前回に続いて、御年88歳の海洋クラブ主宰者、M先生について。
毎日夕刻、プールで子供たちに泳ぎを教え、夏には海で遠泳教室を開いていることは書いた。それだけでも年齢を考えればすごい話だが、M先生の活動はそれに留まらない。
6月から9月はヨットの指導。冬はスキーの指導。指導員の資格ももっていて、つい最近まで子供と自分とをヒモでくくりつけた上で、一緒に滑りながら滑走していた。
月2回のスケート教室。ちなみにこれも指導資格をもっている。数年前には一度、転んで胸の骨を折ったのだが、それでも休まず指導を続けていた。
ギター教室、ウクレレ教室を開き、コロナ禍までは奏者として定期的に老人ホームに慰問にでかけていた。
うちの子たちはバイオリンを習っているのもあり、ウクレレ教室には参加していないが、そのほかは全部、つまり遠泳、ヨット、スキー、スケートでお世話になっている。
もちろん、すべてをM先生ひとりで回せるわけがない。M先生の元教え子、あるは元教え子の保護者たちが、ボランティアとして海洋クラブに参加してくれている。スキーの名人たち、ヨットの達人たち。多くの人が手弁当で子供たちの指導にあたるのは、ひとえにM先生の人格のなせるわざと言うしかない。
この指導陣が、また素晴らしい人ばかりだ。持ち上げるつもりはない。せっかくの休日を使って、よその子供たちの指導に汗をかくような人につまらない人間がいるわけがない。
遠泳教室は2週間続くし、冬、春と2回、5日間のスキー合宿があるから、それで有休を使い果たしてしまう人もいる。彼ら、彼女らの情熱的なボランティア精神からは、僕も妻も大いに影響をうけている。
そういえば、こんなことがあった。
プールでの指導は、平日は5時から6時半と決まっていて、僕は子供たちと一緒に毎週月曜日に参加していたのだが、その月曜日グループの中で1組だけ、定刻より少し早い6時に帰ってしまう母娘がいた。
この後、父親が車を使うので、6時までが限界なのだそうだ。
子供をみっちり指導したいM先生としては、先に帰る子供がいるのがどうにも気に食わない。
ある日、ついに母親にこう言って詰め寄ることになる。
「いい加減、車をもう一台買いなさい。そうすれば早く帰らなくてすむ」
「いや、そういうわけには……お金もありませんし」
母親はそう言って受け流そうとするのだが、M先生は追及の手を緩めない。
「今乗っている車はなんだね?」
「レクサスですが……」
それを聞いたM先生は、ビシリと言い放った。
「ならそれを売って、その金で軽自動車を2台買えばいいでしょうが!」
あまりにご無体な意見に、さすがの僕も唖然としていると、それに気づいたM先生は少し照れたような顔で言うのだった。
「だって、ほら、レクサスに乗れば早く着くわけでもないから……」
子供たちの能力を伸ばしてあげたい一心で、ときにはかなりの無茶を言う。
僕はこういう人がたまらなく好きだ。
ただし、いくら超人的な体力をお持ちといっても、永遠に元気でいられるわけではない。
次回は少し寂しい話になる。
ランキングに参加してます。ぜひ一票を。
更新の励みになります!
↓
にほんブログ村
近所の公園で亀発見!