先日、中学校2年生の次男が14回目の誕生日を迎えた。
親からのプレゼントは特になし。というのも我が家の次男は子供とは思えないほど物欲がなく、毎年、
「何か欲しいものはないか?」
と聞くのだが、
「特にない。いつか欲しいものができたときのためにとっておいていい?」
と聞き返される状態がここ数年間続いている。
そんな中で迎えた誕生日当日、離れて寮で暮らしている高校3年生の長男から、次男宛てにプレゼントが届いた。
妙に大きな包み。いつもお金がないとピーピー言っている長男からいったい何が?
興味津々で次男が荷物を開くのを見守っていると、中から出て来たのは1枚のCDと、古ぼけたCDプレーヤー。
CDを手に取った次男が歓喜の声をあげる。
最近はそういうものらしいのだが、我が家の息子たちはCDを聴かない。好きなバンドの曲は大抵、ネットから無料でウォークマンなどのデバイスに落とせるらしい。
だから次男はCDをもっていないし、そもそも自室にCDプレーヤーもない。
そんな中、届いたのは次男が好きなバンド、ハンブレッダーズ初のフルアルバム「ユースレスマシン」。次男は初めて自分の所有物となるCDをうれしそうに、ためつすがめつ眺めている。
なんだ、欲しい物、あるんじゃん……。
CDの定価は2,800円とのこと。月々5,000円の小遣いで、親元から離れて暮らしている長男にとっては大きな出費だったに違いない。
次男がCDプレーヤーを持っていないことにはどの時点で気づいたのだろう?
寮で埃をかぶって眠っていた年代物のポンコツを送ってきたようだ。確かに、これがなければ部屋では聞けない。
兄からのメッセージには、
「ほとんどの曲はYouTubeなんかから落とせると思うけど、ネットにはない曲もあるはずだから楽しんで!」
という内容のメッセージがしたためられてらしい。
それを読んだ次男は、
「いや、実は全部ネットにあって、もうウォークマンに落としてあるんだけどね。だから知っている曲ばかり」
と苦笑する。
それでも彼の顔から笑みは消えない。僕ら世代には当たり前のCD付属の「歌詞カード」を、「お、すごいのが入っている!」と取り出して、1ページ1ページ、まるで繊細な対象物を扱う学者の手つきで丁寧にめくっている。
「知っている曲ばかり」が収録されたこのCDはしばらくの間、次男の宝物になりそうだ。
僕はその様子を眺めながら、オー・ヘンリーの短編小説「賢者の贈り物」を思い出していた。
貧しいジェイムズ・ディリンガム・ヤング夫妻が相手にクリスマスプレゼントを買うお金を工面しようとする。
夫のジムは、祖父と父から受け継いだ金の懐中時計を大切にしていた。
妻のデラは、その金時計を吊るすプラチナの鎖を贈り物として買うかわりに、夫妻が誇るデラの美しい髪を、髪の毛を買い取る商人マダム・ソフロニーの元でバッサリ切り落とし、売ってしまう。
一方、夫のジムはデラが欲しがっていた鼈甲の櫛を買うために、自慢の懐中時計を質に入れてしまっていた。
物語の結末で、この一見愚かな行き違いは、しかし、最も賢明な行為であったと結ばれている。(ウィキペディアより)
長男はすでに次男がデータとしてもっている約10曲を、月の小遣いの大半をはたいて買ったことになる。
それでも次男は実にうれしそうだ。実際にCDを所有するという喜びは、彼自身にとってにも予期せぬものだったのかもしれない。
それに2,800円という金額が長男にとっていかに大きいものか、次男にはわかっているはずだし、古ぼけたものとはいえ、CDプレーヤーも併せて準備してくれた気配りも嬉しかったに違いない。
最初に書いたように、僕は次男からのリクエストがないからという理由で、ここ数年、誕生日にプレゼントを贈ることを見送ってきた。
「欲しいものができたときのためにとっておく」のは理にかなった判断だと考え、疑うこともなかった。
でも次男の喜ぶ様子を見ていると、大人として合理的に対処しているはずだった自分の発想がひどく愚かに思えたし、逆に弟をこうも思いやれるようになった長男の成長を感じて目頭が熱くなった。
プレゼントは高価なものでなくていい。相手を思う気持ちがあればいい。
自己犠牲の感じがあれば、もっといい。
そんな、昔は知っていたはずの当たり前のことを、息子たちに教えられた気がした。
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