お金がない! ~江戸時代の生活から考える。


昨日からの続きで、29人の著述家によるエッセイアンソロジー「お金がない!(河出書房新書)」の紹介。


今日は漫画家であり江戸風俗研究家としても知られる杉浦日向子のエッセイ「江戸の、時間感覚・金銭感覚」から一部を抜粋。

江戸時代の時間は不当時法です。日の出から日没までを六等分して、昼の一刻とし、日没から日の出までを同じく六等分して、夜の一刻としました。つまり、一刻の長さが、昼夜で異なることになります。そればかりか、昼間の長い夏と夜長の冬では、昼の一刻に四〇分ほどの差が生じます。季節にそって、時が伸び縮みしました。日常で使う、もっともちいさな時間の単位は「小半刻」、すなわち四分の一刻で、およそ三〇分に相当します。それ以下の時の区切りは、かれらの生活での出番がなかったのです。電子レンジで五〇秒加熱するとか、一〇〇分の一秒を争うという、わたしたちにとって見慣れた「日常」は、かれらにとって奇異な「非日常」に映るでしょう。
わたしたちにとっての「良い時間」とは、一定間にどれだけ多くの物が詰め込めるか、「時短」と「効率」を問うわけですが、かれらにとっての「良い時間」とは、感動の有無、ああおいしかった、たのしかった、うれしかった、そんな実感の持てたひとときを指し、「仕事がどんどんはかどった時間」は、単なる「忙しかった」に過ぎないとみなすのです。
(中略)
現代の「時」と「金」に求められるのは「早さ」と「量」で、どちらも数字で優劣を並べることができます。それにたいして江戸の「時」と「金」に求められるのは「質」と「使い方」で、そこにはひとりひとりのライフスタイルが反映されることになり、数値には変換できません。
「多忙」を誇示する現代と、「閑雅」を標榜する江戸。たまには小半刻、雲をながめて現代人をサボるのも、オツなもんです。


特に「仕事がどんどんはかどった時間は、単なる忙しかったに過ぎないとみなす」の部分には大いに共感した。
というのも実は僕も自著「幸せの確率」の中で似たようなことを書いている。


一部を抜粋。

そもそも人間は、いつから「生涯の大半を労働に捧げる」ことが普通だとされるようになったのでしょうか? これは実はそれほど昔の話ではなく、産業革命以来であると考えられています。古代ギリシャ人にとって、働くことは卑俗なことであり、自由時間を得るために仕方なくやっているだけで、そこに何ら意味を見出したりはしなかったそうです。現に哲学者・アリストテレスは、「賃金が支払われる仕事はすべて、精神を奪い、弱める」という言葉を残しています。
日本でも、縄文時代の労働時間は、なんと一日に三~四時間にすぎなかったと考えられています。また、江戸時代には、定職につかず、食べ物がなくなると町にやってきて、日雇いの仕事を必要な分だけするという、フリーターのはしりのような人が多くいましたし、たとえば大工といった技術職も、懐具合によって仕事をしたりしなかったり、あるいは、夏の暑い間は長めに仕事を休んだりと、かなりいい加減な仕事ぶりだったようです。
その後、明治時代に入ると、政府が富国強兵策を打ち出し、多くの労働力を必要とするようになったため、今のような厳格な労働形態がとられるようになります。今日まで続くこのフルタイム労働は、たった一五〇年程度の歴史しかなく、しかも、そもそもの始まりは「お上の都合」だったというわけです。
現代社会において長時間働くことは、時としてまるで美徳や武勇伝のように扱われます。酒場を覗けば、仕事の多忙さを競ったり、自慢したりするかのような会話の、なんと多いことか! 古代ギリシャや縄文の時代に自らの労働量を誇ったりしたら、きっと狂人扱いをされたことでしょうし、その感覚のほうが私にはまっとうなように思えます。仕事を一生続けることが正しいことであり、アーリーリタイアなど怠け者のすることだという考え方は、近年、主に支配層の都合から生まれた倫理観であり、人類の歴史を考えてみても、決して普遍的なものではないのです。


僕はアーリーリタイアして現在7年目だが、時間の捉え方はどんどん適当になっている。
午前。起床後は2杯のカプチーノを飲み、新聞を読み、興味の向いた分野の勉強し、ブログを整理し、瞑想し、筋トレをし、大谷の試合があればチェックする。どの順番、あるいはどれに何分かけるといった縛りはほとんどなく、気が向くままにこなしていく。
午後は昼食と軽い昼寝の後、主に読書、ピアノ、ペン習字、ジョギング、風呂に当てる。家事を手伝ったり、子供に勉強を教えたり、あるいは再度瞑想することもある。
夕食の準備が整えば家族とともに食べ、酒を飲み、その後は妻と語らうかテレビで映画をみるか、あるいは本を読んだり音楽を聴いたりしてすごし、眠くなったら就寝。
午前、午後、夕食以降、睡眠の4つの括りがぼんやりとあるだけで、細かい時間の区切りはほぼ存在しない。
細かいスケジュールをこなして「今日も充実した!」と満足しているなんて、近年流行りの奇妙な風習にすぎない気もするのだが、組織の中で働く場合はそう動くしかないんだよなあ。



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内山 直

作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。

「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。

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