私が学生時代にバーテンダーとしてアルバイトをさせてもらっていたお店に、先日、ふらりと立ち寄った時のこと。何杯か飲んで、いい加減酔いが回ったところで、マスターに、「またここでアルバイトをしてみたいなあ」と話してみたところ、「いつでも戻ってこい。歓迎するぞ」と言ってもらい、とてもうれしく思うとともに、リタイア後も少しは稼げばいいじゃないか、というアイディアが浮かびました。義務感を伴う労働としてではなく、経験を楽しむつもりで、気が向いた時にアルバイトでもすれば、資金繰りにおけるひとつののり代になるでしょうし、それに、たまの労働は脳トレにもいいように思えます。
もっともその時は、マスターがおもむろに手帳を開き、「で、週何回のシフトにする?」と聞いてきたので、心の準備ができていなかった私は、言葉を濁して退散してしまったのですが。
シェイカーなんてずっと振ってないから、バイトをするなら、少し練習をしないといけないなあ。
アルバイト以外でも、アーリーリタイア後、やりたいことに打ち込めば、それが人の役に立ち、結果として幾ばくかの収入に繋がるというようなこともあるかもしれません。オレが本気で遊べば、それが仕事になる・・・そんな状況、格好いいですよね! そして、いろいろと調べてみた結果、実際にアーリーリタイアをするのであれば、それはかなりの確率で実現可能であることがわかりました。
計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)という言葉を聞いたことはありますか? これは、二〇世紀末、スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授によって提唱されたもので、個人のキャリアの八割は予想しない偶発的なことによって決定されるとした上で、その偶然を利用して、自分のキャリアをより良いものにしていこう、という考え方です。
従来、キャリアというものは、意図的に職歴を積み上げて作り上げていくものだとされていました。しかし、クランボルツ教授は、「変化の激しい時代において、あらかじめ計画したキャリアに固執したりすることは、もはや有用ではない。むしろ積極的に行動し、しっかりとアンテナを立て続けることによって、偶然をそのままやり過ごすのではなく、ステップアップの機会へと変えていくべきだ」と説いたのです。
そのために必要な行動指針として、クランボルツ教授は下の五つをあげ、これらを誠実に実践できれば、その人には多くのチャンスが巡ってくるだろう、と考えました。
一、 好奇心・・・いろいろなことに興味を持ち、学ぶことをやめないこと。
二、 持続性・・・失敗に屈せず、努力し続けること。
三、 楽観性・・・必ず実現する、とポジティブに考えること。
四、 柔軟性・・・こだわりを捨て、柔軟な態度をとること。
五、 冒険心・・・結果が不確実でも、リスクを取って行動を起こすこと。
実はこれらはすべて、アーリーリタイアに成功した人に備わっている特性なのです。柔軟性がなければ、アーリーリタイアを目指したりはしないでしょうし、持続性がなければ、それに必要な条件を整えることはできません。さらに、冒険心や、ある程度の楽観性は、最終的なリタイアの決断には不可欠ですし、好奇心は、アーリーリタイアさえすれば、必ずあなたの中で芽生えてきます(その理由は、この章の後半でしっかりと説明します)。
つまりアーリーリタイア後、やりたいことに打ち込めば、それが結果として収入や、より高いキャリアにつながる可能性が高いということになるのです。現に私だって、最高に楽しみながら書いたこの本から、幾ばくかの収入を得ることでしょう。
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内山 直
作家、医師、医学博士。
1968年新潟県新潟市に生まれる。新潟大学医学部卒業、同大学院修了。
2004年に独立し自分のクリニックを立ち上げ、「行列のできる診療所」として評判を呼ぶが、その後アーリーリタイアメントを決意。
2016年2月、クリニックを後輩医師に譲りFIRE生活を開始する。
地方都市でゆるゆると生息中。
「お金、地位、美貌」で得られる幸福はたったの10%で遺伝が50%とされています。
残りの40%に目を向ければ、幸せはすぐにやってくる!をキャッチフレーズに幸福の啓蒙活動を継続中。