ひょっとして「豊かさ」が不登校の一因なのだろうか?


もうすぐ2学期ということで、昨日からの続き。なぜ近年、不登校児は増えているのか?
昨日、「いじめ」「厳しい校則」「発達障害」「Highly Sensitive Child=ひといちばい敏感な子(HSC)」などに原因を求める論説に疑念を呈した上で、時期を考えれば共働き世帯の増加は関係している可能性があるが、核家族化やスマホの普及が大きな要素とも考えにくいのでは? と書いた。
今日はその考察を続けたい。

そもそもいつから不登校はいつから問題視されるようになったのだろうか。始まりと思われる昭和での動きをチェックする。
下記は国立教育政策研究所の資料。
https://www.nier.go.jp/shido/centerhp/1syu-kaitei/1syu-kaitei090330/1syu-kaitei.3futoko.pdf

不登校については、学校基本調査において、年度内に30日以上欠席した児童生徒を長
期欠席者として、その欠席理由を「病気」「経済的理由」「学校ぎらい」「その他」に区分して
調査していたが、その後「不登校」という用語が一般的に使用されるようになり、平成10年度から、上記区分のうち「学校ぎらい」を「不登校」に名称変更した。

なるほど、不登校なることばが正式に調査対象として使われるようになったのは平成10年のようだ。確かに僕が子供の頃にその言葉を聞いた記憶はない。

不登校児童生徒の数は、昭和41年度から昭和49年度までは減少傾向にあったが、中学校では昭和50年度から、小学校では昭和58年度から、増加し始めた。

不登校が増えたのは大体1980年ごろと考えていいようだ。
そしてそこから現在へのつながりをみるために、昨日載せたグラフに戻る。

スクリーンショット 2021-06-08 081843

よくみると不登校数が一本調子で上がり続けているのはH13年(2001年)までで、そこからH24年(2012年)までは不登校児の割合がかすかに減少しているのがみてとれる。
そしてH25年(2013年)からは再度、急上昇。
この「不登校児数の増加が止まり、逆にわずかながらも減少した」11年間に謎を紐解くヒントはないのだろうか? と考え、昨日は否定的に捉えた経済動向の動きと比較してみる。
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000181775.pdf

等価可処分所得の推移を世帯主年齢階級別にみると、いずれの階級においても 1994 年もしくは1997 年をピークに 2003 年にかけて減少傾向にあった。2003 年から 2009 年はほぼ横ばいといえるが、2012年から2014年にかけては増加している。

とある。
2014年以降の動きはこちらから。
https://www.financepensionrealestate.work/entry/2020/01/14/191927

スクリーンショット 2021-06-07 185429

その後も2017年にむけて増加、つまり不登校児が再度増加に転じた時期には可処分所得も増加していることがわかる。
富裕層、準富裕層の世帯数も横ばいだったのが2013年から増加。
https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/lst/2020/cc/1221_1
株価でみても、不登校が増えなかった2000年から2012年までは低迷期であり、日経平均は13年間で半分以下に下落している。
その後、安倍政権誕生によって株価、可処分所得が回復するのに合わせて、不登校児も再度増えてきたというわけだ。
「不登校児数の増加が止まり、逆にわずかながらも減少した」11年間は、景気が悪く、富裕層が減少した時期ときれいに重なることがわかる。
しかし昨日書いたとおり、元来、不登校と経済を語るとき、不登校は豊かさとではなく、貧困と関連付けられてきたはずだ。
ではその11年間の子供の貧困率はどのように推移しているのだろうか?
https://resemom.jp/article/img/2020/07/20/57291/263761.html

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見ての通り、1985年からほぼ横ばいとなっている。
細かい変化を追ってみても、不登校が増えなかった2001-2012年では前半は横ばいで後半はむしろ増加。
不登校児数の増加が止まった時期に子どもの貧困はむしろ増えているのだ。
貧困を要因とした不登校はもちろん一定数あるのだろうが、不登校児数の動きと貧困との間に相関関係はないことがわかる。
タイミングで計れば、むしろ経済の拡大や可処分所得の増加が不登校児の増加をもたらしているようにみえてしまうのだ。

そしてこれは僕の個人的感覚にも合致する。
というのも、僕の知っている不登校児は経済的に成功している家庭に圧倒的に多いのだ。
さらにそういう家庭は大抵親のインテリジェンスが高いから、「嫌がる子供を無理に学校に行かせるべきではない」という近年の風潮に従いがちだし、子供に居心地のいいスペースを提供することも容易だ。
もちろんそれが主因とはいわない。不登校の原因は多岐に渡り、単純に解釈すべきではない。
しかし経済の成長時期と不登校児の増加時期がこう見事に重なると、それも一因であるように思えてくる。

念のために言っておくが、だから豊かさが悪いとは言えない。というのも親が不登校に寛容であることによって、さらに悪い事態を未然に防げている可能性もあるからだ。
たとえば児童・生徒の自殺者数は景気が悪く、不登校児の割合が減少した時期には少し増えている。
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/063_7/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2019/02/08/1413285_001.pdf

スクリーンショット 2021-06-08 073228

不登校を許容する環境が自殺を食い止めたのかもしれない。

というわけで僕なりの結論。
富裕層の増加が不登校を増やしている可能性もあるが、必ずしもそれが悪いこととは言い切れない。
とはいえ、豊かさが大きな悲劇を少し減らし、その代償として小さな悲劇を大きく増やすという推測は、僕の実感とも合致する。
これはよく言われる「自由な社会は重度の精神性疾患を減らすが、軽度の精神性疾患を激増させる」現象とも類似しているのではないか?
自由であれ豊かさであれ、人類の歴史上、一般的ではなかった事象を享受するには、慎重な立ち居振る舞いが必要となる、との考察も可能だ。

難しいね。



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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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