そんなある日、私はラオスに行く機会がありました。ラオスと言うと、国の名は知っていても、「どこ?」という感じかと思いますが、それはベトナム、カンボジア、タイ、ミャンマー、中国に囲まれた、インドシナ半島にある内陸国。経済規模は、鳥取県の約四分の一ほどと、世界で最も貧しい国の一つです。
(中略)
到着した村には、電機はかろうじてついているものの、トイレやガスはありません。調理は薪や炭で。森がトイレの、川がお風呂の働きをつとめます。
(中略)
子犬と子豚と子供達がかけずりまわっているのをぼーっと眺めつつ、私は思っていました。ラオスに来るまでは、経済的に発展していないラオスを、自分はおそらく下に見ていた。ラオスの発展のために、何かをして「あげたい」と、上から目線で考えていたのです。
が、実際に来てみると、彼等はお金が無いことに焦りや絶望を感じている風はありません。鶏の声とともに起き、晩ご飯を食べたら寝る。それは単調な暮らしではあるけれど、「もっと美味しいものを」「もっとたくさん」「もっと快適に」といった、「もっともっと」という欲求からは完全に開放されています。
(中略)
風呂もトイレもない、自然そのままの暮らし。そして、スイッチ一つで暖かいお風呂に入れるし、トイレでは機会が排便後の尻を洗浄してくれるけれど、放射能を心配しなくてはならない暮らし。正解は、二つの暮らしの間のどこかに存在するのでしょうか。それとも、全く別のところにあるのでしょうか。答えを出すことはできないのだけれど、しかし習慣というものに抗うことはできず、ウォッシュレットつきトイレを夢見ながら、私は村を去ったのでした。
心理学者・バリー・シュワルツは、「現代の先進国においては、選択肢の多さが逆に人々の幸福度を下げている」と述べ、その理由を次のように説明しています。
一、 あまりにも多くの選択肢を前にすると、間違った選択をしたくないというプレッシャーから、人は、ストレスや無力感を感じる。
二、 自分が選んだものに少しでも不満が生じると、選ばなかった他の選択肢への未練により、満足度が低くなってしまう。
三、 選択肢が多いと、商品に対する期待値が上がってしまうので、たとえベストな選択をしたとしても、やはり満足度は低くなってしまう。
四、 自分が取った選択に満足できなかった場合、選択肢が少なければ、店や社会のせいにできるが、選択肢が多ければ、自分を責めざるをえない。
実際に、お店で商品の種類を増やし過ぎると、売れ行きが悪くなってしまう、という実験データもあります。何を買うのかを決めるために、より多くの労力が必要になるので、そのストレスを避けるため、一部の客は購入自体を見送ってしまうのだそうです。
シュワルツ氏は、「全く選択肢がないよりはあったほうがいいが、多ければ多いほどいいということではない。どれくらいが適切なのかはわからないが、現代の先進諸国において、選択肢の多さが私たちに快適さをもたらすという段階は、とっくに通り越してしまった」と結論づけています。
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内山 直
作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。
「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。