僕は4月10日のブログでこう書いている。
“なぜ日本では感染が今のところ、欧米と比較し拡大が抑えられているのか?
まず、単純に人種差である可能性もあると思う。
中国との往来が多いので、一定数が類似ウイルスに対する抗体をもっていた可能性も否定はできない。
ウイルスの型が違うことも指摘されている。
また、BCG接種が有効だという意見もある。BCGが行われていない欧米諸国では重症化しやすいというのだ。これも可能性はあるし説としてはおもしろいが、ちょっと信じがたい気もする。
しかし日本での拡散スピードが少ない一番の理由は、やはり生活スタイルだろう。平時でも手洗いをするし、レストランではおしぼりが出てくる。屋内では靴を脱ぐなど、清潔な環境で生活している。
無症状であっても感冒流行期には予防的にマスクをする習慣がある。握手、ハグなどといった身体的接触は少ない。 “
まさに山中教授によるファクターXだ。
山中教授より1カ月以上早く提言していた、などと卑しいことは言わない(言ってるか 笑)。
今日は予告どおり、このファクターXについて検討していきたい。
提言をざっと3つに分類してみた。
グループA 生活様式や行政の対応といった、人体外の要素
・ 感染拡大の徹底的なクラスター対応の効果
・ マスク着用や毎日の入浴などの高い衛生意識
・ ハグや握手、大声での会話などが少ない生活文化
上記に加え、日本語がもつ特性がある。
日本語は大声を出す必要がなく、唾液も飛びにくい傾向があるそうだ。
グループB すでに体が持ち合わせていた、人体内の要素
・ 遺伝的要因
・ 過去のBCG接種など、何らかの公衆衛生政策の影響
・ 2020年1月までの、何らかのウイルス感染の影響
欧米と比べ肥満率が低いというのもここに入る。
グループC ウイルスの遺伝子変異といったウイルス側の要素
まずはグループA 生活様式や行政の対応といった、人体外の要素。
この影響に異論がある人は少ないのではないだろうか?
日本は世界でも珍しい「予防目的でマスクをする国」だ。
一般的な風邪やインフルエンザの場合、マスクによる予防効果はよくわかっていないが、新型コロナでは発症前から感染力が強いことがわかっているから、発症前の感染者が(そうとは知らず)マスクをすることによる拡散防止効果はとても大きい。
逆に欧米では、たとえ風邪をひいてもマスクをする人は少ない。
「マスクをするのは犯罪者」というイメージがあるようだ。
(一昨日のブログでも書いた通り、スーパーなどでのマスク着用が義務づけられたドイツでは、外出規制緩和後も感染数の減少傾向が続いている)。
そして、「ハグ」や「握手」ではなく「お辞儀」による挨拶でソーシャルディスタンスをとり、唾の飛びにくい言語をもつ。
家に帰れば、当然のように手洗い。飲食店ではおしぼり。
日本人にとっては当たり前の習慣が、かなり高度なウイルス対策になっていたことになる。
というわけで、これら生活様式の影響は間違いなく大きそうだ。
加えて、三密を避け、クラスター班が迅速に動いた効果も、まず疑う余地はないだろう。
次にグループB すでに体が持ち合わせていた、人体内の要素。
肥満が少ないことは、重症化率、死亡率の低さに寄与している可能性が高い。
しかしその他の「遺伝的要因」、「BCG接種」、「何らかのウイルス感染の影響」については、今のところ根拠となるデータも、納得のいく医学的説明もない。
そうであったら興味深いな、という仮説にすぎない。
しかし多くの人がこの要素に興味津々だ。
感染者が先に出たのは日本や韓国なのに、欧米があっという間に追い越していったから、そう感じるのも無理はない。
ある程度勉強している人になると、日本での感染爆発阻止は生活習慣で説明がつくが、致死率の低さまでは説明できない、と主張する(これについてはすぐ後で触れる)。
自分が自粛が嫌なものだから、「人体内の要素」であってほしいという欲求がバイアスとなり、この説を無批判に推している人も多そうだが、それについては以前書いたので今回は踏み込まない。
最後にグループC、ウイルスの遺伝子変異といったウイルス側の要素。
すでに日本では、中国型、ヨーロッパ型、アメリカ型のすべてが出回っていることがわかっている。
「日本で感染者が少ないのは、欧米とはウイルスの種類が違うから」
という説は、ほぼ否定されたと言っていいと思う。
ここで小結論。
上述したように、日本で感染者が少ない理由は「Aの人体外の要素」で十分説明がつく。
僕らはこのウイルスと戦うのに適した生活様式を、はじめから備えていたのだ。
マスクをせず、ハグを好み、唾が飛びやすい言語をもっていた欧米では、まるで違う病気であるかのような勢いで広まってまったく不思議はない。
感染者数に比べてやや複雑なのが致死率だ。
下の表は日本医事新報がネットで公開しているもの。
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14724日本での致死率は4.4%と、表にあるすべての欧米諸国より低い。
ちなみに韓国はさらに半分の2.4%。
まずは日韓の致死率の差だが、これは検査数の多寡で簡単に説明がつく。
日本ではPCR検査の遅れにより、多くの軽症者が検査、診断をうけることができなかった。
検査範囲を広げれば、日本の致死率も韓国と同じ2%台まですぐに下がるはずだ(そして両国とも、実際の致死率はさらに低い)。
日本の致死率が倍になる理由が浮かばないし、診断されないまま治癒した感染者数が韓国の2倍という数字は、感覚的にもしっくりくる(もっと多いのでは、とさえ思える)。
かたや欧米での致死率。
日本に比べて異様な高さに思えるかもしれないが、医療崩壊を起こした国や、そもそもの医療体制が脆弱な国は致死率が高くなって当然だ。
そんな中、日本との比較の対象になりうるのはドイツ。
医療体制のレベルは日本とほぼ同等であり、新コロによる医療崩壊が起きていない。
そのドイツでは致死率は4.5%で、公表されている日本の致死率とほぼ同じだが、日本も同等だろうと先ほど推測した韓国と比べると、やはり2倍近くなってしまう。
この差をBCG接種などを持ち出すことなく説明できるだろうか?
できる。
まずはそもそもの欧米での致死率。
先ほど日韓の比較をもとに、日本の致死率は実際の半分程度の可能性があると書いた。
PCR検査数が少なく、韓国よりもはるかに陽性率が高いからだ。
ところがその陽性率でみると、欧米諸国は日本よりさらに高い。
東京大学保健センターの5月10日のデータだと、陽性率は、
日本 7% ドイツ6%、イギリス12%、アメリカ14%となっている。
http://www.hc.u-tokyo.ac.jp/covid-19/international/欧米でもPCR検査は感染状況に追いついておらず、実際の感染者数は日本同様、少なく見積もられている可能性が高い。
確度の高い致死率を出しているのは、「感染者数は少ないのに検査数が多い」韓国、台湾、(表にはないが)オセアニア諸国くらいで、「感染者数は少ないが検査数はもっと少ない」日本や、「検査数は多いが感染者数がとてつもなく多い」欧米では、実際より高く見積もられていると考えてまず間違いない。
ややこしくなるので他の国は忘れて引き続きドイツと比較すると、発表されている致死率、PCR陽性率ともに、日本とほぼ一致する。
であればドイツでも実際の致死率はもう少し低く、日本に近い可能性がでてくる。
そして感染時の暴露量。
大量のウイルスにさらされた人は重症化率、致死率が高い。
これはイタリアで多くの開業医が死亡したことをみてもわかる(彼らは軽装備のまま、至近距離で患者を診察、検査しなければならなかった)。
日本人はマスク装着や、ソーシャルディスタンスをとる生活様式により、たとえ感染しても暴露量は少なくすんだ可能性がある。
日本の生活様式は感染者数だけでなく、致死率も下げうるというわけだ。
そこに前述した肥満率の低さ(重症化しにくくなる)を考えあわせれば、「遺伝的要因、BCG接種、何らかのウイルス感染の影響」といった要素をわざわざ持ち出さなくても、致死率の低さは十分に説明できてしまう。
逆にもしこれらの要素がコロナに有効だと仮定すると、今度は日本とドイツとで致死率があまり変わらない現状の説明がつかなくなる。
「これらの要素は関係がない」という根拠があるわけではない。後々関連が証明される可能性もある。
しかし人体外の要素だけできれいに説明がつくのに、医学的根拠に乏しい人体内の要素をあえて持ち出し、強調する必要は現時点ではないだろう。
(理論づけ可能なら何でもありならば、例えば『酒が弱い人が多い国では感染爆発が起きにくい』という珍説だって、都合のいい情報のみを取捨選択することにより、もっともらしい図表を作ることができる。そして、アセトアルデヒドがウイルスに効くのだ、とでも理屈をつければいいわけだ。余興としては楽しそうだが、科学的に真摯とはいえない)。
さらに昨日も書いた通り、在外邦人の状況については、
「5月14日時点で感染者93人、うち7人の死亡を確認」
と報告されている。
致死率は7.5%で、これはイギリスやフランスよりは低いが、アメリカ、スイスよりも高い。
海外で生活している日本人の致死率は決して低くないことになり、このデータも、生活様式が主たる「ファクターX」であることを示唆している。
サンプル数が少ない上に、詳細が公表されていないので決め手にはならないが、少なくとも僕の仮説との相性はいいようだ。
「人体内の要素」を無視するとなると、最後に残る疑問は、なぜ東アジア以外のアジアでも感染者数や致死率が低いのかということ。
彼らは日本人より密着度は高いし(同性同士でよく肩を組んだりしている)、手洗いやマスク装着の意識は低い。
しかしよく表を見てみると、致死率はすべての国が低いわけではなく、インドネシア、フィリピンといった島国はアメリカより高い。
(ちなみにアメリカではBCGワクチンの広範な接種が行われたことはなく、逆にインドネシア、フィリピンでは行われている)。
その一方、タイでの致死率は新コロ優等国の韓国よりもさらに低く、シンガポールにいたっては0.1%と、にわかには信じられない数字が算出されている。
これでは感染者の報告数も眉につばをつけて見なければなるまい。
そもそもこれら途上国で一般市民がどの程度容易に医療機関を受診できるのか、そしてどれだけしっかりと診断や報告がなされているのかがわからない。
さらに高温多湿な気候、冷房の普及率の低さ(レストランでもオープンエアのところが多い。つまり換気がなされている)、人口に占める若年層の多さといった、人種性とは別の利点が見受けられ、これにより日本と欧米諸国を比べるときには不要だったバイアスが生じてしまう。
残念ながら、現時点でもっともらしい結論を得るのは難しい。
しかしこの程度の数字を根拠に、
「アジア人は欧米人よりも新型コロナウイルスに強い要素を体内にもっている」
と決めつけるのは早計だとは言っておきたい。
最後にXファクターに関してまとめる。
1、Aの「生活様式、クラスター班」の影響はまず間違いなく大きく、Bからは「肥満の少なさ」が利点になっている可能性が高い。
2、Bの肥満以外、すなわち人種、免疫、BCG接種といった要素が影響している可能性は否定できないが、今のところそれを示唆するはっきりしたデータや医学的知見はなく、また、それなしでも十分に説明可能である。日本とドイツの致死率の近さを考えれば、関連がない可能性が高い。
3、ウイルスの遺伝子変異によるものとは考えにくい。
やはり特筆すべきはマスク文化だろう。
流行の初期から、行政からのアナウンスや規制なしで、多くの無症状感染者がマスクをしていてくれたのだ。
この効果が絶大でないわけがない。
清潔を好む日本文化の勝利だ! などと叫ぶとちょっと愛国主義者っぽくなっちゃうけど。
こんなに薄いのに、あなたの体を守ってくれる! なんていうと、違う物のキャッチコピーみたいになっちゃうけど。
でも、これが現時点での僕の結論だ。
偉そうに書いているが、僕だって感染症に関しては一素人に過ぎない。
単なる数字合わせと言われれば、それまでのこと。
だから、もしあなたがこの推論に乗るようなら、掛け率は「せいぜい篠沢教授レベルで」、と忠告しておく。

タイ。カオマンガイ。
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