詰まった心境で後輩医師に辞職に気持ちを伝え、引き止められはしたが、最終的には了承してもらえた。
今年ぎりぎり一杯だと社会保険などの切り替えであたふたしそうなので、余裕をもって11月末で診察を終了する予定だ。
これで正真正銘、完全に医師業からリタイアすることになる。

この決定によって僕の幸福感はどのように高まったか?
もちろん、心躍る気持ちも大いにある。自院を廃院にした時ほどではないが、かなりの解放感だ。
しかし反面、どうにも気が重く、やるせない気持ちになったりもする。
僕を慕ってくれる患者さんに辞職を告げるのが辛いのだ。

それなら5年前の廃院時のほうがよほど辛そうなものだが、実はそうでもなかった。というのも、患者さんからの信頼や好意を今ほど強くは感じていなかったから。
周囲の診療所より頭ひとつ飛びぬけて患者数が多かったから、それなりに頼ってもらっていると感じてはいたが、一方で、「単に一番近いから」という理由で来る患者さんも多くいたはずで、患者さんの受診動機の区別はつきにくい。
それに加え、廃院後も後輩の新医院で週に半日の診療を継続すると決まっていたから、ぜひ僕にという患者さんは都合をつけてその日に来てもらえばいい、とも思った。
現在はどうか。
僕の診察時間に合わせてくる患者さんのほどんどは、「どうしても僕に診てほしい」との希望があってだ。週に4時間一コマの僕の外来に合わせて時間をつくってくれている。
「先生じゃなきゃダメだ」
「今後も続けてよ」
「信頼しているから」
と直截な言葉を頂くことも増えた。
この人たちを失望させるのが本当に辛く、身を切られる思いでいる。

なら週半日の診察くらい続ければいいじゃないと考える人もいると思うが、その週に半日のせいでできないことも意外と多いのだ。
人のためを優先していると、いつまでたっても本当に自分が目指すところにたどり着けない。
たった一度の人生、それでは困る。

半年後、断腸の思いで自由を得るつもりだ。



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頂いた枝についた実が熟すのを待ち、

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収穫。

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ジューンベリーのタルトに。

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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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